ひなビタ♪6「りんリン凛」
倉野川市、日向美商店街。
元気のなくなった地方都市の商店街を盛り上げるために組まれたガールズバンド「日向美ビタースイーツ♪」。
3月14日、ホワイトデー。
「凛ちゃーん!」
凛のもとに、まり花が走って来た。
「…どうしたの?レコード屋。」
「今日はホワイトデーでしょ?はい、マシュマロ!」
「…あっ、そう言えば、そうだったわね。私は、何も用意してないわ…。」
「んふふふっ…。りーんちゃんっ!」
むぎゅっ!
「!?」
まり花が、凛に抱きついた。
「…なっ、何?…レコード屋!?」
「凛ちゃんには、いつも助けられてるんだよっ。凛ちゃんがいなかったら、私達はバンドも続けられなかったかも知れないし。本当にありがとう!」
「わ、分かったから…。離しなさい!」
凛が抵抗し、まり花が離れた。
「ありがとう!」
と言い、凛にマシュマロを渡して、去っていった。
「…ど、どうしたのよ、急に…。」
ー
「おーいっ、リン!」
凛のもとに、次は一舞がやって来た。
「洋服屋…。相変わらず、派手な服装ね。」
「ホワイトデーの贈り物を、渡しに来たし。ほいっ、クッキー。」
「…貴方もなの?さっき、レコード屋も渡しに来…!?」
ぎゅっ!
凛が話し終わる前に、一舞が凛を抱き締めた。
「凛、いつもありがとう。時々怒らせちゃったりして、ごめんね。本当に感謝してるし。」
「よ、洋服屋も…。分かったから…、離して…。」
「じゃっ、また!」
と、一舞も凛にクッキーを渡して帰っていった。
「レコード屋も洋服屋も…、全く、このバンドの風紀はどうなってるの…?」
ー
「凛ちゃん。」
凛のもとに、続いて咲子がやって来た。
「今度は喫茶店ね…。ホワイトデーの贈り物を渡しに来たの?」
「そうです。よく分かりましたね?」
「…今日は、レコード屋と洋服屋が続けて渡しに来て、それで、私を抱き締め…って!?」
ぎゅっ。
咲子が、静かに凛を抱き寄せた。
「凛ちゃんは、みんなの支えです。いてくれるだけで、とってもとっても嬉しいです。いつも、ありがとうございます。」
「…き、喫茶店まで…。…ど、どうしたの…。」
「また、お店に来てくださいね。」
咲子が凛にチョコレートを渡し、帰っていった。
ー
「…今日は何なの…。!…もしかして…。」
凛は思った。
レコード屋、洋服屋、喫茶店と来て、はんこ屋が来ないことがあるだろうか。いや、ない。(反語)
これは、はんこ屋のさしがねではないだろうか。いや、間違いない。(確信)
「…警戒しておかないと…。」
周囲には誰もいない。
「…大丈夫そうね。」
と、その時。
「むっきゅん!りんりん先生っ!」
ガシッ!
凛の足に、生あたたかい感触を感じた。
「えっ…、ふぇぇっ!?」
足もとを見ると、凛の足にめうがしがみつき、太ももに頬ずりをしていた。
「…りんりん先生のおみ足は、すべすべしてて、さいこーめう…。」
「ちょっ、ちょっと!…はんこ屋、なっ、何をしてるの!離しなさい!」
「…それは無理な相談めう…。」
「…こんなところで、卑猥極まりない行為はやめなさい!」
少し離れたところで、まり花、一舞、咲子が二人を眺めている。
「あーあっ…、どうせ、こんなことだろうと思ったし。」
「めうちゃんから、『りんりん先生にホワイトデーのサプライズをするめう!』と言われたから、合わせたんですけどね…。」
「…めうめう、ちょっとうらやましいな…。」
「うらやむところが違うしっ!」
「ま、まり花ちゃんも、しがみつきたいんですか…?」
「…貴方たち!遠巻きに見てないで、助けっ…、いっ、いい加減、離しなさい!」
「せっ、せめて、あと五分だけめう!」
「…どうせ、五分過ぎても離さないでしょ!」
凛とめうの攻防は、しばらく続いた。
終わり。
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