ひなビタ♪8-3「凛として飲む紅茶の如く3」

※ひなビタ♪8-1「凛として飲む〜」、ひなビタ♪8-2「凛として飲む〜2」の続きです。

純喫茶シャノワールで、紅茶の魅力と喫茶店の認知を広めるために開催されたイベント、
「C・K・P〜ちくパと紅茶のシャノワール〜日向美ビタースイーツ♪のおもてなしDAY」

シャノワールでの店頭掲示と久領堤纒による市報のお知らせのみの、限られた宣伝ではあったが、開店前から整理券を求めて行列が出来、30枚の整理券は即完売した。
日向美ビタースイーツ♪のメンバー五人が、それぞれのおもてなしを魅せた。

メイド凛の場合。
「注文が入りました!」
咲子の声が響いた。

「…!つ…ついに、来たのね…。」
「大丈夫ですよ、落ち着いてください。」
咲子に背中を押され、凛はホールに立った。
(※ここからの凛のセリフは、全てめうの台本によるものです。)

「…い、いらっしゃいませ、お客様…。本日…、お相手をいたします、凛と申します…。りんと、呼んで…ください。」
顔を赤らめ、スカートの裾を両手でつかみ、少しうつむき気味にあいさつをして、客を席にエスコートした。

『りんちゃんは、メイドは初めてなんですか…?』
「は、はい…。緊張…してますし、メイド服も…恥ずかしい…です…。でも、粗相のないようにお仕えいたしますので…、よろしくお願いします…。」

『!』
恥ずかしがりながらも、職務を全うしようとする凛の健気な姿に、客の心臓が撃たれた。

「そ…それでは、服が汚れないように、エプロンをお掛けしますね…。」
と言い、客にエプロンを着けた。
が、緊張からか、ひもがすべって上手く結べない。

(あ、あれっ…?)
「お、お客様…。申し訳ございません…。もう一度、結び直しますね…。」
と、その時、凛の身体が客に密着しそうになった。

『!!』
凛の甘い香りに、客の心臓が跳ね上がった。
だが、凛はリカバリーに夢中で気付いていない。

(…よ、よし…、これで、結べたわね。)
「お客様、大変失礼いたしました…。」
『い、いえ、大丈夫ですよ。気にしないでください…。』
客は今の密着で、凛に心を奪われた。
そして凛は、この失敗で逆に冷静になり、緊張がほぐれて落ち着きを取り戻した。

「…それでは、紅茶をお淹れしますね…。」 

凛はティーポットを手に取り、紅茶を淹れた。
「本日の紅茶は、シャノワールの店主が厳選した『さききスペシャル』です…。まずは、ストレートでお召し上がりください。お熱いので、お気をつけくださいね…。」
『はい。…?』
「…。」
凛が、客の顔をじっと見ている。

『ど、どうしました…?』

凛が微笑みながら答えた。
「お客様の飲まれるお顔を見るのも、私のお仕事です…。お気になさらず、どうぞ…。」
『は、はい…。』
今度は客の方が緊張し始めた。

ズズーッ…。
紅茶を口に運ぶが、凛の視線が気になって、味は半分くらい分かっていない。

「…お味は、いかがですか…?」
『はい、…と、とても、おいしいです。』
「…良かった…。お気に召されて、とっても嬉しいです…。」
凛は、上目遣いで微笑みながら、客に話した。

『!!!』
客の心臓が再び跳ね上がり、鼓動が激しく胸を打つ。

「…では、フードメニューのちくわパフェをお持ちしますね。」
と言い、席から離れて、ちくわパフェをテーブルに運んだ。
咲子が土台のパフェを作り、めうがトッピングのちくわを乗せた(だけの)、シャノワール特製「さきめうちくパ」である。

『…。』
やはりというか、その独特な見た目に、客は戸惑っている。

「…お客様は、ちくわパフェを召し上がるのは、初めてですか?」
たじろぐ客に、凛が優しく話す。

『は、はい…。噂には聞いてましたけど…。』
客がスプーンを手に取ろうとして、
「お客様、最初はスプーンを持たないでください…。」
と、凛が止めて、
「最初の一口は、私が食べさせて差し上げます…。」
と、アイスとちくわをスプーンですくった。

「…じゃあ、お口を開けてくださいね。はい、あーん…。」
客はまだたじろいでいるが、メイドの凛にそう言われたら、食べないわけにはいかない。
意を決して、ちくわパフェを口に入れた。

『…、あれ、意外においしい…?』
凛が心配そうに客を見る。

「…いかがですか、お客様…?」
『いや、見た目でちょっと戸惑いましたけど…、おいしいです。』
客の言葉に凛の表情がぱっと明るくなり、
「…ありがとうございます…。紅茶もちくわパフェも気に入っていただけて、本当に良かったです…。」
と言い、客の手を両手で握手した。

『!!!!』

ドーン!!
(笑◯せぇるすまん風に)

「…それでは、これで私は失礼します。お時間いっぱいまで、ゆっくりしてください…。」
と言い、凛は席を離れた。

この三段コンボに客は完全にやられ、白く燃え尽きた。

(※以上、台本終わり。)

「…よし、りんりん先生はばっちりめう。あとは順番に対応して、めう。」
「ミスもなかったですしね。」
厨房の袖から、めうと咲子が、凛やホールの様子を見ている。

「メイド達に言われたら、食べない選択肢はないめう。ちくパを知ってもらうには、うってつけめう!」
「めうちゃん、あのね…。」
めうのちくわパフェへの思い入れの強さに、咲子はツッコむ気力もなくなった。

「纒さんは、撮影しながら見回りですね。」
「そうめう。めうも、随時撮影をするめう。」
「…それは、もうやめた方が…。あとは、まり花ちゃんとイブちゃんですね。」
「あの二人は、放っときゃ大丈夫めう。」
「そ、そんな投げやりな…。」
「順応性が高いから、大丈夫めう!」

メイドまり花の場合。

「こんにちは!今日お相手をする、まり花ですっ!よろしくね!」
あいさつをして、客を席にエスコートした。

「じゃあ、服が汚れないようにエプロンを着けますね…って、あれっ?このひもは、どれくらい引っ張るんだったっけ…?」

グイッ!

『ぐえっ!』
まり花がエプロンのひもを締め過ぎて、客の首にエプロンが巻き付いた。

「ふおおっ!お客様、ごめんなさいっ!加減を間違えちゃった…。」
『い、いえ、大丈夫ですよ。気にしないでください…。』

「ごめんねっ!じゃあ、紅茶をお淹れしますね!」 

まり花はティーポットを手に取り、紅茶を淹れた。

「今日の紅茶は、さきちゃんがすっごく厳しい目で選んだ『さききスペシャル』なんだよっ。まずは、ストレートで飲んでみてください。熱いから、気をつけてねっ。」
『はい。』
「…。」
『…?』
まり花が、客の顔をじっと見ている。

『ど、どうしました…?』

まり花が微笑みながら答えた。
「何かねっ、お客さんの飲むお顔を見るのも、メイドのお仕事なんだって。気にしないで…、って、プッ、アハハハハッ!」
『…?だ、大丈夫ですか?』
「アハハハ…、ごめんなさい!何か、見てるうちに、お客さんとにらめっこしてるみたいになっちゃって…。でもでもっ、笑っちゃったから、私の負けねっ!」

『えっ!!…えーっと…。』
勝手ににらめっこの勝負を挑まれて勝手に勝者にされて、客の方がまり花を心配している。

「じゃあ…お次はっ、お待ちかねっ!フードメニューのちくわパフェを持ってくるからねっ。」
と言い、席から離れ、「さきめうちくパ」をテーブルに運んだ。

『…。』
見た目に、やはり客がたじろぐ。

「ねえねえっ、ちくわパフェは、初めて食べるの?」
『は、はい…。噂には聞いてましたけど…。』
「ああっ、最初はスプーンを持っちゃダメですっ!」
と、まり花が止めた。

「最初の一口は、私が食べさせてあげるねっ。」
と、アイスとちくわをスプーンですくった。

「じゃあ、お口を開けてねっ。あーん…。」
客はまだたじろいでいる。

「…ええっ?何で食べないの?おいしいから、食べないともったいないよっ!大丈夫だよ、絶対、大丈夫だよっ!」
まり花に強く推され、客はちくパを食べた。

「…どう、どうっ…?」
『うん…、おいしいです。』
客の言葉に、まり花の表情がぱっと明るくなった。

「でしょでしょ!さきちゃんの紅茶とちくパのおいしさは、無限大なんだからねっ!」
と言い、客の手を両手で握手した。

『!!!』

ドーン!!
(笑◯せぇるすまん風に)

「じゃあ、これで私は帰るねっ。純喫茶シャノワールも、日向美ビタースイーツ♪もよろしくねっ!」
と、ちゃっかりバンドの宣伝もしてまり花は席を離れた。

この三段コンボにも客は完全にやられ、白く燃え尽きた。



メイド一舞の場合。

「いらっしゃいませ、お客様!本日お相手いたします、一舞と申します。イブ、って呼んでね!」
あいさつをして、客を席にエスコートした。

「じゃあ、服が汚れないようにエプロンをお掛けしますね。」
と言い、客にエプロンを着けた。
普段の家事もあってか、実にスムーズに着け終えた。

『…イブさん、手慣れてますね。』
「えへっ、そう見える?ありがとっ!家でいつも着けてるから、慣れてるしっ。」

『いつも!?』
一舞のギャルの見た目とのギャップに、客の心臓が跳ね上がった。

「じゃあ、紅茶を淹れますね。」 

一舞はティーポットを手に取り、紅茶を淹れた。
「本日の紅茶は、シャノワールの店主が厳選した『さききスペシャル』です。まず、ストレートで飲んでみてね!熱いので、気をつけてね。」
『…。』

「んっ?…何、どうしたの?」
カップを手にしたまま飲もうとしない客に、一舞が質問する。

『じ、実は…猫舌なんです。』

客が恥ずかしそうに答えた。すると、
「なーんだ、早く言うしっ!だったら、あたしが冷ましてあげるし。」
と言い、ティーカップに顔を近付け、紅茶に息を吹き掛けた。

「ふーっ…。ふーっ…。」

『!!』

吹いた息が、客の顔にもかかるくらいの近さに一舞の顔が来て、客のボルテージは急上昇した。
肌の白さとくちびるの薄いピンクが、ギャルらしからぬ素朴さを感じさせる。

「ふーっ…。…ごめんね、あんまし冷めてないかも知れないけど…。まあ、気を付けて飲めば、大丈夫だしっ!」
客は熱さも忘れ、一舞の息のかかった紅茶を飲み干した。

「じゃあ、フードメニューのちくわパフェを持ってくるね!」
と言い、席から離れ、「さきめうちくパ」をテーブルに運んだ。

『…。』
異質な見た目に、客がたじろぐ。

「もしかして…、ちくわパフェを食べるのは、初めて?」
『は、はい…。』
「アハハ!それなら、引くのも無理ないしっ!」

客がスプーンを手に取ろうとして、
「ダメダメ、お客様が持っちゃダメだしっ。」
と、一舞が止めて、
「最初の一口は、あたしが食べさせてあげるっ!」
と、アイスとちくわをスプーンですくった。

「はい、あーん…。」
客はまだたじろいでいるが、
「…ちょっ!早く食べないと、アイスが溶けるしっ!ほらっ!」
一舞にせっつかれ、ちくわパフェを食べた。

「…どう、お客様…?」
『うん…、おいしいです。』
客の言葉に、
「でしょっ?見た目はともかく、食べてみたら案外おいしくて、イケてない?あたしのことも、ギャルって見た目だけで判断しちゃダメだし!」
と言い、客の手を両手で握手した。

『!!!』

ドーン!!
(笑◯せぇるすまん風に)

「じゃあ、あたしはこれで。咲子やめうが作ったんだから、残さず食べるし!」
と言い、一舞は席を離れた。

この三段コンボにも客は完全にやられ、白く燃え尽きた。

「みなさん、一通り接客はしましたね。」
「みんな、バッチリめう!」
咲子とめうが、まり花、一舞、凛をねぎらった。

「ふおおっ…、お客さんの相手って、大変だねっ。」
「凛、大丈夫だった?」
一舞が凛の肩をさすった。最初の緊張から解放され、安堵の表情を見せている。
「…き、緊張したけど…、何とか終わって、良かった…。」
「あとは、三人でまわせば大丈夫めう。」
咲子がめうに話し出す。
「それが…、纒さんから、私とめうちゃんも、一回は接客に出てみたら?って、提案があって…。」
纒が咲子をアシストするように、五人の前に現れた。

「ごめんね。まり花ちゃんたちのショットは撮れたけど、やっぱり全員のソロショットが欲しいのよ。パフェ作りは私も手伝うから、二人も一回、出てくれない?お願いだから。」
「私は大丈夫ですけど…、めうちゃんは?」
咲子の問いに、めうは、
「…よし、めうもやるめう!みんなに負けてられないめう!」
と意気込み、接客の準備をするために奥に引っ込んだ。

纒が咲子にお礼を言った。
「二人とも、ありがとう。」
「いいえ…。みなさんに、助けられてばかりですし。」

「…んっ?」
ふと、凛がめうのデジカメを見つけた。
手に取ると、電源がついたままになっていて、液晶画面に「メイド(物販)」と名付けられたフォルダがあるのを見つけた。
そのフォルダ内の画像を見て、凛は絶句した。

「!…。これは、何…?」
「そ、それは、めうちゃんが…。」
「…営業が終わったら、追及の必要があるわね…。」
凛の口調は、恐ろしいほどに冷静だった。

8-4に続く。

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