日記27 もはや模範回答より正解
昔から好きで観ている番組に、「ローカル路線バス乗り継ぎの旅Z」というものがある。レギュラーメンバーである作家の羽田圭介さんと俳優の田中要次さんに女性ゲスト(番組内では「マドンナ」と呼ぶ)を加えた3名が、路線バスだけを乗り継いで目的地を目指すというもの。現在はシーズン2で、ルイルイこと太川陽介さんと蛭子能収さんがレギュラーだったシーズン1から数えると今年で15年目となるなかなかの人気番組だ。
この旅のポイントは、「かなりの長距離」を、「路線バスだけ」で、「長時間(2泊3日~3泊4日)」かけて、「スマホなどのインターネットを用いた事前調査なし(アナログの地図や案内所での聞きこみはOK)」で目的地を目指すというもの。毎回変わるマドンナはともかくレギュラー陣は、過去の経験や時には直感も交えつつ、路線バスを的確に乗り継がなくてはならない。そんな「頭」と「体」をフル稼働させながら綱渡りの旅をする、そのドキドキ感が魅力なのだ。
そしてこの番組の視聴者を続ける事数年。だんだん「自分もやってみたくなる」のがファン心というもの…。そこで、規模を大幅に縮小した「ビギナー編」として、こんな企画を実行してみた。
「名古屋市営バス乗り継ぎの旅 東山線高畑→藤が丘編」
中身はいたって簡単。名古屋市を東西に横断する地下鉄東山線に沿って、西の高畑駅をスタート地点として東の藤が丘駅を路線バスだけで目指す。ただそれだけだ。しかし、番組に沿った縛り+追加の縛りを設けないとすぐにゴールできてしまうので、以下のルールを追加した。
以上のルールに従い、去る8月の上旬実際に旅に出て、無事に終える事が出来た。今回のnoteは、その備忘録という事で、実際に通ったルート+他ルートの検証を残しておくことにする。
なお、高畑~藤が丘間には、東山線の模擬的な終電(終バス)として、深夜系統という完全に路線に沿って走る系統が存在するが、当然この旅行の時間帯には使えずそもそも現在はコロナの影響で運休している為、本稿の中では「ないもの」として扱う。
実際のルート(この日は休日ダイヤ)
ということで、7時間22分というタイムで無事ゴール。途中、名駅から栄の移動を直行ではなくメーグル(観光バス)で行くという舐めプも含めつつ、それでも「ちょうどいい時間をかけて」ゴールできた。
検証と考察
ではここからは、実際のルートに加えて「ifのルート」も含めつつ、ポイントを押さえながらもう少し詳しく今回の旅を振り返っておく。
シーン① 高畑での選択
まずは出だしから。11時集合というなんとも舐めた時間設定だが、「まあこれくらいでも早いかな」という気持ちでのスタートだった。この日は名駅のラーメン屋に行きたかったので、まずはチャチャッと名駅まで乗り継いでいくか!と軽いノリで駅に貼られた路線図を見て、いきなりこの旅の難しさに気づく。
考えてみれば当たり前の話だが、基本的に「地下鉄に沿って走る路線バス」など存在しない(※前述の深夜系統のみ)。じゃあ地下鉄でいいじゃん、となるからだ。こちらも先述した通り、「東山線走破」と言いつつも、東山線に沿って行けるとはハナから思ってなどいなかった。
しかし、思ったよりも選択肢が少ない。なんなら地下鉄とは別の道を辿りつつ名駅に直行できるのではとすら考えていたが、甘かった。この「高畑の選択」で与えられた選択肢は大きく分けて2つ。
個人的な経験から言うと①だったが、結果として同行してくれた後輩の決断により②を選択。結果的に②を選択した事は正解で、1つ先の八田駅から無事に名駅方面へ乗り継ぐことができた。が、気になるのは①を選んでいた場合。この場合、名駅着はどうなっていたのか?
なんと、実際ルートで名駅を出発した13:00よりも遅い到着となった。実際ルートはこの後のんきにメーグルで栄を目指していたのもあり、食事の時間も含めてどれほど時間の差が生じたかはわからないが、①の八田駅を目指した決断が大成功だったことは間違いないだろう。
シーン② 栄での選択
高畑での選択に正解し、八田駅でも見事に乗り継ぎ、お目当てのラーメンを堪能して13時ちょうどに名駅を出発した我々。メーグルを使わずとも多くのバスが出ていたこともあってもう少し早く行けたとは思うが、世間話をしつつ1時間ほどかけて栄に到着した。
しかし、ここでもまた選択を迫られる。なんとなくわかってはいたが、この旅の難題は「どうやって東山を越えるか」だった。バンドを続けていたこともあって東山公園には何度も行ったことがあるが、あの周辺でバス停を見たことがない。星ヶ丘にそれなりに規模が大きいバスターミナルがある事も知っていたが、その星ヶ丘に辿り着く方法が分からなかった。さらに言えば、栄から星ヶ丘まで行ってくれるバスは基本存在しない。つまり、上手く乗り継ぐか最悪歩くかして、東山を迂回しながら東進しなければならないのだ。この時与えられた、栄から東進するバスには大きく分けて次の選択肢があった。(基幹バスを除く)
結果的に、日ごろ大学からの移動でよく使っており土地勘もある④の名古屋大学方面を選択したわけだが、この時個人的に悩んでいたのは③の選択肢だった。というのも、ある乗り継ぎが可能であるという確信があったからである。しかし乗り継ぎが多く、大きく南下することもあり、時間がかかると判断して却下したわけだ。では実際に、この「ある乗り継ぎ」をしていたらどうなっていたかを調べてみる。
これでは実際のゴール時刻を大きく過ぎて、ようやく星ヶ丘に到着する程度。やはりこのルートはロスが大きく、渋滞による遅れに左右されやすいバスを綱渡り的に乗り継ぐことは難しかったと考えられる為、失敗していたかゴールしていてもかなり遅い時間になっていたのではないだろうか。
一方、同行していた後輩が「ちょっと良いですね」と言っていた、新守山ルートはどうなっただろうか。
実際ルートが引山に向かっている頃にゴールするという、まさかの大正解ルートだった。しかし、実は個人的に守山方面の土地勘がなく、後輩もどの程度理解していたかわからないため、上記の最適解と比較するともう少し乗り継ぎに手こずった可能性は高い。しかしそれでも、新守山駅から出ているバスの多くは上飯田行なのに対し、この小幡11系統だけは唯一南東方向に進む。実質一択なので意を決して乗り込み、とりあえず終点の本地住宅へと向かい、そこで「藤が丘行ける!」となった可能性も高い為、このルートが模範解答だったかもしれない。
ちなみに、新守山駅に向かう栄15系統は、しばらく東山線沿いに進み、やがて大曽根へ北上する。また別のルートにも、東山線に近いエリアを走行するものがあり、今池や池下などターミナル的バス停まで乗って少しずつ乗り継ぐというのもこの時考えられた。そのパターンを検証するのはかなりの手間なので省くが、結果として東山をバスで越えるには、猪高車庫を経由する北ルートと、妙見町から東山のテニスセンターを経由し星ヶ丘に出る星丘13系統の南ルート(この系統、大学の目の前を通る事もありよく考えれば知っていたのだが、旅の途中では完全に忘れていた)にミスなく乗り継ぐ必要があり、やや難しい。結果、④の名古屋大学ルートで「なるべく東山の近くまで行き、徒歩で越える」という、実際の「ローカル路線バス乗り継ぎの旅Z」でよく見る「バスが繋がらないので歩く」という光景をも再現することになった。
シーン③ 一社での選択
四ツ谷通三丁目から2.5kmの山道を歩き、東山を越えた我々。GPSもグーグルマップも縛っているので現在地はよくわからなかったが、とにかく星ヶ丘に歩いて辿り着きたいという想いで一杯だった。山を越えて住宅地が見え始め、最初の交差点で北に曲がろうとしたその時、交差点の向こうにバス停があった!信じて直進し続けたことが奏功し、無事に藤巻バス停から名東巡回に乗り込んだ。バス停の路線図を見る限り、名東巡回はここから一社、上社、本郷と東山線の駅をなぞるように進んでいく事が分かり、まずここで「どこまで乗るか?」という決断を迫られる。そして結局、降りたことがない2駅に比べて行ったことがあり、かつバスターミナルがあることを知っていた一社を選択。3駅の中では最も高畑寄りだが、安定をとる事にした。
しかし、一社に降りてみてショック。藤が丘行きはもとより、ここから出るバスは「北」か「西」か「名東巡回」しかなかった。北に行くなら、猪高車庫や引山。西は星ヶ丘。或いは今乗ってきた名東巡回に1時間待って再び乗車し、さっき捨てた上社や本郷へ向かうか。
当初、後輩が選択したのは星ヶ丘行きだった。時間的にめちゃくちゃ空腹だったこともあり、星ヶ丘のターミナルで軽食を食べながら進路を定めなおそうと決まった。近くの公園でキャッチボールをしながら時間をつぶし、一社バスターミナルへ戻る。名東巡回に乗ろうと待っていたその時、目の前に別のバスがやってきた。「北」へ向かう、幹一社1系統引山行き。発車までもう時間がない。正直、星ヶ丘に戻っても状況が好転するかは分からなかった。でも引山ってどこ?猪高車庫に何がある?これも分からなかった。一瞬の話し合いの末、2人で飛び乗ったのは、引山行きのバスだった。
では実際、ここで星ヶ丘に向かっていたら、或いは名東巡回で上社や本郷に向かっていたらどうなっていたかを検証する。結論から言うと、どちらをとっても状況は大きくは好転しなかったと考えられる。まず星ヶ丘から出るバスはこれも「南」「北」の2種類。そして「北」に向かっても辿り着けるのは猪高車庫。幹一社1系統は猪高車庫を経由する為、実際ルートに合流していたか、むしろ迷って乗り継げなかった可能性が高い。猪高車庫から唯一東に出ているのは、何度も出てきた「名東巡回」のみ。そもそもこの車庫は、主に西から来るバスの終着点というのが主目的であり、このルートは厳しい。
それでも何とか向かおうとするには、まず「南」に行く必要がある。高針を経由し東名古屋病院や梅森荘へ向かう幹星丘1系統に乗り、途中で平針からやってきた幹本郷1系統に乗り換えれば本郷までは辿り着ける。しかし、本郷から藤が丘に直接出るバスはなく…というか東に向かうバスがなく、結局は引山(か本地住宅)へと北上するしかない。(正確には「新藤森橋」停留所で藤丘11系統と一瞬重なるが、それに気づいて乗り継げた可能性は低い)結局最後は「引山に行けるか」というゲームになる為、ゴールはできたかもしれないがロスは大きかった。それで言うと、一社の時点で引山行きを選択できたことは大正解だった。(ちなみに、上社に行っても循環バスしかなく、結局本郷に向かうしかない)
シーン④ ゴール(とその前の奇跡)
こうして大正解となるバスに飛び乗ったはいいものの、正直ドキドキだった。終点の引山で「藤が丘行」の文字を見つけた時の喜びは、もう最高だった。バスを待つ間に周辺を歩いていたら、たまたま近所に住んでいて散歩に出ていた部活のOBに遭遇し大盛り上がり。舐めプとも言える遅い集合時間やここまでの乗り継ぎの全てがこの為だった…かはわからないが、今年一番の奇跡が起きたことは間違いない。この衝撃、たぶんどれだけオーバーに書いても伝わらないと思う。
さて、天候にも恵まれ、世紀の大ミラクルを起こした旅のアンカーを務めた藤丘11系統は無事に陽が傾いた藤が丘のバスターミナルに到着。これをもって、一日かけた市バス乗り継ぎの旅もめでたくゴールテープを切る事ができた。本家「ローカル路線バス乗り継ぎの旅Z」と比べたら規模も達成感も大したことないかもしれないが、名古屋の地理にも少し詳しくなったし、また行ったことのない場所にも行けてとても刺激的な一日だった。本稿を書くための調査も含めて路線図を眺めたせいでもう似たような企画はできないかもしれないが、また何か別の企画を立てて市バスを乗り継ぐ旅に出てみたい。
…いや、無理だ。引山での奇跡の遭遇に全部持っていかれた。あれを越える旅など、そうそう出来ないだろうな。どんな模範解答より実際ルートの方がむしろ正解みたいなもんだろ!
(記事の時刻はジョルダンや名古屋市交通局HPにて調査。2022年8月現在)