チャーハン好適米を探す

この文章は『男のチャーハン道』読者のための補足です。

コシヒカリファミリーは除外

 あまりに入手困難な品種はどうかと思うので、まずはメジャーどころの品種から見ていきたい。

いま日本を席巻している品種は、新潟生まれのコシヒカリと、その子孫たち。生産量でいえば、コシヒカリファミリーで8割以上を占める。コシヒカリはアミロペクチンの比率が高い、ねっとりした食感のお米だ。チャーハン向きでないのは明らかだろう。

 米の生産量では新潟県と並ぶ存在になった北海道。北海道生まれの人気品種を見ると、ななつぼし、ふっくりんこ、ゆめぴりかも、コシヒカリの系統で粘りが強い。秋田生まれのあきたこまちも、コシヒカリの子どもで、粘りの強い品種だ。こうやってチェックすると、スーパーでよく見かけるメジャー品種が、どんどん除外されていく。

そこで、かつてコシヒカリと並び称されたササニシキに注目した。比較的粘りがなく、さっぱりとした味わいなので、「チャーハン好適米」の可能性はある。70~80年代は「コシ・ササ」時代といわれ、粘りの少ない品種にも人気があったのだ。しかし、平成5年(1993年)の記録的冷夏で、宮城県は壊滅的打撃を受け、ササニシキの作付面積は激減した。冷害に懲りた東北の農家が、より寒さに強い品種を求めるようになったのである。ササニシキが病気に弱く、倒れやすい性質をもっていたことも、その背景にはあった。

宮城県でササニシキにとって代わったのは、冷害に強いひとめぼれ。残念ながら、コシヒカリを親にもつ、粘りの強いお米である。いまはササニシキの作付面積はピークの15分の1しかなく、衰退の一途をたどっている。

 ちなみに、このときの大冷害は日本全土に米不足をもたらし、外国から食米を輸入する騒ぎになった(平成の米騒動と呼ばれている)。タイからインディカ種の米も輸入され、エスニック料理が大好きだった私は、質の良いタイ米がスーパーで激安で売られるようになったことに狂喜したものである。

ただ残念なことに、このタイ米は多くの日本人の口に合わず、最終的に大量廃棄されることになる。その一方でタイでは米価が高騰して大きな社会的混乱が生じたのだから、なんとも後味の悪い出来事ではあった。インディカ米を日本の炊飯器で炊き、日本のおかずとともに、日本の米のように食べようとしていたのだから、「おいしくない」と感じるのも無理もないことだったとは思う。タイ米にはタイ米のおいしい食べ方があるのだ。

意外にもあっさり系は多かった

それはさておき、いまや粘りの少ないお米は非常にマイナーな存在になっている。では、ササニシキ以外の現代品種で、「チャーハン好適米」の候補はないだろうか?
粘りの少なさや、硬さ、粒感などのキーワードでネット検索して見ると、意外にもいろいろ出てきた。

あいちのかおり、あさひの夢、あきげしき、アキニシキ、秋の詩、あきろまん、きらら397、ササシグレ、ササニシキ、チヨニシキ、天のつぶ、十和錦、ふさおとめ、まま徳、みずかがみ、みつひかり2003、めんこいな、ゆきの精、ゆきひかり、夢つくし、華麗舞、サリークイーン……。

しっとり・もっちり系が主流のこの国だが、実はこんなにも、あっさり系の米の品種が存在するのだ。ただし、一部を除き、どれもマイナーな品種といえるだろう。知名度では、まだササニシキを超えるものは出てきていない。とはいえ、これらのなかからも、いくつか試してみよう。
 メジャーでないぶん、どこでも手に入るというわけにはいかないが、地元で簡単に手に入るなら、ふだんの白米もそっちに置き換えられる可能性がある。

ササニシキは「チャーハン好適米」か?

さて、まずはササニシキである。
栽培農家は激減しているが、ネット通販では普通に買える。実は数年前までネットを通じて産直でお米を買っていた農家がササニシキを栽培しており、久しぶりのそこから買ってみた。有機栽培&天日干しでていねいに作った、かなり上質のササニシキである。

これを、浸水20分、米2合を合炊飯器の線に合わせて水を入れて炊く。これ以降も基本的にすべてこの炊き方だ。
炊きあがりを味見するが、それほど粘らず、さっぱりした食感だ。チャーハンに向いているかもしれないと、期待が高まる。
味は濃く、ものすごくおいしい。もちろん土地や栽培方法によって味は左右されるが、今日からこのササニシキを毎日食べたいぐらいのおいしさだ。さらにいえば、懐かしい味でもあった。ササニシキは私が子供の頃は超メジャー品種だったので、家でも食べていたのだろう。

さて、まずは炊きたてのご飯を、本に掲載した基本の作り方で炒めてみた。飯粒同士がけっこうくっつく。とはいえ、これまで使っていた粘り系の品種よりはずいぶんましで、炊きたてであっても飯粒はかなりほぐれてくる。
 次に、保温したあと、電子レンジで1分ほど温める。これを炒めてみると、飯粒は簡単にほぐれ、かなりパラパラ。味もよく、ぱさつきも少ない。とても軽やかなチャーハンとなった。

きらら397はバラけない

さらに、ネットで検索したリストのなかから、きらら397を試した。北海道の米生産量は伸び続けており、日本最大の米産地として定着するのは確実だからだ。きらら397だって、今後はさらに入手しやすくなるだろう。
きらら397は、品種別の作付面積でもトップ20に入っており、このリストのなかでは入手しやすいほうだろう。知名度ではササニシキに負けても、入手しやすさでは圧倒している。私は東京の大きなスーパーで買った。
 きらら397にはコシヒカリの血が入っているものの、「粒感があってチャーハン向き」といわれる。はたしてどうだろう。
炊飯器で炊いて味見をすると、炊きたての粘りはササニシキより強く感じる。
炊きたてをチャーハンにしたが、やはりかなりくっつく。そのままではパラパラに仕上げるのが難しい。
そこでバットに取り出して冷まし、電子レンジで温めたものを炒める。ところが、思ったほどはパラパラにはならない。米同士がくっついた塊になってしまう部分が多い。ただ、くっついていても、ご飯同士がねちょと一体化してっついてしまうのではなく、ひとつひとつの飯粒が弾力を持つ感じ、すなわち粒感がある。ご飯に粒感があると、口腔内に心地よい刺激となって心地よい。残念なのは、ササニシキほどのパラリとした軽やかさがないこと。どちらかを選ぶならササニシキだ。

あさひの夢は二重丸

 リストのなかで非常に気になったのが、あさひの夢だ。
品種別の作付面積ではトップ10に入っており、ササニシキやきらら397に比べても、圧倒的に入手しやすい。もちろん作付面積の4割を1位のコシヒカリが占める現状では、トップ10といっても迫力はないのだが、それでもメジャー感を思えば、チャーハン好適米候補の最右翼ではないかと考えたのだ。
愛知県農業総合試験場で、愛知70号(あいちのかおり)と、愛知56号(月の光)と愛知65号を交配したものとを人工交配し、育成した品種だ。この米は栃木県で多く栽培されている。もともと月の光を栽培していたのが、あさひの夢に取って代わられたのだ。そのため、首都圏でも比較的入手しやすい。
あいちのかおりは、コシヒカリ系のミネアサヒと、ハツシモをかけ合わせた品種。だから、その子のあさひの夢も、コシヒカリ的な特徴がある一方で、ハツシモ的な粒が大きく、さっぱりした食感が残っている。これはチャーハン向きかもしれない。
 私の場合、日経プレミアシリーズ『ロジカルな田んぼ』の著者でもある松下明弘さんが有機栽培したあさひの夢を使った。松下さんの盟友というべき静岡市「安東米店」の長坂潔曉さんから取り寄せたのだ。
 炊飯器で炊いて、炊きたてを味見してみる。一粒一粒のもつ味が強く、ちゃんと主張してくる。噛むと弾力があり、味が濃く、旨味、甘味も強くておいしいお米だ。
 まずは炊きたてを炒める。中華おたまの底で、ご飯をトントンと平たくつぶしていく。そしてさっと混ぜる。コシヒカリ系の粘るご飯とは、炒めているときの感触が明らかに違う。簡単に飯粒がほぐれてくるのだ。
 炊きたてを炒めたというのに、飯粒同士はほとんどくっつかず、パラリと仕上がった。これまでものに比べれば、一番いい、保温した電子レンジにかけたものはさらにパラパラになった。
食べるとご飯の一粒一粒が大きく、また弾力がある。一方でもっちり感とほどよい粘りも残る。インディカ米のチャーハンに慣れた本場中国ではどうかわからないが、このしっとり感は日本人には非常においしく感じられるのではないだろうか。パラリとして、引き締まったような粒立ち感があり、おいしい。
 もちろん米の味は、品種だけではなく、土地、気候条件、栽培方法に左右されるので、松下さんの作ったあさひの夢の味が強く粒立ちがいいからといって、他のあさひの夢も同様だとはいええないことは頭に入れておきたい。
 いずれにせよ、「あさひの夢」を使うと非常にうまくチャーハンが作れたのだ。

キーワードは寿司米だった

 安東米店の長坂さんに注文するとき、「あさひの夢以外にもチャーハンに合いそうなお米があれば送ってほしい」とお願いしていた。同封されていたのは、ハツシモ、結、にこまる、逢地(あうち)さがびよりの4品種だった(松下米は、あさひの夢のみ)。
 ハツシモはあさひの夢と関係が深い。あさひの夢のお母さんは、あいちのかおりだと書いた。そのあいちのかおりは、岐阜県で作られていたハツシモと、コシヒカリ系のミネアサヒをかけ合わせたもの。つまり、ハツシモはあさひの夢のおばあちゃんなのだ。
ハツシモは粒が大きく、それゆえ歯ごたえがよく、粘りはなく、さっぱりとした味わい。このため寿司米として評価が高かったそうだ。
ハツシモの親のミネアサヒは、コシヒカリにガンマ線を照射して生まれた突然変異種と、喜峰という品種をかけ合わせたもので、小粒で粘りはあるが、潰れにくく、冷めてもおいしいのだという(硬めで潰れにく、冷めてもおいしいというミネアサヒの特長は、あさひの夢にも受け継がれている)。
 実は、品種探しで頭を抱えていたとき、『ロジカルな田んぼ』の松下さんからもアドバイスをもらった。「チャーハンが求める性質と、寿司が求める性質は似ている。寿司米を中心にあたってみろ」というものだった。
 ササニシキも寿司米として評価が高かった。いまだにササニシキを愛用する寿司屋も多いぐらいだ。ハツシモもそうである。チャーハンに合う日本の米を探すには、寿司米がひとつのキーワードかもしれない。
 ちなみに、ハツシモの知名度は高いとはいえないものの、作付面積でトップ20には入っており、東海地方では入手しやすいだろう。
 ハツシモを炊飯器で炊いた。炊きあがりを食べてみると、たしかにさっぱりとした味。粘りが少なくポロポロとした食感もある。
 炊きたて、そして保温したものを電子レンジにかけたものを炒めてみたが、いずれも作っているとき感触は、あさひの夢に非常に似ている。中華おたまの底で軽くつぶしていくだけで、ほぐれてくるのだ。粒立ちも良く、やはり大粒の米ならではの、ご飯一粒一粒の存在感がある。あさひの夢と同じぐらいのパラパラ感だ。
 ただ、食べてみると、あさひの夢のよりは少し淡白な印象がある。しっとり感も少ない。品種による差なのか、栽培法の違いなのかははっきりわからない。

結はしっとりチャーハンに

 続いて試したのは、結。北海道のお米だが、登録品種ではないので、これは正式名称ではないそうだ。
 炊きあがりを食べてみると、あさひの夢、ハツシモと比べると粘りがあり、しっとりしている。
 炊きあがりを炒めてみる。作っているときの感触は、ササニシキととてもよく似ている。あさひの夢やハツシモみたいに簡単にほぐれていく感じではないものの、コシヒカリ系みたいに全体が粘って固まったり、バラバラにならなかったりすることもなく、全体をまんべんなく混ぜることができる。
 さらに、保温して電子レンジにかけたものを炒めてみたが、求めているパラパラ感は出せなかった。とはいえ、食べてみるとしっとりとしつつも、一粒一粒に弾力があり、個別に存在感をもつ。粒立ちの良さを感じるのだ。日本人なら、こんな粒感があってしっとりしたチャーハンのほうが好みという人も多いかもしれない。

むっちりチャーハンの新食感

 安東米店から届いた5品種のうち、4つ目に入ろう。にこまるだ。
 九州など温暖な地方のブランド米で、2002年に奨励品種となった、まだ新しい品種だ。作付面積ではつねにトップ3に入っているヒノヒカリの後継品種なので、これから一気に入手しやすくなるかもしれない。
母親はきぬむすめ、父親は北陸174号。いずれもコシヒカリの遺伝子を受け継いるから、まさにコシヒカリ系といっていい。コシヒカリ系ならチャーハンに不向きではないかと心配したが、長坂さんは「大粒で粘りはあるものの、硬めに炊くと魅力が出る」という。
 まずはほかの品種と条件を揃えるため、まずは普通に炊いてみる。味は非常にいい。もっちりとしてほどよい粘りと弾力があり、味が濃く、噛むたびに、弾力のある小さめの飯粒ひとつひとつが弾けておいしさを口に広げてくるような感じだ。
そして炊きたてを炒める。カンカンに熱した中華鍋に卵液を入れ、その上ににこまるをドバッと投入し、中華おたまの底で軽く、リズミカルにつぶしていく。
作っているときの感触は、コシヒカリと違い、飯粒がつぶれて粘ることはない。とはいえ、あさひの夢やハツシモみたいに、飯粒がすぐにほぐれてパラパラになるわけでもない。飯粒の表面に粘りがあるため、飯粒同士が再度をくっつく率は高い。ただし、ベタベタにくっついてどうしようもなくなる感じでもない。飯粒はまたすぐにほぐれるので、全体を混ぜるのは容易だ。
 飯粒の表面にある程度の接着力があるせいで、仕上がりもパラリというよりは、全体が一体化した感じである。
 試食すると、飯粒がとてももっちりとしている。パラリとほぐれるわけではないが、粘るようなベタつきもない。さじですくうと、飯粒同士がくっついて塊のまま残っている部分もあるのだが、口に入れると、一粒一粒の存在感があり、粒立ちのよさを感じる。
 あさひの夢やハツシモに比べると、飯粒は小さく細長く感じる。しかし、存在感はある。小粒で張りつめたような存在感があるので、きびきびとした、心地よい食感だ。おこわのような、むちむち感もある。
うまい。とてもうまい。噛むとご飯の一粒一粒がぷちっぷちっ、と弾けるような快感がある。パラパラでもしっとりでもない、いわばむっちりチャーハンとでもいおうか、本書で目指しているチャーハンの方向性から逸れるかもしれないが、新食感のチャーハン。本当に大変美味である。
 粒立ちは結より良く、結ほどしっとりしていない。
 5時間保温し、電子レンジで1分加熱したもので作るとさらに粒立ちが良くなったが、やはりパラパラというよりむっちり感が強い。
 求める路線とは違うものの、非常に興味をひかれたので、今度は長坂さんのアドバイス通り、水分を5%ほど減らして炊いてみた。それでチャーハンを作ると、むっちりとしたほどよい粘りは感じつつ、粒立ち感がより鮮明となり、いっそうおいしく仕上がった。
パラパラでも、しっとりでもない新食感。特筆すべきは、ビビッドな粒感と飯粒そのもの張り、そしてむっちり感だ。とびきりおいしい「粒立ち&むっちりチャーハン」である。パラパラ路線ではないものの、これはこれでアリだと感じた。

白米ならおいしいのだが……

 最後は、逢地さがびよりだ。唐津市相知(おうち)町で作られている佐賀県の品種で、さがびよりのなかでも食味良好な希少な銘柄だという。
 簡単に入手できないとチャーハン好適米の候補にはなりがたいが、せっかくなので実験はしておこう。
さがびよりの父親は、あいちのかおりSBL(あいちのかおりを品種改良して病気に強くしたもの)。つまりあさひの夢とは、いとこ同士のような関係にある。
ただ、長坂さんによると、さがびよりのなかでも逢地さがびよりは粒が大きく、粒感がはっきりあるという。その点に期待したいところだ。
炊飯器で炊く。炊きたてを食べてみると、たしかに飯粒は丸っこくて大きく、あさひの夢やハツシモに近い。一方で、コシヒカリに通じる粘りがある。炊きたての白いご飯をそのまま食べるのだったら、いかにもおいしさに貢献しそうな「おねば」感だが、チャーハンでは邪魔になるのではないか?
ちょっと心配しながら、炊きたてを炒めてみる。やはり、全体がベタつく感じに粘る。ただし、コシヒカリほどは粘らず、また一粒一粒がほぐれやすいので、粘ってくっついてどうしようもなくなる、ということはない。
とはいえ、仕上がりはやはり全体が一体化したような、粘りのあるチャーハンとなった。飯粒はしっかりとしていて、もちもちしているので粒感はあるが、コシヒカリ系の粘りが障害となるようだ。これはパラパラとは呼べないだろう(ただし、炊きたてをそのまま食べると、これもとびきり美味しいお米であるのは、間違いはない)。
 保温したものを電子レンジでさらに加熱したもので作ると、ベタつきは少し解消したが、やはりパラパラとまでは言えなかった。

旭の系統に光が見えた

 ここまで試した品種のなかで、どれがしっくりきたか?
 にこまるの新食感は魅力的で、たいへん美味だった。とはいえ、本書で目指しているパラパラを実現するためには、あさひの夢とハツシモが一番いい感じだった。親子でダブル受賞という感じである。
 この親子が気になるので、ハツシモの出自を調べてみた。その先祖をたどっていくと、農林8号、そしてその親である銀坊主と旭にたどり着く(ちなみに農林8号は、現在の日本の米にとってもっとも重要といっていい優良品種で、コシヒカリやササニシキもここから生まれている)。
 銀坊主は、明治期に、富山の農家・石黒岩次郎が育種したもの。在来種の愛国がすべて倒伏したとき、一株だけ倒れていないものを見つけ、選抜し育てたのだという。穂が赤みがかっている愛国と違い、銀色に輝いていたため、銀坊主と名付けられた。
一方、旭は、同じく在来種で、京都の農家、山本新次郎が選抜したものだ。
日本の米の在来種は、愛国、旭、大場、亀の尾、神力、上州の6種しかない(銀坊主は愛国と同じ種として扱われている)。これらのうち、現在もある程度の規模で育てられている(主な産地は岡山県)のは旭だけ。つまり旭は現在でも入手可能なのだ。
なお、正式な名称は旭ではなく、朝日。大正時代に、京都の旭を岡山県農業試験場が品種改良したのだが、岡山ではすでに旭という名で登録された米があったので、朝日で登録したという。
非常にややこしいが、京都生まれの山本新次郎の旭と、岡山の朝日は同系統ということだ。これも現在入手可能で、やはり寿司飯に向くとあるから、期待値は高まる。
 というわけで、あさひの夢のおばあちゃんのハツシモの、そのまたおばあちゃんにあたる朝日でチャーハンを作ってみた。
 炊いてみると、やはり粒が大きく、食べていて強い弾力を感じ、粘りは少ない。
 炊きたてを炒めてみる。中華おたまの底で軽く叩くと、あさひの夢やハツシモと同じく、簡単にほぐれる。同じ遺伝子を感じる。
 パラパラ感朝日のチャーハンも十分に合格点だ。5時間保温して電子レンジにかけたものも、ハツシモやあさひの夢に近い。ただ味はハツシモをさらにさっぱりさせた感じで、あさひの夢が一番、濃厚さや甘味がある。

旭の特長が生きた系統をさかのぼってみたが、朝日、ハツシモ、あさひの夢のどれが一番良いのかは、栽培地域も栽培農家も違うため、はっきりとはいえない。しかし、旭系統が日本の家庭のチャーハンに光をもたらすことは間違いないだろう。

カレー米が最適米?

 さて、他に私が気になったのは、インディカ米とジャポニカ米の交配種。すなわち、華麗舞とサリークイーンである。
 チャーハンのためだけにわざわざ入手が難しいマイナー品種を買うのは、本書の趣旨からは大きく逸脱するが、あえて脱線して、これらの特殊な品種がチャーハン向きなのかどうか、確かめてみたい。 
 まず1キロ1000円という(米の値段としては)大金と送料を払って入手した華麗舞を試してみよう。かれいまい、つまりカレー米であり、カレーライス専用品種だ。
 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(以下「農研機構」)によれば、華麗舞は、印度型品種(つまりインディカ米である)の密陽23号と、日本型品種のアキヒカリを交配させて育成したという。米自体は軟らかく、なおかつ表層の粘りの少ない系統を選抜し、カレールウへの適性を確認したらしい。
 そもそもチャーハンはインディカ米が一般的に食べられている地域で生まれ、進化したものだ。インディカ種はチャーハンとの親和性が高いし、粘りがないので、パラパラチャーハンを作りやすい。
 ただ問題は、ジャポニカ種に慣れた日本人の多くは、インディカ種のご飯に違和感をおぼえることだ(私自身、外国産インディカ米でチャーハンを作ると、パサつきを感じてしまう)。ところが、華麗舞にはコシヒカリのような柔らかさと粘りがあるという。
 表面に粘りがないため、簡単にパラパラにできる。それでいてパサつき感はなく、日本人好みのしっとりして粘りのある食感になる。さすがインディカ米とジャポニカ米のハイブリッドといったところ。この商品紹介が本当なら、日本人にとって理想的なチャーハン好適米になるのではないか?

水を加えるとバラけていった

 早速、華麗舞をインターネットで注文する。届いた華麗舞は小粒で、少し細長い。見た目からして、インディカ種に近いことがわかる。割れ米も多く、米粒だけ見ると、決して良質なお米という感じはしない。
 炊飯器で炊く。インディカ米は通常、たっぷりの湯でゆでるのだが、ここでは日本流に炊飯してみた。
予想に反し、炊きあがりの見た目はしっとりとして透明感があり、一般的なインディカ種より断然、粘りの多い日本のお米に近い。
炊きあがりを食べてみると、これが実に不思議な食感だ。噛むと日本のお米のような粘りが感じられるのに、くっついていた飯粒同士が、口内で唾液とまざるとするするとほどけていく。一粒一粒が独立していくような感覚があるのだ。噛むほどにネバネバと粘るような感覚はなく、全体的にさらりとした食感だ。
 さて、炊きたてのご飯でチャーハンを作ってみよう。期待に反し、いきなりパラパラとなるわけではなく、他品種の炊きたてを炒めたときと同様、混ぜても飯粒同士がくっついた小さな塊がいくつもできる。しかしさらに炒めていくと飯粒はかなりバラバラになり、ところどころ塊が残る仕上りだった。ただ、食べてみると、ご飯はあっさりしており、食感は軽やかで、粘りは少なく、たしかにインディカ米を想起させた。
 保温して電子レンジで温めたご飯を炒めたものは、小さな塊は少し解消されたが、いずれにしてもタイ米などように、すべての粒が粘らずにパラパラという感じではない。華麗舞はあくまでカレー用であり、チャーハン用ではさそうだ。
 なお、本来、インディカ米は熟成させたほうがおいしい。日本でいうところの「古米」になるにつれ風味が増し、味に深み出るからだ。新米の状態で精米して流通してしまっているせいで、私の食べた華麗舞はあっさりとした味わいであるのではないかと思われる。

軽やかなチャーハンの理想形

 華麗舞以外にも、インディカ種とジャポニカ種を交配させた品種はある。そのひとつが、さきほどのリストにもあったサリークイーンだ。
農研機構によれば、私も大好きなインディカ種の長粒香り米バスマティの一種であるパキスタンのバスマティ370と、日本晴をかけ合わせた品種だという。
 残念ながら、インターネットで探してもサリークイーン販売店は見つからず、入手はかなわなかった。しかし、幸運にも、よく似た名前のプリンセスサリーという長粒米を、私がササニシキを買った農家の方が作っていたのだ。調べてみると、プリンセスサリーは、サリークイーンと関東150号を交配したもの。プリンセスサリーは、いわばサリークイーンの娘だった。
 そこでサリークリーンを買って、ササニシキと食べ比べることにした。ここで重要なのは、どちらも同じ農家が、同じ気候・地質条件で、同じような栽培方法で作ったということだ。栽培条件が同じなら、品種の差がよりわかると思ったのだ。
炊飯器でプリンセスサリーを炊いてみた。炊き上がった飯粒はたしかに長いが、タイ米ほどは長くなく、それほど違和感はない。華麗舞のほうが、見た目はインディカ種に近い。
炊きたてを味わってみる。パサパサというほどはなく、ほどよくしっとりしている。ジャポニカ米よりはあっさりしているが、そのまま白米として食べても十分においしい味だ。
炊きたてのご飯を炒める。これはすぐにパラパラになり、華麗舞のような粘りもなく、非常に快適に炒めることができた。さすが、インディカ米の遺伝子。どのジャポニカ米よりパラリとしてる。
 ササニシキのチャーハンと食べ比べて見たが、圧倒的にプリンセスサリーのほうがチャーハンに合っている。飯粒はきれいにバラけ、ふんわりとしている。しっとりはしていないが、パサつきもなく、非常に軽やかな味わい。パラパラふわりとした、チャーハンの理想形のような見事な仕上りだった。
そのうえ、栽培法のせいか、米の味も大変おいしい。誰かにパラパラのチャーハンを作って、絶対においしいといわせなければならないシチュエーション(そんなことがあるのか、は置いておく)なら、私は間違いなくプリンセスサリーを使うだろう。

パラリ品種が増えている理由

 インディカ米とジャポニカ米の交配種が、これほど好結果を出すとは、予想もしていなかった。ここまでで私のベストは、プリンセスサリーのチャーハンだ。
 また、旭系統も、作ると十分に満足できる、チャーハン好適米といえるだろう。特に「あさひの夢」は白米として食べても十分に美味だ。味のベストはプリンセスサリーだが、そうはいっても入手は難しい。旭系統なら、手に入れやすいというメリットがある。
そしてもうひとつ、どうしても挙げておきたいのが、新機軸の味わいがきわめて印象深かった有機栽培のにこまるである。
これらの米を手に入れる機会があれば、ぜひともチャーハンを作ってみてほしいと思う。「にこまる」や「あさひの夢」は、「白米としてもおいしく食べられるので、ふだん食べる品種をこっちに変えてもいい」という読者も出てくるはずだ。

 この試食でわかったのは、チャーハンに向いた性質は、パラパラにほぐれやすいことだけではないということ。粒立ちが良く、軽い食感で、粘りは少なめ、米自体の味が強い、という感じだろうか。
 長坂さんによれば、最近出てくる新品種はコシヒカリのような粘り系ではなく、パラリとしたものが多くなっているという。人々の好みが変わったのだろうか? そうではないと思う。憶測だが、その背景にあるのは、毎日、ご飯を炊く人が減っていることではないだろうか。
パラリとした最近のお米は、冷めてもおいしい。粘るご飯に比べたら、加工性も高い。つまり、炊きたてでなくても、おいしく食べられるお米なのだ。炊きたてを楽しむ人が減っているのは悲しいことではあるが、チャーハンを作るうえでは、パラリとした品種が増えている傾向は、喜ばしいのかもしれない。

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