ひなビタ♪8-2「凛として飲む紅茶の如く2」

※ひなビタ♪8-1「凛として飲む紅茶の如く」の続きです。

イベント一週間前、シャノワールの店内。
メイド服姿の一舞とまり花が、テーブルに座ってちくわパフェを食べさせあっている。

「まり花、召し上がれ。あーん。」
「あーん…はむっ。…うーん、おいひいよぉっ!やっぱり、ちくパは最高だねっ。」
「…って、まり花!さっきから、あんたばっかり食べてない?いい加減、交代するしっ!」
「イブの練習なんだから、いいじゃない。」
「まり花も練習しなきゃ、ダメじゃん!」
「ちぇっ、…はーいっ…。じゃあ、イブ、あーんっ。」
「あーん…って!?」
イブが口を開けた瞬間、まり花がスプーンを遠ざけた。

「えへへっ!イブ、だーまされたっ!」
「あんまりからかうなし!」
おもてなしの練習というより、まり花が一舞にちくわパフェを食べさせて、遊んでいるようにも見える。
隣の席では、同じくメイド服姿の凛が、咲子を相手に練習をしている。

「…め、召し上がれ…。あーん…、わっ、きゃっ!」
凛がすくったアイスとちくわが、スプーンからパフェの皿に落ちた。

「凛ちゃん、無理してたくさんすくわなくてもいいですよ。少ない量で十分です。」
「…加減が分からなくて…。難しいわね…。」
「スプーンの面に、まんべんなく乗るくらいでいいと思います。」
「うーん…。」
咲子のアドバイスに、凛が考え込む。

本番を想定した練習のため、四人はばっちりメイド服を着ているのだ。

パシャッ!パシャッ!

四人の練習の様子を、めうがデジカメでひたすら撮影している。

「りんりん先生、苦戦してるめう…。」
「めうちゃん、何で写真を撮ってるんですか?」
咲子の質問に、
「…きっ、記録用めう。」
めうははぐらかすように答えた。

「さきき、代わるめう。めうがお客さん役になるめう。」
「めうちゃんが?わ、分かりました…。」
話題をそらすように、あわててめうが咲子をどかして、凛の隣に座った。

「じゃありんりん先生、台本通りにしてみるめう。」
「…そ、それでは…、お客様、ちくわパフェを召し上がれ…。あーん…、きゃっ!」
凛のスプーンから、またアイスが皿に落ちた。

「りんりん先生、何してるめう?ちゃんとしなきゃダメめう。めうはお客さんめう!」

プツン!
めうの高飛車な言い方に、凛の堪忍袋の尾が切れた。

「じゃあ、もう一回するめう。あーん。」
「…め・し・あ・が・れ…。」
「めう?」

ビューン!!

凛の眼光が鋭く光り、スプーンからまるでプロ野球選手の剛速球のように、アイスとちくわが放たれた。そして、

バシッ!!ビシッ!!

「むっきゅーん…!…バタッ!」

めうのおでこがグローブのごとく受け止めて、のけぞった身体ごと、椅子の背に倒れ込んだ。

「ふおおっ、凛ちゃん、すごいっ!」
「…えっ…!?…ど、どうして…。」
我に返った凛は、無意識の動作に自分自身で驚いた。

「お客さんを、めうだと思えば緊張しないしっ!」
「いや、イブちゃん…、それは極端な例ですけど…。」
咲子が、凛に優しく話し掛ける。

「凛ちゃん。お客さんをあまりこわがらなくても、大丈夫ですよ。完璧にこなそうとするよりは、少しくらいの失敗があっても、おもてなしの気持ちがあればきっと通じますから。」
「…そうね…。私は、完璧にすることに、こだわり過ぎていたわね…。…はんこ屋も、少しは役に立ったわね。」
おでこにアイスとちくわを乗せたまま、めうは気を失った。

「…めう〜…。」
「これだと、めうめうがちくパみたいだねっ。」
「まり花、あんま笑えないし…。」



イベント前日。
この日は、五人全員でシャノワールのステージにメンバーの楽器を飾ったりなどの飾り付けをし、店内をすみずみまで掃除した。

「…よし、これで、日向美ビタースイーツ♪のアピールも出来るめう。」
「ふおおっ!楽器を飾るなんて、プロみたいでカッコいいねっ!」
「お恥ずかしいですけど、こういう機会でもないと、細かいところまで掃除が出来ませんからね。」
「お客さんを迎えるには、汚れてたらダメだし!」
「…古い内装に、新しい輝きが生まれた、ということね…。」

そして、イベントの内容を改めて確認した。
「それでは、確認するめう。」

イベントの名前は、
「C・K・P〜ちくパと紅茶のシャノワール〜日向美ビタースイーツ♪のおもてなしDAY」

「何で、ちくパが先に来るしっ?」
「…本当にちくパ推しなんですね…。」
めうの本気振りに、改めて咲子が感心…と言うか、半ばあっけに取られた。

イベント提供メニューは、
・紅茶とちくわパフェのセットのみ+オプションで、日向美ビタースイーツ♪メンバーのおもてなし

「めうめう、このオプションが、Bプランってことだよね?」
「そうめう。メニューを絞る分、愛嬌で勝負めう。」
「…愚昧な勝負ね…。」

イベントの客数は、
・限定30人、オープンと同時に整理券配布
・接客時間は20分(延長不可)

「めう、イベントの告知はしたんだよね?」
「シャノワール店頭の張り紙と、纒さんにお願いして、市役所のイベント案内に入れてもらっためう。」
「…30人も集まるんでしょうか。とってもとっても、不安ですね…。」
「キャパオーバーになってもダメめう。身の丈の規模が大事めう。」
「めうめう、時間も限りがあるんだね?」
「あまり長時間の接客は、安全面からやめた方がいいと思うめう。今回はちくパとシャノワールを知ってもらうことが目的だから、またゆっくり来て欲しいめう。」
「居座られても良くないですからね。」

そして、
厨房統括・会計が咲子
ホール統括がめう
ホール担当がまり花、一舞、凛
市報取材・店内見張りが纒
という担当割り振りである。

「みんなには台本を渡したけど、もう、実際の細かいところはアドリブでいいめう。みんなの個性を存分に活かして欲しいめう!」
「ふおおっ…、私らしく、ってことだねっ!」
「纒さんも、一日いるってこと?」
一舞がめうに聞いた。

「そうめう。さっき話した安全面からも、大人がいてくれた方がいいめう。」
「変なことをされたら、倉野川から追放だしっ!」
「倉野川に、そんな方はいないとは思いますけど…。万全を期してですね。」
「…でも、咲子が大変だよね?ちくパを作って、レジもしてって。」
「めうも厨房を手伝うから、心配ご無用めう。」
「…はんこ屋も、ちくわパフェを作るの?」
「にひひ…、最後にちくわを乗せる役めう!」

ガターン!!
全員がズッコケた。

「…そんなの、手伝ってるって言えないしっ!」
「めうめう、ウイットに富み過ぎだよぉっ!」
「あの…、パフェ作りは、私が土台のパフェを作って、めうちゃんにはデコレーションの、仕上げをしてもらいますね。」
咲子がフォローをする。

「芸術は爆発めう!」



「よしっ!これで、準備は全部出来たんだねっ。あとは明日一日、お客さんのために頑張ろっ!」
「…レコード屋は、前向きね…。」
連日の練習により不安はなくなったものの、凛はやはり心配であるようで、表情が少しこわばっている。

「凛ちゃん、私たちがいるから大丈夫だよ!」
まり花が凛を励ます。
「そうだよ、大丈夫!何かあれば、あたしが飛んで行くし!」
「教わったことをすれば、大丈夫ですから。自信を持ってください。」
「りんりん先生は、ぱーふぇくとめう!」
続けて三人も励まし、凛の顔が柔らかくなった。

「…ありがとう。」
「じゃあ、みんなで円陣を組もうよっ!」
まり花の呼び掛けに、五人で円陣を組んだ。

「シャノワールのイベント、頑張ろうね!大丈夫だよ!絶対、大丈夫だよっ!」
『オーッ!』

まり花、一舞、凛の三人が帰り、シャノワールは咲子とめうの二人になった。
咲子は明日のイベント本番に備えて、厨房で茶葉やアイスや果物、ちくわなどの、紅茶やちくわパフェの材料の在庫を確認していた。

(…よし、お客さんの人数分はありますね。確認は何回しても、やり過ぎることはないですから。)

その時、

パシャッ!
フロアから、シャッターの音が聞こえた。
(あれっ?…めうちゃんは、事務室にいるはずじゃ…。)

咲子がフロアに行くと、ピンスポットの照明がついていて、めうが上半身だけスーツ姿で自撮りをしていた。

「…めうちゃん、何をしてるんですか?」
「…さっ、さきき!?…な、何だ、まだ店にいためう?」
「それは、いますって…。在庫の最終チェックをしてたんですよ。って、めうちゃん、この前から何の写真を撮ってるんですか?」
「…仕方ない、さききには今話すめう。実は、最後にもう一つ計画があるめう。」
「…まだ何か、あるんですか?」
どこまで考えているのだろうか。
咲子はそう思った。

「それは…。」
めうが咲子に耳打ちをする。

「…そんなことも、考えてたんですか?」
「イベント後の、ひと稼ぎめう。」
「でも、みんな反対するんじゃ…。特に、凛ちゃんが…。」
「りんりん先生は押しに弱いから、押し切ればこっちのもんめう!」
「…だから、発言が怪しいですよ…。」
「明日のイベント後に、話すめう。」
「…どうなっても、知りませんからね…。」

そして、イベント当日。
結論から言うと、イベントは大成功だった。
五人はどのように活躍したのだろうか。

8-3に続く。

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