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祖母、ルンバを買う

家にお手伝いさんのいる生活。
ルンバ。まだ会えてないけど動く姿が愛おしい。一所懸命に部屋の隅々を動き回るまんまる。
祖母がペットでも飼ったかのような感覚だ。早く会いたい。抱きしめてキスをして、名前をつけてともに眠りたい。あわよくば子供を産んで私の家にも置いて欲しい。
私が生涯で掃除した時間より既に長く働いてくれているんだろうな。
音のない世界を生きる祖母は、補聴器があっても左は全く聴こえない。右も少し聴こえる程度だ。
ルンバ、大人しくないものも発売してくれて良いんだよ。祖母が家で一人ぼっちだと思わない時間が少しでも増えると良いな。
旦那も弟も今年に亡くなった祖母。
私の仕事の話を母から聴くとき、誇らしくて毎度泣いてしまうらしい。私、おちんちんの修正する仕事なんだけどな。へへへ。

祖母の中で私は神である。私の言葉はありがたく、私の行動は世界の意思だと思っている。
ちなみに弟は王子様だ。王子〜と呼ぶ。たまに。私は小さい頃姫、と呼ばれていた。たまに。

今までずっと、祖父母は弟のことが大好きで私のことはそうでもないんだろうなと感じていた。親族の中で初めての男の子だ。よく食べ動く彼が祖父母は眩しかっただろう。私は学がなく漫画漬けの可愛げのない子供だったし、しょうがないなと思っていた。
父方の祖父母には大層可愛がられ(あまり記憶はない)そこでバランスを取っていたのかなと思う。
でも実際はそんなことなくて、いつだって一番甘やかされていたのは自分だったんだな。なんて。今更気づいてしまう。遅いよ。

祖父の遺言は「詩を沢山読みなさい。」だった。情緒豊かに、その時代を生きた人の思いを汲み取りなさい、と言っていたような気がする。
最初は「私をサイボーグだとでも思ってるのか?」と思っていたが、祖父なりの思いやりだったんだろう。どんな人間になりなさい、でもなく、素敵な人間になるための一つの方法を指し示してくれたのだ。

ルンバに人工機能をつけて、祖父の記憶をうつしてくれ。
掃除が苦手だった祖母の代わりに片付けをしていた祖父の姿を思い出す。ルンバに重ねるのもどうかと思うけど。あまりにも重荷だよ。
それで、もし、記憶とかうつせるなら、もっと、もっと、色んなこと教えてほしかったな。
祖父の経済学も国際社会論も、政治についても、興味が持てなくて聞いてるフリしてたけど、今だったら。また聞き流しちゃうかな。もう遅いよ。

今日も詩なんて読めなかったよ。

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