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博物館学

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博物館学に関する記事を纏めています。
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#美術史

【批評】『天皇皇族實錄』ジャパンナレッジ版

はじめに  令和4年9月、『天皇皇族實錄』電子版の一部公開が始まりました。令和6年夏には、全巻が公開される予定です(有料)。  『天皇皇族實錄』・『四親王家實錄』は、皇室についての史料集です。初代神武天皇から第121代孝明天皇迄の歴代天皇(北朝の天皇5代を含む)及び皇族方に関する文献史料類が掲載されています。  昭和11年に宮内省図書寮により編纂された『天皇皇族實錄』は、計3050名の歴代天皇及び皇族方が収録されています。 一方、『四親王家實錄』は宮内庁書陵部が昭和59年に

英国の考古学: 近年の発掘調査・文化財行政の動向

発掘調査とインフラ事業 今日の英国における考古学調査・発掘の大多数は、インフラ開発プロセスの一環として行われます。ケンブリッジ州のA14やロンドンと北東イングランドを結ぶ新高速鉄道HS2、ロンドンの地下を横断する新路線クロスレール計画等、大規模なインフラ整備事業は、多くの考古学的新発見を齎しました。A14では、先史時代の集落、モニュメント、埋葬地、ローマ軍宿営地、農地、陶器窯、アングロサクソンの村落等の調査に繋がる28kmの試掘堀の発掘が行われました。クロスレール計画からは

「國稀」「北海鬼ころし」「初代泰蔵」: 國稀酒造株式会社 國稀酒造資料室

館の所在地域 國稀酒造資料室は、北海道留萌振興局管内の増毛郡増毛町に位置します。  増毛町は、ほぼ一年中積雪のある暑寒別山系に三方を囲まれており、良質な醸造水を得るのに適した地理的環境を有しています。また、江戸時代より海運の要衝として発展した増毛港からは、「北のウォール街」とも呼ばれた小樽市への日帰りが可能である他、鉄道網の発展により、札幌圏・旭川圏という北海道二大都市圏へのアクセスが容易であるという交通条件により、開拓期を通じて國稀酒造を始めとする諸産業が発展しました。  

「男山」「木綿屋」「哥麿之名取酒」: 男山株式会社 男山酒造り資料舘

館の所在地域 男山酒造り資料舘は、北海道上川総合振興局管内の旭川市に位置します。  旭川市は、大雪山地麓の扇状地末端に位置し、冬季寒冷な気候の為、大雪山地からの雪解け水が豊富である事に加え、主要河川沿岸の砂礫が堆積する地域は地下水に鉄分がほぼ含まれていないことから、上質な醸造水を確保するのに適した条件を有します。一般的に、明治期の北海道産米は品質が極めて粗悪で評判が悪かったものの、旭川では、稲作技術の改良や新品種の育成が積極的に行われた他、石狩川・忠別川等大小の河川を活用した

時を超えて語り掛ける伝統工芸作品: 平取町立二風谷アイヌ文化博物館

館の所在地域 平取町立二風谷アイヌ文化博物館は、北海道日高振興局管内の沙流郡平取町に位置します。  二風谷は、自然豊かな沙流川流域に位置し、冬季も積雪が少なく過ごしや易い環境です。旧石器時代には既に人類が生活しており、「カンカン2遺跡」「二風谷遺跡」等、先史時代から中近世に至る迄の文化遺産も多く所在します。また、奥州から逃れた源義経が居館を構え、アイヌの人々から神として慕われたという伝説も残されています。  現在、平取町では農業が盛んで、びらとり和牛、ニシパの恋人(トマト)等

アイヌ文化と植生: 旭川市博物館分館 アイヌ文化の森伝承のコタン

館の所在地域 アイヌ文化の森伝承のコタンは、北海道上川総合振興局管内の旭川市に位置します。  旭川市は、石狩川・牛朱別川・忠別川・美瑛川等の合流地である上川盆地に位置しており、気温の年較差が大きい内陸性気候となっています。縄文時代には既に人類が生活しており、中近世以降には、石狩川と忠別川の氾濫原付近を中心に、主に漁業を生業とする上川アイヌの集落が発展しました。神居古潭等、アイヌ関係の文化遺産や信仰の場が多く遺されているのも特徴です。  現在、旭川市は、道庁所在地の札幌市に次ぐ

擦文・オホーツク文化の交響曲: ところ遺跡の館

館の所在地域 ところ遺跡の館は、北海道オホーツク総合振興局管内の北見市に位置します。  北見市は、東西が約110kmに及び、北海道最大の市域(全国4番目)を有します。市内各地には、縄文時代からアイヌ文化期に至る迄の遺跡が数多く残されており、先史時代より狩猟採集社会が発展していたことが知られています。  現在、北見市は農業や漁業が盛んであり、タマネギや白花豆は日本一の生産量を誇り、ホタテも名産品として知られています。また、同館の所在する旧常呂町はカーリングのアスリートを多数輩出