すやすやBAR怪文書「最近あったこと」

先日、夜道を歩いていたら道端に落ちていた光る石を拾いました。
なんだろう?と思って辺りを見回してみるけど、ただいつものように蛙が鳴いているだけ。
そこには何もありませんでした。

すると空から「ごめん、それ落としちゃったんだ」という声が聞こえてきます。
なんだろうと見上げてみると、さっきまで月だったところからのぞき込む紳士の顔。
ビックリした私は尻餅をついてしまったんですが、その紳士は優しく声をかけてくれました。

「おっと、驚かせて申し訳ない。
星の配置を変えていたんだけれど、手が滑ってしまったんだ」

その紳士が話してくれたのは夏から秋への季節の移り変わりの話しでした。
人が寝静まったあと、彼は1人で少しずつ星の位置を変えているそうです。

何年も、何十年も、何百年も前からずっと1人で。

最近は目が悪くなってしまいモノクルが手放せなくなったそうです。
それでも季節の巡る時期になると、ただただ静かに作業をしていました。
今日も星の位置を入れ替えていたのですが、手を滑らせて落として困っていたようです。

「えっと、これを…どうしたら良いですか?」

私は尋ねました。

「少しだけ手伝ってくれれば星は帰って来るからね。上に軽く放って欲しいんだ」

試しに紳士の教えてくれた通りに軽く、ほっと放り投げてみました。
すると星はキラキラと輝きながら浮かび上がり、紳士の伸ばした手へと戻りました。

「ありがとう、こうして手伝ってもらったのはどれくらい振りだろうか
またいつかどこかでお会いすることがあるだろう」

そう言うと彼は笑顔で手を振り、月もいつもの安らかな表情へと戻りました。
私はただ彼の居た月を見上げて夏の終わりと、秋の始まりを知りました。

まだ暑い、立秋の満月の夜のお話しでした。

https://www.youtube.com/watch?v=7rF0eyr-ivk&t=1706s

20:17~ うまぴさんのすやすやBAR 2022.09.13へ投稿



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