海外に赴任することになったときの銀行口座

コロナ禍が落ち着きを取り戻し、海外とのやり取りも正常化に向けて各種の規制が緩和されてきている。それに伴い、企業も凍結していた海外出張や海外異動を再開させつつある。周りでもぼちぼち辞令が出され始めた。

ところで、コロナとは関係なく、海外駐在する際に問題になるのは、現地での給与の受け取りの口座開設と共に、国内になんらかの形で口座を残す必要がある点だ。

なんだかんだ言って、結局は戻ってくるわけだから、全財産海外にもっていくわけにはいかない。また、家族全員で赴任するケースもあると思うが、単身で赴任する場合にはやはり国内に残した家族とのやり取りに国内に銀行に銀行口座が必要になる。

なお、今回のお話は出張などの短期滞在(生活の拠点が海外にはない)や、移住に伴う話ではない。おおよそ、1年以上海外で生活し、5年以下で帰任する予定がある在外勤務や留学などのケースを射程範囲とする。

非居住者になるということ

税法上、国内に住所を有し1年以上居住の実態がある者を居住者とし、居住者以外を非居住者と定義している。住所とは、生活の拠点となる場所であり、居住とは生活に必要とする職業についている実態のことで、実のところ転入や転出届とは関係なく「推定」される。

非居住者となると、所得税法上の納税義務者でなくなり、転出届が適切に出されている場合には住民税なども非課税となる(代わりに転出先国の税法が適用される:例えば米国に居住した場合日本で得た利子は日本では課税されないが米国で得た所得と合わせて申告納税する義務がある)が、同時に預金口座なども非居住者に対応するものが必要になる。

国内の銀行が、非居住者に対して提供する預金口座を非居住者円預金口座と呼ぶ。居住者が非居住者となった旨を銀行に申し出ると、従来の居住者円預金口座は非居住者円預金口座の扱いになる。問題は、非居住者円預金口座になると取引に様々な制限が課せられる点だ。
一般的に、非居住者円預金口座では国内の銀行に送金する場合には、国内送金ではなく海外送金として扱われるため、手続は窓口に限定され手数料も海外送金手数料(だいたい2000円~6000円くらい)が課せられる。また、従来利用していた自動引落などのサービスに制限が課せられるケースがある。

また、NISAなどの税制優遇措置も利用できないので、銀行で投信などを積み立てている場合にはNISA口座の解約などが必要となる(これは証券会社も同じ)。

銀行によって異なる非居住者円預金口座への対応

そもそも、非居住者円預金口座を扱っていない銀行がある。ネット銀行の場合は、ソニー銀行を除く全銀行が取り扱いがないため、非居住者となった場合には原則銀行口座の解約が必要となる。証券会社の場合も似ていて、非居住者となる場合には解約が要求される場合がある(ただし残高があるなどの理由で個別にNISA契約を解除して一般口座に振替することで、口座自体の維持は可能なところが多い)

地銀の非居住者円預金口座の大半が、キャッシュカードが使えない、窓口取引のみの限定されるので、非居住者円預金口座は非常に制限が多くなる。海外にいるのの、窓口でしか取引できなくなると、実質的に口座を維持してお金は動かせないという状態になる。

ただし、インターネットバンキングに関して言うと、非居住者向けにも国内や海外への送金決済や、残高照会などのサービスを扱っている銀行があり、海外からもアクセスが可能なサービスを提供している。ただし、サービスの利用自体に手数料が課せられたり、国内とは異なる手数料が課せされる。

黙っていればいいのか?

とはいえ、非居住者円預金口座への変更は、預金者が銀行に申し出ない限りは自動的には変更されない。海外に赴任するにあたって事前に手続を必要とするので、赴任後に海外から手続をとることはできない。言い換えると、黙っていれば(そのまま海外に転出してしまえば)、居住者円預金のままになっている。

問題になるのが、非居住者には認められない取引がある点だ。前述したとおり、NISAのような非課税優遇口座を放置していると、非居住者は本来受けられないはずの非課税枠を使っていることになる。発覚すれば、訴求して課税される場合があり、その際には加算税などの負担が大きくなることが考えられる。

また、海外から非居住者が投資信託や株式の売買を行った場合に、居住国によっては現地法に基づいた許可を得ていない場合には処罰対象となりうるので、事後に取引実態が発生すれば金融機関側から解約など強制的な手段に出られる可能性もあり得る。

また、納税の簡素化を目的にマイナンバーと金融機関口座の紐づけが進められていて、将来的にはすべての取引口座との紐づけが予想される。非居住者の場合は、マイナンバーが付与されないので、今後金融機関側も非居住者の実態を黙っていても把握しやすくなる可能性が増えていくと考えられる。

そう考えると、今から海外に赴任する際には、可能な限り残高のある口座については金融機関に事前相談した上で、口座の閉鎖を行ったり非居住者向けの口座サービスを行っている金融機関に残高を事前移管するのが望ましい。投資信託や株式など、売却が難しい商品を保有している場合には、金融機関によってはいったん特定口座から一般口座に振替て非居住者口座扱いとし、帰国後に特定口座に戻す処置が取れる会社もあるので、海外赴任が決まったら急いで相談するのが良いだろう。

また、住宅ローンやカードローンの残高が残っている場合にも、支払方法や住所の変更が必要になる場合があるので、支払条件や手続きを早めに確認しておくことも重要だ。

非居住者向け銀行サービスを提供している金融機関は意外と少ない

非居住者向けの口座サービスを提供している金融機関は調べてみると結構多いのだが、海外に居住する利用者に積極的なサービス提供を行っているところは実はそこまで多くない。特に、口座は維持できるが取引が窓口限定なところが多い地銀や、証券会社の口座などは「帰国するまで残高や口座を維持するため」の処置に近く、海外から積極的に決済などに使うのは実質難しいだろう。

一方で、インターネットバンキングを通じて海外から非居住者でも決済サービスが利用できる銀行もある。メガバンクだと、三菱UFJ銀行と三井住友銀行が月額有料サービスだが充実したサポートがある。みずほ銀行では無料だが、特にこれといったサポートはないが、海外でも変わりなくみずほ銀行のサービスが利用できるという点は心強い。

三菱UFJ銀行のグローバルダイレクトは、月額300円の有料サービスだが、海外からの利用に加えてステートメントサービスや、海外居住地への郵送物の送付などかなり手厚く利用者も多い。国内に残した不動産に関係する入出金や、貸金庫などのサービスなど総合力で秀でている。

https://www.smbc.co.jp/kojin/kaigaiservice/globalservice/


SMBCダイレクト・グローバルサービスも三菱UFJと同様に手厚いサービスに定評がある。月額220円の有料サービスだが、国内と変わりなくサービスが利用できる点が強い。メインバンクとして取引している人なら、スムーズに取引が継続できる点も、三菱UFJと同様な安心感がある。

https://www.mizuhobank.co.jp/retail/products/direct/about/service/kaigaikinmusha/index.html

みずほ銀行の海外勤務者送金サービスは、特に月額手数料が必要ではないという点が強い。三菱UFJやSMBCにある海外送金サービスは提供されていないが、ベーシックなサービスを無料で提供している点は素晴らしい。メインでなくても、サブとしてキープしておくのも良いと思う。

https://www.smbctb.co.jp/banking/overseas_usage/

サポートが手厚いのがSMBC信託銀行で、残高によっては口座維持手数料が必要になるが、勤務先によってはSMBC信託銀行と提携して無料でサービスを受けられる会社もあると思う。海外送金だけでなく、VISAデビットカードも引き続き利用できるので、非常に使い勝手が良い。ただ、SMBC信託銀行は貸金庫サービスはないので、この点は注意が必要。

ネット銀行で唯一非居住者向けの口座サービスを提供しているのがソニー銀行で、一部取引が制限されるが、VISAデビットカードなどは引き続き利用できる。特別な月額手数料が必要ないという点が良く、サブでもメインでも両方使えると思う。

https://faq.jp-bank.japanpost.jp/faq_detail.html?id=819

りそなGやゆうちょ銀行の場合は非居住者円預金口座への移管は可能だが、海外からりそなダイレクトを使った取引は不可能なので、実質地銀と同じだ。地銀でも非居住者口座の提供を行っていないので解約の必要がある銀行もある。新生銀行なども原則口座解約が必要になる。

海外赴任を機に口座の大掃除を

会社によると思うが、異動内示から実際の赴任までの準備期間は決して長くなく、子供や家族の赴任手続や引っ越し、学校の対策など様々な雑事に無限に時間を取られて、意外と銀行口座については後回しになったり、ギリギリの手続きになることが多いと思う。海外赴任を機に、利用頻度が低い口座については、残高を移す、解約するなどして掃除しておくのも重要だ。

特に、国内に住所がなくなると、お知らせなどの郵送物が届かなくなり、取引の制限や不正利用の可能性が高くなる。後々帰国した際に、再開や残高の回収が大変になることも考えられるので、可能な限り解約をお勧めしたい。


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