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通り抜けについて

通り抜け、を設計することがある。
地域の拠点になるような建築を作ろうと思うと、規模に寄らず、通り抜けを入れ込むことは一つの方法となる。
日本の共有空間(コモンスペース)の特徴は「道」であると思うからだ。
それは商店街だったり、あるいは神田の古書店街といった問屋街、専門店街など、道にとにかくモノや活動が溢れ出している。そういった空間はまだ都心でもたくさん残っているので多くの人にとって馴染みがあると言えるのではないだろうか。
そして商店街などのコモンスペースの特徴は、まさしく通り抜けができることである。これをわかりやすくいくつかの言葉に分解してみると、
袋小路になっていない、
明確な出入り口がないこと、
明確な用事がない人にとっても生活空間の一部として使われていること、
などだろうか。
通り抜け、を作ると、人的コミュニティが生まれるかというとそうではない。
ポイントは、異なる集団同士が交流が強制されるわけでもなく、ただ同じ空間に共存できる状態を自然な形でいかに作れるか、に尽きる。

下北線路街BONUS TRACK(設計:ツバメアーキテクツ/2020)撮影:morinakayasuaki 空撮提供:tsubamearchitects)
下北線路街BONUS TRACKは新築の商店街を作っている。大きな商業施設を街中に作るのではない。長屋状の建物が五つ並び、路地がいくつか入り込み、それらが集まる場所はなんとなく中庭にもみえる。地元の人が強い目的がなくても通り抜けたり、その過程で立ち寄れるような、町の一部となりつつ、少し特徴的な場所として浮かび上がるようなことを考えている。商店街の通り抜け空間を参照していると言える。

ツルガソネ保育所・特養通り抜けプロジェクト(設計:ツバメアーキテクツ/2017)撮影:長谷川健太
特別養護老人ホームに通り抜け空間を作った。
近所の高校生がこの敷地を、通学のショートカットに使っていることに目をつけて、その道沿いにバスケットコート、縁側、保育園、自動販売機、屋外コンセント(スマホやゲームを充電して良い)、ベンチ、トイレなどを、並べ、地域開放している。
福祉施設における近年の虐待や事件の多くは施設の内側で起こされている。それらは閉じた施設計画によって、日々の虐待などが外から見えなくなってしまったり、あるいは職員にとっての休憩する場所や風通しの良い場所が少ないことなど、建築がその原因を作り出していると感じる。通り抜けの方法を福祉施設に応用すると、例えば老人ホームであれば、高齢者と職員と近所の学生や近隣住民など少なくとも四世代くらいの人々が施設を行き交う環境が作れると思う。これは入居者にとっても、職員(専門家)だけに囲まれて生活するよりも窓先に他者が行き交うような気配が感じられることが自然ななあり方だと思う。

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かたや、これまでの日本の設計者にとっての設計可能なコモンスペースの、一つに公開空地がある。これは西洋的な広場空間をモチーフに作られてきたと思うが、イベントなどの特別な機会をのぞいて日常的に活気あるかたちで使われていることはまずない。というのも公開「空地」でありつつもそれは日常的には動線空間であり、建物側もリスクを避けるように管理をしていくことは当然と言える。そういった空地の空間利用に仕事として立ち会うことがよくあるが、手続きのステップも障壁になるので、やはり日常的に市民が使うような雰囲気にはなりづらい。
大雑把な言い方をすれば、広場(公開空地など)と道(通り抜け)の面積が仮に同じだとしても後者の方が小さな単位に分割できるので使いやすいように思える。さまざまでバラバラな活動が直接状に並ぶことができる。公開空地の場合、広場を比較的大きなきちんとしたイベントとして企画しないと寒々しい雰囲気になるだろう。(だから、参加の障壁も高くなる)
地域計画やビルなど街にインパクトを与えかねないプロジェクトを実行する場合、建物沿いに活動が許容されるような通り抜けをつくることなどを積極的にルール・設計与条件に盛り込んではどうだろうか。

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