私には小学生に上がる前の記憶がほとんどない。驚きにあふれた世界で、子どもらしく生きること。
聾学校幼稚部の年長のときだったと思う。
教室の棚にセロテープがあった。セロテープの歯にそっと人差し指の腹を当ててひっかくと、うっすらと縦何本かのひっかき傷ができる。だが血は出ない。
これを「発見」した私は興奮した。この驚きを誰かに伝えたかった。近くに、1つ下の子がいたので呼び、喜び勇んで教えた。その子も、おおおと驚き、セロテープの前で、2人で興奮していた。
幼稚部にはホールがあって、ホールに3つの教室が面していた。教室への出入りには、ホールを通ることになる。
セロテープ「発