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【2023アイスホッケー女子世界選手権】第2戦 日本vsチェコ 試合レポート

延長で力尽きるも、前年3位の相手に互角の戦い

攻撃の形、成長を見せたスマイルジャパン

スマイルジャパンは前回銅メダルのチェコ相手にも僅差の戦いを見せた

IIHF女子世界選手権トップディビジョン 
会場:CAAセンター(カナダ・ブロンプトン)
グループA予選リーグ 第2戦(現地4/7 15:00F.O. )

日本 1(0-1、0-0、1-0、0-1)2 チェコ
ショットオンゴール(SOG):日本17、チェコ28

取材・文・写真/アイスプレスジャパン編集部

2023シーズンのIIHF女子世界選手権がついに開幕。
アイスホッケー女子日本代表(=愛称・スマイルジャパン)はカナダ・トロント近郊の街ブロンプトンにあるCAAセンターで世界トップ10ヵ国が集結した大会に挑んでいる。前回大会で過去最高の5位を獲得したスマイルジャパンは今大会、ベスト4入りを目標に掲げている。

まず2強の一角を形成する強豪・アメリカと対戦した大会初日の模様からお伝えしよう。
第1ピリオド8分14秒、小山玲弥(こやまれみ/SEIBUプリンセスラビッツ)がゴール裏までしっかりパックを追いフォアチェックを貫徹。相手DFからパックを奪うとゴール正面で構えていた床秦留可(とこはるか/linkōping(SWE))へバックパス。これを床(秦)がゴール左スミに決めきって強敵アメリカ相手に先制点を挙げた。
その後はアメリカの巻き返しに屈し1-7で敗れたものの、先制点を日本が奪ったという事実は女子アイスホッケーを長年見続けている北米のファンに衝撃を与えたことは間違いなかった。

その対戦から一夜明け、2日目の対戦相手はチェコ。前回大会ではBグループスタートだったが、準々決勝でフィンランドを、そして3位決定戦ではスイスを破って銅メダルと大躍進をとげた相手。急成長しているチェコに対して日本がどこまで互角に戦えるのかを問われる試合となった。(※日本は前回大会、ロシアの出場停止に伴い繰り上がってAでのスタート)

しっかり守った第1ピリオド。しかし一瞬のスキを突かれる

第1ピリオドはお互いに失点をしないような慎重な入り。
お互いに流れの中でチャンスを作りながら単発でのシュートにはもっていくことはできるものの、波状攻撃をかけるようなシーンは両者ともに見られず、ディフェンシブな戦術をとりながら相手のスキを伺う展開のなか時間は経過していく。

そして第1ピリオドも残り1分を切り、両者ノースコアでインターバルに突入するのかと思わされた流れのなか、わずかなチャンスを先にものにしたのはチェコだった。
 
右サイドのボードぎわでのパックの奪い合いをチェコの選手が制すと、パックは中央にいたDaniela PEJSOVAへ。PEJSOVAは素早い動きで日本DFのマークを外すとゴール正面からシュート。Klara HYMLAROVAがゴール前でスクリーンに入ってGK増原海夕(ますはらみゆう/道路建設ペリグリン)の視線を完全に隠しており、それはGKにとっても対応が非常に難しいシチュエーションとなっていたが、この見事なゴールでチェコが試合を1-0に。

第1ピリオド終了間際で痛恨の失点

一瞬でよい攻撃の形を作られ失点することとなった日本。ピリオド残りわずかで先制されたのは悔やまれる。しかし、その直前まではしっかりと守りの意思統一ができており、第2ピリオド以降の巻き返しに期待がかかることとなった。

徐々に日本らしいプレーが出始めた第2ピリオド

床秦留可選手はチェコ相手にも当たり負けしない強靭さを見せていた

第2ピリオド、徐々に攻撃の圧を増やして日本は巻き返しに出る。
流れを変えたのはキャプテンの小池詩織(こいけしおり/道路建設ペリグリン)をはじめとするディフェンス(DF)のメンバーが徐々に攻撃へとうまく切り替えできたこと。
日本はブルーライン近くの遠目の位置からでもアタッキングゾーンに入るとすぐ積極的にシュートを放つようになり、さらにそのリバウンドも拾って再度シュートを打つなど連続攻撃が見られるように。その勢いに押されて徐々にチェコが自陣側に押し込まれる形となった。
そんななか日本にビッグチャンスが訪れたのが13分過ぎ。チェコの攻めをしっかり受け止めるとその直後にカウンターで逆襲へ。山下光と志賀紅音の2人が抜け出してゴール―キーパーと2対1の状況を作ると、山下からの横パスを受けた志賀(紅)が思い切ってワンタイマーでシュート。

志賀紅音選手(写真)のシュートは惜しくもクロスバー。次戦以降に期待がかかる

この攻めは展開としてはほぼ完ぺきだったが、パックは惜しくもクロスバーを直撃し、ごくわずかの差で同点とはならず。
しかし、この攻撃に象徴されるように日本は前回3位のチェコと堂々と互角以上の内容で渡り合い、チーム力が向上していることを間違いなく示した。

スウェーデン留学で成長。床秦留可のプレーで同点に

その流れを受けて入った第3ピリオド、日本に待望の同点ゴールが生み出される。

相手DFが4人ゴール前に集まったその瞬間に、床(秦)が左サイドからゴール前のスロットへDFの間を縫いながら一気に切り込み、シュート。この1本はGKが体に当てて止めたもののそれが精いっぱいで、ポロリとこぼれたパックに詰めた浮田留依(うきたるい/Daishin)がしっかりとスティックを伸ばしてゴールネットへ押し込む。
床(秦)の切れ味ある個人技から生み出したこの得点機をついに日本はものにした。

床(14番)のシュートリバウンドを浮田(一番右)が押し込む

その後は両者とも守りを固め、とにかく先に失点したくないという気持ちの伝わってくるような流れとなった。
日本はチェコの攻撃に対してDFとGKがうまく連携して対応。GK増原もほぼミスのない判断と動きを見せて日本のゴールマウスを死守した。
結局、第3ピリオドに日本が追いついた後は両者得点なく、試合は今大会通して初となるオーバータイム(OT)に突入した。

ペナルティーの窮地からOT弾を決められるも勝点1を獲得

世界選手権のレギュレーションによると、グループリーグでのOTはプレイヤー3人対3人で5分間の延長戦。両国ともエース級を投入しての激戦となった。
先にチャンスを奪ったのは日本だったがシュートを決め切るには至らず。
いっぽう、パックをハイスピードでキープしながらアタッキングゾーンを走り回る形をチェコに作られると、これを追いきれなかった日本DFが後ろから相手をひっかけペナルティー。日本がパックを奪わないと試合が止まらない状況となったためにチェコはチャンスとばかりにGKを上げて4人対3人で厚みのある攻撃で襲い掛かる。
日本DFもペナルティー宣告から1分以上を踏ん張りながらなんとかパックを奪えないかと試みるものの、延長戦での4人対3人のシチュエーションは通常以上に人数の差が大きく影響する。1分30秒は全速でプレーできる限界をとうに超えた秒数だ。選手は息があがり、徐々に足が止まり動けなくなってしまう。
最後はパックを左に大きく動かされGKが横移動で対応するものの左右に振られながらのワンタイマーシュートを連続で打たれて万事休す。
残り1分45秒まで耐えたものの、ついにチェコに勝利を与えることを許してしまった。

左右に揺さぶられて耐えきれず決勝点を献上

この60分を超える戦いで善戦以上の試合内容を日本は見せてくれた。最後の最後に力尽きたものの、前回3位の相手に対してあと少しだけ流れが向けば勝てたかもしれない内容ではあった。それだけに勝ち切れなかった悔しさは余計に募るが、チェコやスイスとはそれほど力の差がないことを証明してくれた戦いでもあった。

悔しいOT負けだが日本の力はグループAでも通用することを示した

カナダ、アメリカの2強を除けば日本、チェコ、スイスの3チームが横並びのグループA。大会前はその中でも少し格下と見られている日本がどこまでやれるかが問われていたが、選手たちはその答えをしっかり示してくれたような気がする。

飯塚祐司監督(右から2人目)と中島谷友二朗コーチ(右から3人目)

「チェコは前回フィンランドに勝って自信をもって今回トーナメントに来ているだろうと思っていた。北京オリンピックのときのイメージ、押され気味ながらもなんとかゲームウイニングショットで勝ったときよりは良い展開にもできたと考えています。失点についてはまだ勝負に行くようなシチュエーションでないところで行ってしまった。そこは修正していきます」と飯塚祐司監督は試合を振り返る。
この試合で日本は初日アメリカ戦に続き2連敗となったが、グループAでの戦いでは当初に負けが続かざるをえないことは首脳陣も選手も納得済み。飯塚監督は「今日の内容であればスイスとも良い勝負になる」という。
「選手たちも良い手ごたえをつかんだはず。前回デンマークでの大会では4連敗してからの2連勝。そういった形でも前回大会で(過去最高成績の)5位を取れたことはとても自信になっているし、そのあたりの経験から気持ちの面も鍛えられていると思いますので、チームのムードが落ちることはないと思っています」と飯塚祐司監督自身も納得の表情だった。

日本は次戦、1日休みをはさんで世界ランク1位のカナダと対戦。
その翌日には絶対に負けたくない相手となるスイス戦が控えている。

チェコから勝ち点1を奪えたことを意味あるものにできるかはカナダ、スイスと戦うこれからの2試合に懸かる。2強に次ぐ3位でグループAを通過できるチャンスはまだまだ十分残っている。
<了>

ポタやんです。基本的にはライター&編集者ですが、最近は映像制作も精力的に行っています。現在アイスホッケー&アイスクロス情報サイト「IcePressJapan」を運営中。冬スポーツ色々を盛り上げるべく頑張ります!