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宇和島藩十万石の誇り(少し辛口)

1.宇和島城
http://www.city.uwajima.ehime.jp/site/uwajima-jo/

 伊達家十万石の城下町、宇和島市の中心であり、リアス式海岸地域の最深部に位置する元は海城。江戸期の新田開発によって周囲の海は埋め立てられ、現在の平山城の外観となった。総郭部分28万平米は失われたものの、本丸と二之丸の郭を含む10万平米の城山は昭和12(1937)年、国史跡(昭和12年)となった。

 藤堂高虎創建とされる望楼型天守を、伊達家2代宗利が寛文6(1666)年に三重三階総塗籠式、層塔型に再建。万延元(1890)年と昭和35(1960)年の大修理を経て現在に至る。昭和9(1934)年、国重要文化財に指定。

 駐車場のある長屋門から登城したが、本来家老である桑折家屋敷跡から移築されたものであり、武家屋敷の建造物としては貴重ながら、登城口としては物足りない。また急な石の階段が続き、天守まで気軽に登る、というわけにはいかない。(反対側の登城口は少しはなだらかとの事だが)高齢者や幼児、身体障がい者、たまたま訪れた市外からの来訪者にとって、天守の最上階に上がる事も含め、宇和島城はハードルがかなり高かった。

 元々、近世の戦闘の際の防御拠点として建設された城郭を、現代人の誰もが気軽に訪れることができる現代の観光地とするには、動線において課題があることが分かった。また、勾配の大きな石垣にはかなりの植物が生い茂っており、石垣の劣化も心配になった。

 一方で、平城である高松城は中心部にあってアクセスしやすく、東西の入口となっている門から城内を移動するのは容易であり、観光地としては有利である。しかしながら観光的には、平面上を移動するだけでは物足りない面もある。特に天守は、城下を見下ろす展望台としての役割を無意識のうちに求められている。高松城天守復元に関しては、歴史的建造物であると同時に、より多くの観光客と地元住民が天守最上階まで上ることができ、満足ができる観光施設というコンセプトも、建築設計の際に陰ながら取り入れられれば、と思った。


2. 宇和島市立伊達博物館
https://www.city.uwajima.ehime.jp/site/datehaku-top/

 昭和47(1972)年に市制五十周年を記念して建設された、伊達家所有の大量の物品を保管・展示する博物館。かつて歴史教科書によく掲載されていた、国指定重要文化財の豊臣秀吉画像が有名。

 伊達政宗の家臣で、政宗の長男秀宗の宇和島移封に従って宇和島藩家老となった山家清兵衛は嫉妬する藩士による讒言を信じた藩主により、息子ともども殺害された。それ以降、関与したものが変死したことにより和霊神社として祀られ、四国中国を中心に日本各地に祀られているとの事。その「没後四〇〇年山家清兵衛」展が開催されていた。

 元校長という館長さんは当館に来て初めて知ることが多いそうで、社会科教員というわけでも無さそうだった。しかしモチベーションは高くて「天守入場料と博物館との共通入場券も市は検討してくれない」とボヤいていた。また館内を見て回ったのだが、せっかく素晴らしい展示品が数多くあるにもかかわらず、見せ方が今ひとつ残念に感じられた。手前味噌ながら、わが高松市の歴史資料館や菊池寛記念館の学芸員さん達なら、もっと上手に展示を構成し、解説をつけ、ディスプレイするような気がした。

 今後、高松城天守復元に向けて機運を盛り上げ、また、将来的に天守完成後の入場者数がL字型で推移しないためには、案外、当事者ではなさそうな市内各施設の学芸員さん達はじめ、さまざまな面から高松城について語ってもらう事が重要かも知れない。

 そして高松城に関するさまざまな物語を発信し、ひいては、高松市民の子どもから大人までの誰もが、お城について、殿様について、家臣について、農商工業について、城下のまちづくりについて、等々ある程度一般常識として知っていて、市を訪れた訪問者に語れるようになることが大切だと思う。沖縄在住時にも感じた事だが、おそらく世界遺産等の観光地がある市町村では、それが当たり前になっているのではないだろうか。


3. 木屋(きや)旅館
http://kiyaryokan.com

 明治44(1911)年創業の木造二階建て。後藤新平や犬養毅などの政治家、司馬遼太郎や五木寛之などの作家が宿泊したとの事。平成7(1995)年廃業したものの、平成24(2012)年に新しい滞在型の観光名所として再生オープン。

 歴史的建造物を保存するために、旅館一棟をまるまる貸す、という新しいコンセプトの宿泊施設としてリフォームし、インバウンドも視野に入れた営業を展開している。また観光案内所およびアート系のオシャレな土産物の販売店、さらに観光施設そのものとして際立った存在である。

 ただし宿泊施設の色が濃いことから、イベント開催でもあれば別だが、地元住民の来場は見込めず、あくまで市外からの宿泊客がメインとなるかと思われる。しかしながら火の使用はできない事から暖房は不十分で、特に冬場の寒さは厳しく、秋の今がいちばん良い季節とのことである。

 というわけで、この施設には、何より歴史的な旅館をそのまま残したいという行政や市民の意向が強く、必ずしも宿泊者のニーズに応える宿泊施設、とは感じられなかった。

 グランピングやGO toトラベルでの高級志向など、宿泊に対する満足度のハードルが上がる中で、どの客層にアピールできるのかは未知数。市当局を介する公的な視察ではなかったので売上等の詳細については確認できなかったが、古い建築物を商業施設としてリノベーションする場合、高松市における北浜アリーの展開のように、あくまで民間主導で行政がサポートできる部分があればする、というのが望ましいと思われた。

 
4. 道の駅うわじま きさいや広場
https://www.kisaiyahiroba.com

 平成21(2009)年に宇和島港近くの国道320号線にオープンした交流拠点施設で「きさいや」とは「来てください」という意味の愛媛県南予地方の方言。

 200台を超える駐車スペースがあり、宇和島の海産物から農産物、米や地酒、お惣菜など日常的な食料品や、さまざまなお土産物など宇和島に関する食材が何でもそろっている。レストランも併設されており、姉妹都市である北海道当別町、宮崎県大崎市、仙台市、長野県千曲市の商品も販売、特に北海道当別町に生産拠点のチョコレート工場があるロイズを通年販売する西日本唯一の店舗がある。

 とにかく敷地面積も建物も広く、商品も多方面にわたり充実しており、集客力がある。港の近くというロケーションも海産物販売に影響していると思われる。

 高松市内の道の駅源平の里むれや中央卸売市場の場外市場が思い出されたが、規模も集客も残念ながら格段の差があり、高松では地元住民と観光客の(既存スーパーでは飽き足らない)食に対する潜在的ニーズを受け止めきれていないのでは、と感じた。
以上

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