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桜の季節に振られたことがある。

落ち込んでどうしようもない気持ちを、桜を見て慰めた。
桜はこんなに綺麗なんだから、こんな綺麗な桜を見てるんだから、私の気持ちは癒されるはず。
自分で自分に言い聞かせていた。


振られたことは事実で、もう変えようがなくて、何か出来るわけではないのに焦燥感に駆られていた。
ジっとしていられなかった私は、時々歩きに出かけた。
桜が咲く道を選んで歩いた。


強く風が吹いて、花びらが大きく舞った瞬間があった。
とても綺麗だった。
前から歩いてきていたおばあさんが「綺麗ですね」 と私に声をかけた。
誰かと話す準備なんて出来ていなかった私はすぐに反応ができなかったけど、一瞬遅れて笑顔を作った。
「綺麗ですね」
私も返した。


彼は私の元から去って行ったけど、こうやって同じ景色を見て、同じ気持ちを共感しあえる人がいる。
私はそれが嬉しかった。
涙が出た。

あの時桜を見過ぎたせいで、振られた記憶と桜は私の中でリンクしてしまった。
桜を見ると、あの人のことを思い出し、胸が締めつけられる。