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かえるか、そうでないか

少女A :金髪のお人形さんみたいな子。なんだか得体がしれない。
少女A01:
少女A02:
少女B :黒髪の日本人。黒いものが見える。
アナウンサー 不問:

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(少女Bの啜り泣き)

少女A 「ねえ君」

少女B 「っひ、だ、誰…っ?」

少女A 「そんなに怖がらないで」

少女B 「怖いよ。ここは何処?私、うちで寝てただけなのに…っ。気づいたら、こんなところに、いて…っ」

少女A 「立って。こっちにおいで、」

少女B 「どうして?いやだ、いきたくない」

少女A 「おいでよ。そっちは暗いじゃない」

少女B 「いやだ。いや。いきたくない。いきたくない!!」

少女A 「どうしてそんなに嫌がるの?」

少女B 「いやなの。そっちだって暗いし、とにかく嫌。きみにはわからないよ!!」

少女A 「もしかして。なにか、見えてる?」

少女B 「……」

少女A 「大丈夫。これはこわくない。私がいるから、怖くない」

少女B 「やだ、ひっぱらないで!!」

少女A 「大丈夫、本当に。私を信じて」

少女B 「いやだ、いきたくない!!」

少女B 「っっ……あ、あれ…?眩し……」

少女A 「ね、大丈夫だったでしょう。こわくない」

少女B 「ここは…?あいつらは…?」

少女A 「さあ」

少女B 「急にいなくなった」

少女A 「そうね」

少女B 「…どうして?」

少女A 「さあ、どうしてだろう?」

少女B 「きみ、まさか」

少女A 「私はなんにもしてない。体質なの、こういう。だから大丈夫よ。この先も」

少女B 「この先って…?」

少女A 「ついてきて」

少女B 「ねえ」

少女A 「なあに?」

少女B 「いつまで歩き続けるの…?」

少女A 「んー。もう少しかな」

少女B 「本当に?」

少女A 「たぶん、きっと、そうよ」

少女B 「曖昧…」

少女A 「ここはそういうところだから。…私にもわからないの」

少女B 「っはぁ…はあ、ねえ、きみはさ、どうしてあそこにいたの?」

少女A 「どうしてだろう」

少女B 「どうしてだろうって、そういうところも誤魔化すわけ?」

少女A 「誤魔化してるかな」

少女B 「そうでしょ。澄ました顔して、わたしになにもわからないように振る舞ってる」

少女A 「…そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないよ?」

少女B 「気持ち悪いのがうようよいるところに、きみは立ってた」

少女A 「そうね。でも…君も、…ううん」

少女B 「ああもう、いい。……きみと話していると疲れる」

少女A 「私はそうは思わないけどな」

少女B 「きみは自分から話しかけてこないから、そうなんでしょ」

少女A 「そう?じゃあ私からもなにか話そうか」

少女B 「さっきから質問してることはのらりくらり躱すのに、自分勝手だ」

少女A 「どうしても話したいなって風だったから」

少女B 「そう言われるとムカつくなあ」

少女A 「あーあ。君こそ自分勝手だよ。ほら、足をとめないで。もうすぐ、日が暮れるわ」

少女B 「ねえ、ねえったら」

少女A 「なあに?」

少女B 「もうすぐって言ったよね」

少女A 「もうすぐよ」

少女B 「全然そんなことない…もうすっかり夜じゃない!どこに向かって…」

少女A 「ほら。もうすぐ」

少女B 「……駅?さっきまで見えてなかった」

少女A 「そう?ずっと見えてたよ」

少女B 「電車が通っているの?」

少女A 「そうみたいね」

少女B 「そうみたいって、また曖昧」

少女A 「大丈夫よ。私がいるもの」

少女B 「……確かにきみといたらここまで何もなかった」

少女A 「そうでしょう。だから安心して。…ひょっとして、疲れてる?」

少女B 「当たり前でしょ!ずーっと、今までどれくらい歩いたか。もう足が棒みたいだよ」

少女A 「じゃあ列車で足を休めるといいよ。…またきっと、長い旅になる。君、今度はお尻がいたいって、騒ぎ出したりしてね」

少女B 「そんなに長旅なの?」

少女A 「そうなるんじゃないかな」

少女B 「私達、どこにいくのよ!」

少女A 「さあ」

少女B 「あの時からずっと思ってた、きみは何者なの」

少女A 「そんなこと今となってはどうでもいいんじゃない?」

少女B 「どうでもよくない!」

少女A 「君は本当に意地っ張りだなあ」

少女B 「いいから答えて」

少女A 「そんなことより、電車が来るわ」

少女B 「ホーム…?えっ、切符は…」

少女A 「ちゃんとあるよ。だから大丈夫」

少女B 「見たことのない、電車」

少女A 「乗って。席はどこでもいいよ」

少女B 「…私怖い」

少女A 「どうして?」

少女B 「どうしてって…!!ずっと意味のわからない空間で誰なのかもわからないあんたと一緒で、どこにつれていかれるかどうかもわからない!!こんなの頭がおかしくなっちゃうよ!!」

少女A 「騒ぐのは車内に入ってからにして。大丈夫、誰も乗ってないから迷惑なんて気にしなくていい」

少女B 「そんなのおかしいじゃない!!」

少女A 「早く」

少女B 「いや」

少女A 「早く。列車が出てしまう」

少女B 「いい加減にして!!」

少女A 「お願い、乗って」

少女B 「乗りたくないっ」

少女A 「っっ、乗って!!早く!!これを逃すわけにはいかないの!!しかたが、ないなぁ!」


少女B 「っは…!?」

少女A 「…おはよう」

少女B 「私、…」

少女A 「ずいぶん眠ってたね」

少女B 「ここって…あの電車の中!?」

少女A 「そうよ」

少女B 「どうして乗せたのよ!!」

少女A 「…連れて行かなくちゃいけないから」

少女B 「連れて行くって、どこに!?」

少女A 「……」

少女B 「なんで黙るの」

少女A 「(ため息を一つ)あのね、これから話すことを、よく聞いて。この先、きみは審判を受けることになる。かえるか。そうでないか。それを選べと言われる」

少女B 「…帰れるってこと?」

少女A 「いい?きみは、かえると答えてはいけない」

少女B 「どういう事?それじゃあ帰れないってことになるじゃない!」

少女A 「かならず、そうでない、と答えてほしいの」

少女B 「そうでなくなったらどうなる訳?私はずっとこの空間に居続けなくちゃいけないってことになるの?」

少女A 「……私から言えるのはそれだけよ」

少女B 「どういう事……ぜんっぜん、意味がわからない…!!いい加減にして…もう、ずっと嫌なのに…ずっと、一人で怖いのに…」

少女A 「君はひとりじゃない、私がいるから、怖くない」

少女B 「あんたはずっとそればっかり、あんたといたって、怖いだけよ。私はあんたが怖い。私はずっと一人なのと一緒だよ…」

少女A 「……それは、少し傷ついちゃうな。でもしかたないのもわかってる。私にできることは本当に少ない。信用してもらえないのも、きっとしかたないことなんだろうね。それでも…私はきみに大丈夫。私がいるから。そうとしか言えない。ねえ、どうか私のいうことを聞いて。私を信じて。
(大きく息を吐いて)……きみを助けたいの」


少女A 「…っ、う、ぐ…っ」

少女B 「…!?ちょっ、なによあんた…!なにこれっ、えっ、今のって銃声……!?」

少女A 「……っ、こ、れ、だけでも…だめ、か…。ねら、われる……っ、はしって…、れっ、しゃ、の奥に…っ」

少女B 「っ血が…っ」

少女A 「かまわ、ないで…、はやく、いって……!早く……!!」

少女B 「っ、もう、どうなってるのよ……!!」

少女A 「……っはぁ、それで、いい……あと、は……頼む、ね……」



少女B 「こ、こは……。元いた、ところ……?」

(少女Aが二人現れる)

少女A01 「きたわ」
少女A02 「きたわね」

少女B 「っ…、どういう、事…?」

少女A01 「ずいぶん早い」
少女A02 「お着きですね」
少女A01 「あの子が」
少女A02 「しくじりでもしたのでしょう」

少女B 「待って、あの子って……」

少女A01 「それでは」
少女A02 「審判を」
少女A01 「始めます」

少女A01 「あなたに尋ねます」

少女A01 「かえるか」
少女A02 「そうでないか」
少女A02 「選んでください」

少女B 「そ、そんなの…決まってる…」

回想、少女A(私を信じて、君を、たすけたいの)

少女B 「ああもう、どうして…っ」

少女A01 「さあ、早く」

少女B 「そうでない…!!私は、そうでないを選ぶ…!!」

少女A01 「そうですか」
少女A02 「それなら」
少女A達 「「おかえりなさい」」


少女B 「っはぁ…っ!!…っは、はぁ……」
少女B 「あれ……私、なにか、変な夢を見ていた気がする」 

アナウンサー 「戦地となったこの国では、たくさんの戦争孤児たちが取り残されています。しかし、今も激しい戦闘が続いており……」

少女B 「なにこれ、こんなニュース昨日までなかったじゃない…。そ、れに…この子…知ってる…」

少女B 「全部…思い、出した…。私が…変える、を、選んでいたら…。変わっていたのは、世界…?そういう、ことなの…?ねえ、答えてよ…ねえ…っ。私を信じて、貴女が一人ぼっちになっちゃったんじゃないの…?ねえったらぁ……っ」

アナウンサー 「現地のとある少女がインタビューに応じてくれるそうです」

少女B 「っは……、」

少女A 「あー、あ、聞こえる?私を信じてくれてありがとう。きみを助けることができて、本当によかった」

アナウンサー 「はい?今通訳を……」

少女B 「……いつだってきみは、そうやって、笑うんだね」

少女A 「おかえり、そうでない世界の君。君がいてくれたから…」

少女A 「私はきっと、大丈夫よ」

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注釈:
変えるか、そうでないか。
「帰る」と、「変える」 のイントネーションに注意して読んでみると面白いかもしれません。

銀河鉄道の夜をイメージして書きました。


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