【易競馬#17】クイーンS 2022
東京は下町。
隅田川のほとりにある、カウンター数席の小さな居酒屋。
絶品の酒と肴に吸い寄せられるよう、今日も今日とて常連が集う。
「もぐもぐ。。健さん。。。なんか黒くなってません??休みの日どこか海にでも行ったんです?」
もつの煮込みを食べながらポロシャツがたずねた。
「いや、神宮焼けだ」
夏の甲子園予選も佳境を迎え、ベスト16が揃った辺りから、健は足しげく神宮へ通っていたのだった。
今年は梅雨明けも早く、戻りはあったものの例年ほどのスケジュールの調整もなく順調に進行していた。
「ここ数年は自粛だ制限だでまともに観戦できなかったからな。しかし今年の日差しと暑さは堪えるぜ」
スタンドの客席でその暑さなのだから、グラウンドで試合をする選手たちの疲労は相当なものだろう。
「そういえばこの前、スポーツ新聞に記事載ってましたね。都立高が優勝候補を倒したって」
「ああ、日曜の神宮でな。現地で観てたよ。鳥肌立ったなありゃぁ。。そうそう、その都立高ってのはさゆりの母校だぜ」
「え!さゆりママの!? そうか同じ区内ですもんね。じゃあママも喜んでるかなぁ」
「どうかな。。あいつが通ってた頃はまだ創立したばっかりで、野球部が強くなったのはあいつが卒業してしばらくしてからだからなぁ。。」
へぇーと手元の携帯で何かを調べていたポロシャツ。
「創立45年。。あれ?さゆりママってそんな歳だったんですね!」
しまった余計なことを、焦る健だったが、そのギクリとした顔を見て
「うふふ、大丈夫ですよ健さん!ママには内緒にしておきます。ママ永遠の36歳ですもんね」
と言うポロシャツをすこし見直した健であった。
「お、おう。口止め料ってわけじゃあねぇが、こいつぁサービスだ」
差し出されたのは旬のこはだの酢締め。
「いただきまーす!!」
にこにこと、こはだを頬張るポロシャツの背後から、占い師が店に入ってきたのはその時だった。
「こんばんは。おや、美味しそうな小鰭だ。健さん、私もいただいてよろしいですか?」
いつものカウンターの端に座る占い師にポロシャツが赤星の瓶を差し出した。
「先生!先週はありがとうございました!買ってたらハズレてたところでしたよーおかげで損せずに済みました!」
のどまで出かかった(いつもハズれてるじゃねぇか)という言葉を健は飲み込み、そっと小鉢を差し出した。
「今週は日曜日に、札幌で牝馬の重賞クイーンSが、そして新潟では名物重賞、アイビスサマーダッシュが行われます」
「おや?函館や福島、小倉ではなくて札幌、新潟なのですね?」
「はい!開催が変わって札幌と新潟です!特に新潟の方は直線だけで行われるんですよ!」
「ほう。。それは陸上の100mみたいな感じですかね。なんだか興味深いです」
競馬への興味はほとんどない占い師だったが直線のレースがある。ということに少し興味をそそられたようだ。
「では先生!まずは札幌のクイーンSからお願いします!」
こくり頷いた占い師は懐から三つのサイコロを取り出した。
静かに目を瞑り、ふぅ。。と大きく息を吐く。
チンチロリン!占い師の手から放たれた賽は小皿の上で小気味の良い音を立て、止まった。
「内卦・兌、外卦・乾、そして変爻の賽が二。天沢履の二爻、天雷无妄へ之く。が出ました」
「てんたくり!?なんだかテンタクルスみたいな響きですね、そんな馬がいそうな」
「天沢履という卦はですね…」
沢を表す八卦「兌」の上に、天を表す八卦「乾」が乗っている
履は「踏む」や「(履き物を)はく」という意味を持つ
卦辞は「虎の尾を履む、人を咥わず。亨る。」
喜んで(兌)天(乾)に応ずる象から、「そういった態度であれば寅を虎を尾を踏んでも襲われない」ということを説いている
二爻の爻辞は「道を履む坦々たり。幽人なれば貞にして吉。」
「…という感じです。ちなみに、五つの陽と、三爻=股の位置に唯一の陰があることから女子裸身の卦とも言われてます」
「女子裸身!!!まぁクイーンSは牝馬のレースですからまさにその通りなんですけどなんだか意味深ですねぇ」
「・・・過去の例を履むってことでいわゆるデータ予想を信じるといいんじゃねぇかな?JRAのHPにはなんて書いてある?」
「えーと。。GⅠ好走馬に注目、前走GⅠ組が他を圧倒、芝1800メートルでの実績がものをいう、2走前も要チェック。。とのことです」
「なるほどねぇ。2走前が桜花賞2着の10と前走VM4着の02であっさり決まりそうだな」
「人気サイドじゃないですか!虎の尾を踏んでも大丈夫!ってことは阪神を追う、広島・横浜がキーポイントと読みました!赤帽&青帽で!」
「巨人も同じく1.0差で追ってるが2枠は買わないでいいのかい」
「ま、まぁ今週のメインはやっぱり新潟の方ですから札幌はこれくらいにして。。。続いて新潟もお願いします!」
「当たるも八卦当たらぬも八卦」
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