SWIFT遮断はどのような意味を持つのか

おはよう人類。

ロシアによるウクライナ侵略に端を発する西側諸国の経済制裁は、ロシア大手行に対する金融制裁に発展した。特に、国際送金を担う金融ネットワークSWIFTからの締め出しは、ロシア経済に大きな打撃を与えており、グローバル市場からロシアのアクセスを封じる形となっている。
SWIFT遮断と並んで、金融決済を遮断するために、暗号通貨の穴をふさぐという道も模索されているのだが、暗号通貨による決済とSWIFTからの締め出しというのは本質的には意味が異なる。今回は、SWIFTからの締め出しがどのような影響を与えるのかについて考えてみたい。

SWIFTとは何か?

SWIFTとは、Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunicationの略で、組織名の略称であると同時に、同名の組織が運営する金融通信ネットワーク(SWIFT NET)を指す言葉である。ベルギー籍の協同組合(Société Coopérative)形態の組織で、組合員(と同時に利用者)は金融機関によって構成されている。
SWIFTは、金融機関や企業を結ぶ国際的な金融決済システムで、国際送金や貿易金融の決済電文を交換するコンピューターネットワークである。と言うと、「決済を統括する金融機関のようなものか」というとそういうわけではない。


これを国内の為替決済(内国為替決済制度)に置き換えて考えると、SWIFTは全銀ネットに相当するネットワークになる。例えば、上の図ではA銀行からX銀行に100万円を送金する場合、全銀ネット上で送金電文が通知されて、実際の資金のやり取り(決済)は最終的に日本銀行の当座預金口座間の振替によって決済される。
基本的にはSWIFTは、国際送金における全銀ネットのようなものと考えてもらっても差し支えない。ただ、内国為替の場合と異なる点は、実際の資金のやり取りは、国を跨ぐためにいささか複雑になる。

ちょっと複雑なパターンで図にしてみたが、国を跨ぐ国際送金の場合、電文の交換をSWIFTが担っている点は内国為替と同じだが、実際の資金決済の流れを見るとA銀行がある日本と、X銀行がある海外の間では資金の清算を行う金融機関がない。A銀行が海外に支店を持っていれば、海外のX銀行に対して送金を行うこともできるが、支店がない場合には中継銀行(コルレス銀行)と呼ばれる金融機関を通じて資金のやり取りをする。
こういった、海外への送金には複数の金融機関が関係して、決済電文の数も多くなるため、そういった電文のやり取りを共通のフォーマットの電文で実現しているのがSWIFTという金融機関同士を結ぶネットワークの役割だ。

送金だけではないSWIFTの役割

実際の貿易決済では、「請求書(Invoice)送ったから国際送金してね。届いたら発送します」みたいな取引(前払い決済:Advanced Payment)は、小口の取引以外ではあまり行われていない。取引相手がよほど信用力があるとか、手続きを省略して早く欲しいみたいなケースに限られる。
国際貿易では、額自体の大きさに加えて、輸送期間が長いこと(特に船を使う場合)、輸送中にその貨物自体が買い手から別の買い手に転売される可能性もある(例えば、原油を買い付けたが輸送中に値上がりしたので別の買い手に転売するなど)。そういった貿易上のリスクや、支払サイトの長さをカバーするために債権の転売・流通を用意にするため、貿易決済では信用状付荷為替決済という方法が多く取られる。

まず、流れとしては輸出者が輸入者との間で輸出契約を締結すると、輸出者は輸入者に対して輸出契約に基づく請求書(Invoice)を発行する。これを元に、輸入者は取引銀行(X銀行)に対してL/C(信用状)の発行を請求する。輸入者はL/Cの内容を確認して、貨物を船会社に引き渡してB/L(船荷証券)の発行を受けて、輸入者に送達する。

港に貨物が届くと、輸入者はB/Lと引き換えに貨物を受け取る。この際に、L/CやB/Lの写しを税関に提出して関税の支払いなどの通関手続きを実施する。一方で、輸出者はL/Cに基づいて銀行から輸出代金を受け取る(支払期日前の場合は手形のように銀行に割引依頼することで現金化も可能)
L/Cは手形に近い性質を持つ一方で、B/Lは有価証券なので条件に合っていれば譲渡など流通の対象になる。
こういった貿易金融では、リスクを回避するためにさまざなな書類が飛び交う。かつては、こういった貿易事務では様々な書類が紙ベースで飛び交っていて、電信が使われるようになってもテレックスで様々な様式のデータが来る度に、手でフォーマットを変換していた。

SWIFTの登場以降は、こういった貿易決済に関わる書類のやり取りをネットワーク上でやり取りできるようになり、コストや時間だけでなく、増大する膨大な貿易事務をこなせるようになった。もはや、SWIFTなしに貿易事務をやれと言われると、石器時代に戻れ問いわれているのと同義なのだ。

SWIFTの代替手段はあるものの実際の置き換えは難しい

これまで見てきたように、SWIFTは単純な為替データ交換システムという以上に貿易事務における総合的なEDI(電子データ交換システム)であると言える。SWIFTで使われてい、データフォーマットも、ISOで国際規格化されていて、銀行や税関、中央銀行、輸出入者、船会社や航空会社はSWIFTを前提にシステムを構築している。
SWIFTなしにどれだけ貿易が続行できるのか? 一つの方法は、SWIFTを使わず紙ベースでやる方法で、例えば送金では国際送金小切手(D/D)を使って決済する方法もあるし、額が大きくなければ暗号通貨を使う方法もあるだろう。しかし、時間もコストも大きくかかるし、L/CやB/Lを書類でやり取りするには事務コストが爆発的に増える。
ドルやユーロなど基軸通貨での決済を諦めて、人民元ベースでの決済ならばSWIFTを使わないCIPSという決済システムがある。CIPSの取引フォーマットはISOに準拠しているので比較的移行しやすい。また、人民元全体でみると貿易決済に占める比率はドル、ユーロ、ポンドに次いで第3位につけて、円を越している。ただし、比率的にはまだまだ小さい。

現在のところ、SWIFTから排除が決定しているのはロシアの金融機関の中でも政府に密接に結びついた7行で、規模的に第2位のVTB(傘下にモスクワ銀行を抱える)を除くとそれほど規模は大きくない。最大手のズベルバンクや、エネルギー大手ガスプロム傘下のガスプロム銀行のようなエネルギー関係の決済が多い金融機関や、AlphaBankなど影響力が大きい大手は対象には入ってない。ただ、リスクの高まりでSWIFT排除とは関係なくロシアの銀行に対する取引を制限する動きが強まっていて、事実上ロシアは国際金融から切り離された状態になりつつある。

こうしてみると、SWIFT排除は非常に影響が大きく、クレジットカードのV/Mのロシア接続中止よりもはるかに大きい影響がある。暗号通貨やCIPSを使った人民元決済のような回避手段も考えられるが、この衝撃の大きさはすぐには代替できるようなものではない。代替手段が機能し始めるころには、世界経済はロシア経済がないことを前提に動き始めることだろう。

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