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博物館学

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博物館学に関する記事を纏めています。
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#考古学

英国のストーンサークル: 研究史と近年の動向

はじめに  英国には、約1300のストーンサークル (環状列石) が点在します。時代としては主に新石器時代後期から青銅器時代に亘りますが、多くは約5000年前頃のものです。最も有名な遺跡であるストーンヘンジと最大の遺跡であるエーヴベリーは、1986年にユネスコ世界遺産に登録されました。これらの遺跡は多くの人々の関心を集め、関連する出版物は膨大な数にのぼります。  ストーンサークルは、特に17世紀以降、好古家らの関心を集め続けてきました。その人気は、紙媒体・デジタル共

英国の考古学: 近年の発掘調査・文化財行政の動向

発掘調査とインフラ事業 今日の英国における考古学調査・発掘の大多数は、インフラ開発プロセスの一環として行われます。ケンブリッジ州のA14やロンドンと北東イングランドを結ぶ新高速鉄道HS2、ロンドンの地下を横断する新路線クロスレール計画等、大規模なインフラ整備事業は、多くの考古学的新発見を齎しました。A14では、先史時代の集落、モニュメント、埋葬地、ローマ軍宿営地、農地、陶器窯、アングロサクソンの村落等の調査に繋がる28kmの試掘堀の発掘が行われました。クロスレール計画からは

古代オホーツク文化の集落: 網走市郷土博物館分館 モヨロ貝塚館

館の所在地域 モヨロ貝塚館は、北海道オホーツク総合振興局管内の網走市に位置します。  網走市は、能取岬南東の内湾した場所に位置し、冬季の激しい北西風を避けるのに適した地形を有します。内陸部は森林や農村地帯が広がり、市域は「網走国定公園」の一部に指定されています。オホーツク文化期を中心に、縄文・続縄文・擦文・アイヌ各文化期に渡り、人類が生活した集落の痕跡が市内各地に残されているのも特徴です。  現在、網走市は水産業が盛んで、すり身発祥の地としても知られています。また、故高倉健さ

人類と自然 一万年の営み: 標津町ポー川自然史跡公園

館の所在地域 標津町ポー川自然史跡公園は、北海道根室振興局管内の標津郡標津町に位置します。  標津町は、西部は知床連山から続く根釧台地が、東部は標津川・忠類川等の河川沿いに低湿地が、それぞれ広がっており、豊かな自然環境に恵まれています。約1万年前には既に人類が生活しており、標津遺跡群からは、縄文・続縄文・擦文・アイヌ各文化期の遺物が多数出土しています。  現在、標津町は農業や漁業が盛んであり、サケ・マス・テンサイ・畜産品等が名産品として知られています。 館の沿革 同館は、

アイヌ文化と植生: 旭川市博物館分館 アイヌ文化の森伝承のコタン

館の所在地域 アイヌ文化の森伝承のコタンは、北海道上川総合振興局管内の旭川市に位置します。  旭川市は、石狩川・牛朱別川・忠別川・美瑛川等の合流地である上川盆地に位置しており、気温の年較差が大きい内陸性気候となっています。縄文時代には既に人類が生活しており、中近世以降には、石狩川と忠別川の氾濫原付近を中心に、主に漁業を生業とする上川アイヌの集落が発展しました。神居古潭等、アイヌ関係の文化遺産や信仰の場が多く遺されているのも特徴です。  現在、旭川市は、道庁所在地の札幌市に次ぐ

擦文・オホーツク文化の交響曲: ところ遺跡の館

館の所在地域 ところ遺跡の館は、北海道オホーツク総合振興局管内の北見市に位置します。  北見市は、東西が約110kmに及び、北海道最大の市域(全国4番目)を有します。市内各地には、縄文時代からアイヌ文化期に至る迄の遺跡が数多く残されており、先史時代より狩猟採集社会が発展していたことが知られています。  現在、北見市は農業や漁業が盛んであり、タマネギや白花豆は日本一の生産量を誇り、ホタテも名産品として知られています。また、同館の所在する旧常呂町はカーリングのアスリートを多数輩出