日記34 見りゃわかるでしょ、頑張ってるわ
(大長編)
イスラム教徒は、少なくとも一生に一度聖地メッカを巡礼しなければならないと昔教わった記録がある。そしてそれと比較していいのかどうかは謎だが、プロ野球ファンには、少なくとも一生に一度巡礼しなければならない(?)ものがある。
春季キャンプだ。
行われるのは2月。大型連休のないこの時期に沖縄まで行くなんてのは夢のまた夢な話だったが、今回は「社会人なりたてお疲れ回」ということで、強引に予定をねじ込んで2泊3日のキャンプ見学に行ってきた時のことを書き残しておく。
(※備忘録なのでファンサービスをしてもらった事も書き残しておくけど、全て「偶然と選手のご厚意の産物」でしかないのでご注意)
Day1 沖縄入り〜北谷
朝5時台の地下鉄に乗るところから始まり、いざ沖縄へ。実は沖縄は生まれてこのかた一度も足を踏み入れたことがない所なのでドキドキする。期待と乗客(半分ぐらいはおそらく同業者と思われる)を満載にした飛行機は2時間と少しのフライトを経て、琉球の玄関口・沖縄は那覇空港へ着陸した。
まず向かうのが、今回の宿泊地にしてメインイベントでもある中日ドラゴンズのキャンプ地、北谷町。そもそも後述する美浜アメリカンビレッジに代表されるリゾート施設満載の街なのでバスの種類も多く、適当なリムジンバスを見繕って乗車する。那覇の市街地を縫うように抜け、沖縄のメインルートの一つでもある国道58号をひたすら北東へ進む。建物の雰囲気は「どこがどうで…」とはっきり具現化できないがなんとなく「南国風」な感じ。雨風にも強そうな建物ばかりで、木造建築はほとんど見当たらない。さらには米軍のキャンプらしき建物やその敷地が延々と続く風景は、間違いなく日本ではあるが歴史の跡が色濃く残っていて飽きない。その一つ一つに意識を奪われつつバスに揺られ、1時間ほどで北谷に辿り着いた。
荷物を宿泊地に預け、歩いて球場へ。プロ野球を本格的に追い始めて5年目、何度もYouTubeやテレビで観ていたあの景色がそこにあった。
中日ドラゴンズ1軍キャンプ地、Agreスタジアム北谷。いつか行きたいと思っていた光景に感動を禁じ得ない。名古屋から何百キロと離れた地ではあるがドラゴンズファンが大勢詰めかけていて熱気もすごい。これがキャンプか…!
まずはメイングラウンドへ。昨年は(チームの低迷もあって)現地観戦が減り、選手を見るのも久しぶり。黙々とバットを振り込む選手をぼーっと観る、幸せな時間だ。時間は14時を回っていたが遅めの昼食を摂りつつ、まずは「キャンプに来た」感動にひたる。
さて、この日は球場に着けたのが14時ごろ。練習はだいたい16時に切り上げることが多いので、元々この日は偵察程度のつもりだった。しっかり見るのは後日にして、今日はキャンプの練習場や導線を観ておこう!ということで、メイングラウンドを出て北谷公園内を散歩する。
とにかく行くぞ!ということでブルペン、室内練習場(Agreドーム)と巡るも、時間的に練習は行われておらず。「まぁこんなもんか〜」と思いながら再びメイングラウンドの方へ戻ることに。
すると前から何やら人だかりが…!なんと、自転車で移動中の岡林選手・村松選手がこちらへやってくる!あわあわしつつ道を開け、とりあえず「頑張ってください!」と声を掛けることしかできなかったが……いきなりゼロ距離で一流選手と遭遇したことで感動値が上がる。
しかし、偶然はそれだけではなかった。数分も立たないうちに、周りのドラファンがざわざわする。そして「机来た!」と誰かが叫んだ。これはつまり……「(公式の)即席サイン会が行われる」ということ。その意味を理解した瞬間、周りに流されるように急いで(ファンが自動的かつ見事なまでの統率のもとに形成していく)列に走る。叫び声のおかげでかなり早く気づくことができ、ドキドキしながら開始を待つ。最初はどの選手が来てくれるのかわからなかったのだが、ファンのざわめきの中から少しずつ「根尾」というワードが。なんと、根尾昂投手のサイン会に参加することになってしまった。
列はスムーズに流れ、いよいよその時が近づく。サイン会は能登半島地震の募金も兼ねていたようで、(動機がやや不純だが)しっかりと英世をin。そして持参したユニフォームにサインをもらうことができた。
そんなこんなで、わずか2時間弱の滞在にしては色々起こりすぎ、「これがキャンプか……!」と思わされた初日。疲れていたし、お昼を食べたのも遅かったので、隣の美浜アメリカンビレッジに乱立するステーキハウス群を完全スルーしてくら寿司へ。名古屋でもいつでも食べられるけど、「旅先であえてチェーンに行く」というのも意外といいものだなぁと改めて感じた初日だった。
Day2 金武
おはようございます。前日コンビニで買っておいた、「朝食べる用の即席沖縄そば(しかも茹で麺)」という斬新かつご当地感満載の「朝すば」をすすり、ホテルを出てオリックスレンタカーへ向かう。
今日の目的地は北谷……ではなく金武(きん)町。ドラゴンズともう一つ、個人的に推している東北楽天ゴールデンイーグルスのキャンプを見るべく、おおよそ2年ぶり(一週間前に少しだけ練習した程度)にハンドルを握り、高速に乗って1時間ほど車を走らせる。
なんとか無事故で走りきり、球場へ。この日は練習開始(10時)の30分ほど前には着けたので、導線(というか「立ち入っていいところ」)もバッチリ把握。 グラウンドに入り、スタンドで座っているとぼちぼち選手が集まってきてウォーミングアップが始まった。
しかし、いくら練習を見るのが楽しいと言っても、ウォーミングアップはさすがに盛り上がりどころがない。しかもスタンドから遠い外野の方でマットを敷いてストレッチしたり、軽いランニングをしたり……と、(もちろん大事なのはわかってますが!)遠すぎて誰が誰かわからない中でそれらの動きを遠巻きに見ているだけだと…。ということでサクッと移動することに。球場にはその日の簡単な予定(メニュー)も張り出されていて、どうやら投手陣がブルペン入りするようなので、そちらを見に行くことにする。
近っ。伝わりにくいんだけど、ズーム無しでこの近さ。肖像権とかが怖いので背中ショットしか載せないようにするが、本当に距離が近い。田中将大、早川隆久、鈴木翔天(敬称略)とチームの柱とも言うべき一流選手が、思い思いにボールを投げ込む。観ていて感じたのは、「淡々と、黙々と投げるというよ りは、結構コミュニケーションを取りながらなんだな」ということ。カウントや場面を想定し、宣言してから投球したり、ボールを受けるブルペン捕手と意見交換をしながら一つ一つ丁寧に投げている。これがプロの調整か。たまに投げミスをしたときは、ちゃんと悔しがったり謝ったりするのも、人間味があって面白い。
そして嬉しかったのは、21年に仙台で現地観戦した試合の先発で、以来推してきた瀧中瞭太投手のブルペン投球も観られたこと。ブルペンで投じる球数は、その後のスケジュールや個人の調整のスピードもあるのでまちまちなのだが、瀧中投手は確か80球かそれ以上と、実戦での球数に近い長時間の投げ込みを行っていた。いくつかレーンがあるうちの一番奥で投げていたので写真を撮るのは諦め、持参したタオルを掲げて見守ることに。去年一昨年と成績が振るわなかったけど、今年は期待を込めて……ひたすら念を送る。
長い投げ込みを終えて瀧中投手が引き上げると今度は新守護神の則本昂大投手がブルペンに入り、投球練習へ。正直マジで永遠に観ていられるし、実際十数分ほど観ていたのだが、ずっとブルペンだけというのももったいない気がして一旦離脱。メイングラウンドの様子を見に行くことにした。実はブルペンの観覧場所からメイングラウンドの入口にいくまでの道中には、選手がトレーニングに使っている長くて急な登り坂があり、そこにも誰かいるかな〜と見に行きがてら……と考えていた。すると………すると………
タッキー(瀧中投手)おるやんけ。
投げ込みを終えた瀧中投手や鈴木翔天投手と伊藤茉央投手の坂ダッシュ現場に偶然遭遇。慌ててタオルを掲げ、また念を送る。
3選手はヒィヒィ言いながら坂を駆け上がり、ハァハァ言いながら戻って来る。それでも何本もできるんだからすごいな……と思いつつ、タッキーが来るたびにタオルを掲げてひたすら念を送っていたら………あるタイミングでタッキーが気づいて指を指しながら頷いてくれた!思わず「頑張ってください!(小並感)」と声をかけてみると、すかさず一言。
「見りゃわかるでしょ、頑張ってるよ!笑」
なるほど。ぐうの音もでん。(文字にするとなんだか怒られてるみたいだけど、実際そんなことはないです)
どう見ても頑張っているタッキーたちを引き続き見守り、数十分(体感5分)に渡る坂ダッシュは終了。すると、選手たちは各地に散らばって即席サイン会を開いてくれた。あんなに走ってたのに…!疲れているだろうに…!子供たちを優先しつつ、大人である我々ももらえたらいいな……と思っていたが、しっかりサインを頂くことができました。サウスポーの鈴木翔天投手には色紙にサインをもらったが、ド緊張のあまり何を話していいかわからず「あっそうか、左で書くんですよね」という意味不明なコメントを発してしまい本当に申し訳ない気持ちしかない。(周りに左利きがいないので素でちょっと新鮮だったのは事実)同じく伊藤茉央投手にもサインを貰い、昨秋のファン感謝祭で開催されたグラウンドウォーク(中にコース上に立っている選手とハイタッチできる)でハイタッチしたのが伊藤投手だったのでその御礼(?)を伝えさせてもらった。
そして瀧中投手には、持ってきていた瀧中ユニフォームにサインをしてもらった。少しだけお話することもでき、未だにタッキーが涌井秀章投手をすごく慕っていることがよく分かった。幸せな時間でした。
(客入りが少ないというのもあるだろうが)金武キャンプでは、この3人の他にも何人かの一流選手と交流することができた。全て宝物です。練習の合間を縫って、疲れている中でもファンサービスをしてくれた選手の皆さんに感謝。「当たり前じゃねえからな!」という言葉を加藤浩次ばりの爆音で心に刻みつつも、すごく貴重な体験をさせてもらいました。
とはいえ、「キャンプ=サイン貰う回」ではもちろんないので、ちゃんと練習も見学。午後からは、シート打撃という実践形式の練習がメイングラウンドでスタート。イーグルスの選手同士が、そこそこ本気の勝負を繰り広げる。打っても嬉しい、抑えても嬉しい、これぞ練習の醍醐味だ。この日は、タッキーと並ぶ最推しで次代のエース・荘司康誠投手や今年のドラフト1位ルーキー・古謝樹投手などが登板。この二人はブルペンでの調整もわざわざ見に行く徹底した見学で楽しませてもらった。
ちなみに、個人的にこの日印象に残った選手が2人。戦力外からの巻き返しを目指す山田遥楓選手は、常に大声で場を盛り上げる。こういう選手、なかなか今までイーグルスにいなかったタイプなので超期待大。ピッチャーへの声掛けもユニークだし、声がとにかく大きいのでスタンドに居ても何を言ったかはっきりわかり、爆笑が起こることも。すごい力だ。
もう一人は松田啄磨投手。ドラフト5位ルーキーながら、1軍キャンプに選出された期待株。山田選手の熱すぎる励ましを受けながら力投を披露し、首脳陣へもとても良いアピールになっていたのではないだろうか。
シート打撃の終了を見届けたところで帰路につくことに。(道が混む前に車を返したかった)。金武キャンプ、運転というかなりハードルの高い工程を乗り越えたこともあって、想像の遥か上を行く充実感たっぷりの一日だった。選手たちの躍動する姿、そしてオフのフランクな一面、いろんな表情を見ることで、よりその選手が好きになる。これはファンなら一度は来るべきだわ…!
それにしても、タッキーの言葉が印象的だったな。めちゃくちゃ頑張ってたわ。頑張ってないわけないよ……。
(前編終わり。書きたいことが多すぎる!)