ひなビタ♪13「りんちゃんりんたんぺったんたん」

※作中のスタンプラリーは、架空のものです。

倉野川市、日向美商店街。

元気のなくなった地方都市の商店街を盛り上げるために組まれたガールズバンド「日向美ビタースイーツ♪」。

6月。
倉野川市にとって、毎年の恒例イベントである「倉野川ぺったんたんラリー」が、今年も開催される。
このラリーは、倉野川商店街のお店を訪れたり、飲食店で食べるとお店からスタンプ台紙にスタンプがもらえ、スタンプの個数によって日向美ビタースイーツ♪のグッズがもらえる、というイベントである。
期間は6月から翌年の3月までと、ほぼ年度を通してであるが、その分参加がしやすく、毎回グッズの内容も変わることから、日向美ビタースイーツ♪のファンにとっての一大行事となっている。

咲子の喫茶店、シャノワール。
日向美ビタースイーツ♪の五人が、いつものように集まっている。

まり花が話の口火を切る。
「今年もぺったんたんが始まるねっ!」
一舞も続く。
「また、たくさんの人に来てほしいしっ!」
「倉野川市にはもう、欠かせないイベントですからね。今回も、ちくわパフェをとってもとっても、たくさん用意しないといけませんね。」

シャノワールは喫茶店なので、メニューをどれでも一品食べると、スタンプを押してもらえるのである。
が、イベントの期間は、もはや倉野川名物と言っても過言ではないちくわパフェが、多く頼まれる。

「今回は、新しくぺったんたん用のはんこを、商店街のお店に売るめう!」
「めうは商魂たくましいし…。って、はんこなんて、ちょっとやそっとじゃ壊れないっしょ?」
一舞が、あきれ気味の目でめうを見ている。

「にひひ…、それと、商店街だけじゃなく、お客さんにも売るめう!イベント限定と銘打てば、プレミア感が出るめう。」
めうは、イベントではんこをいかに広めるか(というか、売るか)を考えているようである。

「…イベントに乗じて自店の売り上げを伸ばそうなんて、愚昧な企みね…。」
「…ギクッ。」
凛が、めうに釘を差した。

「…商店街にとっては売り上げも大事だけど、このイベントは倉野川市や日向美ビタースイーツ♪を知ってもらうことと、応援してくださる方への感謝がメインだから…。」
「そうですよ、めうちゃん。これで倉野川や私たちのファンになって、足を運んでくだされば、賑わいが生まれますから。」
「目先だけにとらわれたら、ダメだしっ。」
咲子と一舞にもたしなめられ、さすがのめうもうなだれる。

「…わ、分かっためう…。」
「めうめう、落ち込んじゃダメだよっ。私たちの音楽で、みんなを幸せにしちゃおうよっ!」
まり花がめうを励ます。

「そ…そうめう。はんこも音楽も、大事めう!」
「元気になって、良かったです。グッズも人気ですよね。」

スタンプの個数によってもらえるグッズは、日向美ビタースイーツ♪のバンドロゴステッカー、メンバーのイメージカラーのボールペン、メンバーの写真とサインをプリントした色紙、ポスターがある。毎回デザインが変わっていて、ファンを飽きさせない工夫を凝らしている。

「でも、スタンプの、フルコンプでのプレゼントは、ないんだよねっ?」
まり花が確認するように言った。

「ですね…。フルコンプ自体が、目的ではありませんしね。貯まっていく過程も、楽しんで欲しいですからね。」
「それなら、フルコンプをした人から抽選で、フルコンプ賞をあげたらどう?」

『フルコンプ賞?』
まり花の提案に、四人が驚く。

「うん。せっかく全部貯めてくれたんだから、何もないのもかわいそうだよっ!」
「抽選ったって、何すんの?」
「そうだねっ…。私たちと一緒にバンド演奏ができる、というのはどう?」

まり花の提案は、日向美ビタースイーツ♪と、セッションができる権利、というものである。

「いいとは思いますけど…、楽器や音楽をされてない方には、難しいんじゃないですか?」
咲子が、至極当然の疑問を投げかける。

「うーん…。それなら、タンバリンさんで参加してもらおうよっ!」

ガターン!!
四人がズッコケた。

「…たっ、タンバリン…?」
一舞が、半分あきれ顔になった。

「そうだよっ!『恋とタンバリン』みたいにさっ。」
「何で、曲名まで変えるしっ?」
「イブの曲をやりたいなら、『イブのタンバリンっ!』とか。」
「あたし、タンバリンは持ってないしっ!」
「めうめうなら『めうめうぺったんタンバリン!』とか。」
「中途半端に収まってるめう…。」
「さきちゃんなら、『とってもとっても、タンバリン。』とか。」
「…タンバリンが大好きな人みたいですね…。」
「でっ、りんちゃんならっ、『虚空と光明のタンバリン』かなっ!」
「…そんな高尚なタンバリン、聞いたこともないわ…。」
まり花が一気にまくしたてた。

「だけど…やっぱり、バンドの体験って、ターゲットが限られなくない?」
「万人向けとは、言いにくいですね…。」
「それと、まりりっ。実はタンバリンって、音もリズムも、すごく合わせにくい楽器めう。日向美の曲だと、浮いてしまうめう?」
「うっ…、うーん…。」
トリプルでツッコミが入り、まり花が少し黙り込む。

「…それならっ、トライアングルさんならどうかな…?」

ガターン!!!
四人が再びズッコケた。

「…が、楽器のチョイスの問題じゃなくて…、もっと根本的なことよ…。」
凛がおでこを押さえてよろめきながら、小声でつぶやいた。

「もっと、誰もが参加しやすいものがいいんじゃないですか?」
「うーん…。」
咲子の問いに、まり花が再び考える。

「そうだっ!それなら、私たちと一日デートできるのはどう?」

『デート?』
また、四人が驚く。

「うん、私たちが日向美商店街を案内するんだよっ!」
「それは、面白いと思うけど…。あたしたち、五人が一気にすんの?」
「相手をするのは、誰ですか?」
「代表は一人にした方が、いいと思うめう。…そこの、おみ足が素敵な先生とか。」
めうが、凛に視線を向けた。

「えっ…、…私…?」
「そうめう。商店街にねじれた愛情を持っているりんりん先生の案内は、一味違うと思うめう。」
「…ね、ねじれたって…。…貴方たちの方が、適任じゃないの…?」
「普段、間違ってもやりそうにない人がやるから、面白いめう!まりりたちがやっても、ありきたりめう。」
「…確かに、あたしたちだと、意外性がないし…。」
「凛ちゃんとデートなんて…、とってもとっても、ワクワクしますね!」
「どんなのがいいかなっ?」
「りんりん先生を、安売りしないようなプランにしないといけないめう。」

まり花たち四人が眼を輝かせながら、デートプランについての話を始めた。
その横で、凛が100%諦めの眼をする。

「…わ、私はもう…、売られることは、確定なのね…。」

「私たちのお店を、凛ちゃん仕様にするのはどうかなっ?凛ちゃんの好きそうなものを置く、みたいな。」
「いいじゃん!面白そうだしっ!それをリンに紹介してもらうとか。」
「レコード店でしたら、凛ちゃんの好きなジャンルの音楽ですか?」

めうが、凛のものまねを始める。
「…このバンドは、轟音とホワイトノイズが退廃と懊悩を表現しているめう…。」
「アハハハ!めう、似てんじゃん!」
一舞がツボにはまったのか、手を叩いて笑っている。

「それなら、イブちゃんの洋裁店は、黒服を並べるとかですか?」
咲子もアイデアを出す。
「うーん…、黒い服って、意外に揃えるのがムズいんだよね…。」
頭をかく一舞に、めうが提案する。

「黒いストッキングは、どうめう?」
「いいねっ!ストッキングなら、在庫にもならないし。」
「『りんりん先生のおみ足着用ストッキング』と銘打てば、売れそうめう。」
「めうちゃん…。あさっての方向に向かってますよ…。」

「じゃあ、さきちゃんのシャノワールはどうかなぁ?」
まり花が続けて提案した。

「シャノワールなら、ズバリ、『ブラックちくわパフェ』めう!」
「ブ、ブラックですか?」
「いつものちくわパフェを、チョコアイス、ココア味のウエハース、チョコチップとかの黒い食材で、真っ黒にするめう!」
「ちくわはどうすんの?ちくわだけ白いと、浮くっしょ?」
「にひひひ…、ちくわには、イカスミを練り込むめう!」
「うわぁ!手が込んでるねっ!」
「わざわざ、ちくわまで作るんですか…。

「オールブラックが、こだわりめう!」
「…咲子が大変だし…。」

「最後に、めうめうのお店は、どんなはんこにするのっ?」
「まりり、よく聞いてくれためう…。りんりん先生のはんこは、黒チタンで作るめうっ!」
「…それは、他のメーカーさんからも、出てないですか…?」
咲子が気まずそうにツッコむが、めうは動じていない。

「こちらは『りんりん先生の名言はんこ』を作るめう!『愚昧ね』『滅びなさい』などの名言が、ぺったんたんできるめう。」
「…推し活のときしか、使いみちがなくない?」
いたって冷静な一舞である。

「そうめう。究極の、ファンアイテムめうっ!」
「ふおおっ…!りんちゃんが、いつでもぺったんたんなんだねっ!」
「…まり花ちゃん…。その言い回しも、あさっての方向に誤解されかねないですよ…。」
「事実だから、大丈夫めう!」
めうが力強く断言した。

ゴンッ!
凛が四人の横で、テーブルに頭を打った。
「凛ちゃん…、呼吸、できてますか…?」
咲子が凛に話し掛けるが、凛はうつ伏せのまま、小声でつぶやいた。

「…はんこ屋にだけは、言われたくないわ…。」

「うーん…。」
まり花が考え込む。

「どうしためう?」
「フルコンプ賞もいいけど…、考えてたら、私がりんちゃんとデートしたくなっちゃったっ!」

ガターン!!!!
四人が三度ズッコケた。

「…まりり、一人だけ抜け駆けはずるいめう!めうも、りんりん先生とデートしたいめう!」
「…私も、凛ちゃんとのデートは興味があります。」
「じゃあ、みんなでデートしようよっ!おいしいものを食べたりとかさっ。」
「…それは、結局普段と同じじゃん…。まり花ったら…、って、リン?」

ダブルのボケを喰らって、凛の身体はテーブルにめり込んでいた。
「…私は、…ぺったんたんから、逃れられないのね…。」

終わり。



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