追憶
はじめに
現在、2022年11月1日、午前1時。翌日あると思っていた授業がなかったことをいいことに、3日間の動画をYouTubeに(鍵付きで)移行しつつ、少し夜更かしをしている。
3度目の学祭は、あっという間だった。後輩たちが何から何まで丁寧に準備をしてくれたし、自分は喉のコンディションが最悪だったこともあって出番に間に合うようにしか会場に行かなかったこともあって、「ついてすぐ出番が来て、すぐ終わる」というよくよく考えてみればあんまり経験した事のないようなライブだった。ということで、つくづく喉の状態が悔やまれたライブではあったけど、(後輩のおかげで)予想していたほど感傷的になるわけでもなく、あっさりと終わっていったような気がする。少なくとも、去年の学祭後のような長々した感想は特になく、ただただ「最後だったのか」と後から効いてくるであろう寂しさに備えて身構えている感じだ。
というわけで、今回は学祭にちょっとだけ関係することを1つ。これまで、自分が作詞作曲を手掛けてバンドで演奏した曲は、その都度歌詞の中身や意図についてnoteで記事にして書き残してきた。しかし、このnoteを始める前に作って、かつ以前別のプラットフォームで書いてはいたがそのデータが消えてしまい、今ではもう読み返せなくなってしまったのが[追憶]である。昨日のライブでも頭に演奏したし、何人かから直接ご好評いただいている曲だけど、だからこそ歌詞の意図も知ってもらいたいし、残しておきたいので、今回は[追憶]について、遅ればせながらまとめておく。
[追憶]について
この曲の原形が完成したのは、2019年9月27日。以前ライナーノーツを書いた際にも触れたが、この日は部室に籠って[One Room Holic]のバンドアレンジを制作していた。が、もともと弾き語りメインで制作したこともあり、なかなかいいアレンジが浮かばなかった。さらに言えば、この曲は終始ゆったりした空気が続く曲なので、何度も聴いているとテンションも落ちてくる。気分転換に大声で歌いたいな~と思いながら、なんとなく作ったのが[追憶]の原形となる[衝動]という曲だった。LINEの履歴を見返すと、一応[One Room Holic]が本題だったこともあり、初めからメンバーに送るのではなく一旦ごんだに個人的に聴いてもらおうと、「一応送っとく」というめちゃくちゃな保険をかけながら送信している。この時点でmakerugakachiに下ろした曲は全て曲と詩がセットになった状態で送っていたこともあったし、それに対してこの時点では歌詞すらなくただカスカスの声で叫んでいるだけの音源だったので、自信がなかったんだろうな……と思う。しかし、送ったごんだからの返事は「てかこれすぐやりたいわ」「めちゃいい」だった。かくして[衝動]は、突如として速やかに取り組むべき曲へと昇格した。
その翌々日、9月29日。この日は、高校時代から続けてきたユニットで彦根のちょっとしたイベントに出演し、夜に東海道線で帰路についていた。そしておそらく、前々日に出来上がった曲のデモを聴き返しながら、その車中で歌詞を書き上げた。9月30日にごんだに「歌詞かけた」と送っている歌詞が結果的に一度も一か所も書き換えることなく完成していたことを考えると、大枠を車中で、ちょっとした修正をその後加えてウキウキで送ったんだと思う。曲も歌詞も、ほぼ4日の間に最後まで完成した事を考えると、まさしく「衝動」に任せながらも一発で納得いくものが出来た喜びがあった曲だ。
[追憶]の歌詞
この曲は、簡単に言うと「愛する人(フィアンセ?)を突然亡くした主人公の悲しみと希望」の歌である。1番までで悲しみを、2番から先で希望を描く。いかんせん長い曲ではないのでストーリーの変化が急といえば急だが、その辺はあまり気にしないようにしたい。
「君がいた街」、いいかえれば「君と暮らしていた(この)街」をぼんやり見つめる主人公。1人になったことで少し広く感じる部屋の隅に置いた花が、無風なはずなのに揺れた「気がした」のは、まだ彼女を失ったことが受け入れられず、彼女が揺らしたんじゃないか、となんとなく思い込んでしまっている様子を描いた。
「日常に流れてたメロディー」とは、彼女が日々流していた曲だとか、観ていたYouTubeや映画やドラマだとか、或いは話していた言葉や声なんかのあらゆる「音」でもある。2人でいることが当たり前だった頃はそれらを日常の一部としてしか認識していなかったからスルーしていたけど、1人になって初めてそんな「音」の中にある言葉やフレーズの意味に気づく主人公。いわゆる「失って初めて気づくもの」みたいなことだ。
実はこのBメロの歌詞には元ネタがある。2010年11月12日に放送された、「SPEC-警視庁公安部公安第五課未詳事件特別対策係事件簿-」の第5話で、戸田恵梨香演じる主人公の当麻紗綾が、こんなセリフを言う。
(※現在本編がAmazon Prime Videoにないので、持っているドラマの解説書を基にセリフを書き起こしたが、Twitterなどでは「脆くて儚いですよ」と書かれていた。どちらが正確なのかわからないので一応本の表記に従っておくが、たぶん「脆くて儚い」だった気がする……いつか加筆訂正予定)
幸福を「砂の城」に例えた名セリフ。昔から好きなドラマだったが、このセリフがずっと耳に残っていた。ドラマ本編で、不可解な事件に巻き込まれて人生が大きく変わっていった瀬文と、この曲での「彼女の突然の死によって人生が大きく変わっていった主人公」を重ね合わせられるんじゃないか、ということでこのセリフを歌詞として拝借した。実際、このライナーノーツを書いている数日前には韓国ソウルの梨泰院で密集した群衆が共倒れになり大勢の人が亡くなった。数時間前まで一緒にいた人が突然亡くなるなんてことは全くあり得ない話ではないし、(今まで自分にはそういう経験がないが)いつ自分がそうなるかわからないものだと思う。彼女の死因については特に深く考えたわけではないが、それが病気だったにせよ、何らかの事故に遭ったにせよ、当たり前のように感じていた目の前の生活が一変したことについて、半ば達観したような表現にもなったと思う。
これも実は元ネタ…というよりこれに関してははっきり表現をパクっている。プロのミュージシャンがやったら大炎上間違いなしの行為ではあるが、あくまで素人の模倣なので……勘弁してください……。
もう清々しいまでのコピー。ある意味[追憶]は、模倣の結晶と言われても仕方がないかもしれない。それだけ、この[花の匂い]が好きで、すごく影響を受けているのだ。
但し、本家では1サビが「永遠のさよなら」で大サビが「本当のさよなら」なのに対し、[追憶]はそれを逆にしている。これに関しては、アレンジ上の都合で「本当」を地声(張りぎみ)に、「永遠」を裏声(綺麗め)にという意図もあるし、歌詞の中身としてもこちらの方が収まりがよかろう、と思ったからだ。(決して、パクったけど逆にすりゃええか…と安直に考えたわけではないのです!!!)
何度も軽い気持ちで繰り返してきた「さよなら」とは違う、「本当のさよなら」を認められない主人公。「陽が落ちたドア」は、最初「陽が落ち"て"」の誤植では?と疑われたりもしたが、ちゃんと意味がある。改めて言葉にすると、「陽が落ちて、2人で住んでいた家(触れてはいないが、一応マンションという裏設定がある)のに帰ってきていつものようにドアを開けたら、いつも迎えていてくれた君の影がなかった」ということ。ドアを開けても迎えてくれる人がいないこと、すなわち「本当のさよなら」をしたんだという事実を否が応でも受け入れていくしかない主人公。彼の気持ちが揺らぐ中で、2番に移る。
この部分にもやはり、Mr.Childrenの影響がある。この曲の元となった2曲、[花の匂い]ともう一つの[himawari]に、こんなフレーズがある。
映画「君の膵臓をたべたい」の主題歌だったこの曲も、(そして映画も)大事な人を失った悲しみを描いている。明日へ「漕ぎ出す」という表現が好きで、これもまた勝手に取り入れさせていただいた。……なんだか、ライナーノーツを書き進めていけばいくほどこの曲の価値が下がっていく気がする。がしかし、このCメロの後半部分に、この曲の核心がある。
悲しみを背負いつつも、全てを受け入れて「生きていく」決意をした主人公。この「生きていくよ」というメッセージこそが、この曲で最も描きたかった部分だ。「追憶 -生きていくよ-」と副題をつけてもいいくらい、この部分がメインなのだ。「弱い怖い暗い」の畳みかける韻は響き重視で狙って作ったところもあるが、この曲が持つメッセージの総てがここにある。あくまで悲しみや寂しさを乗り越えるのではなく、それらを抱えながら生きていく決意をする主人公。だけど、1番はまるっとブルーな内容だし、いきなり2番で前を向きだすのもあって、なかなか伝わらないだろうなぁ、とも思う。(実際、いきなりではなく、「君(彼女)の姿の回想」→「その姿を追うように、その姿に倣うように"生きていく"決意をする」という流れはある)
もうこの部分は言い訳できませんね。さっき見ました。明らかにコピーです。大サビの前振りとはいえ、悪いことをしました…大反省。
大サビ。何十年先の「向こう」とは、つまりあの世のこと。「生きていく」決意をした主人公は、もちろん後追いなんかせず、新しい日常を作って、その中で精一杯生きる。そしていつか人生を全うしたその先で、(たとえそれがどれだけ先のことであったとしても)彼女が待っていてくれたならば、「約束されていたはずの幸せ」(すなわち、数日前まで過ごしていた…あるいは将来過ごすはずだった2人の幸せな日々)を共に歩いていこう、という彼女へのメッセージだ。「約束されていたはずの幸せ」というフレーズは、アメ研に書き下ろした曲にあるオリジナルの歌詞(それが普通ではあるが)の中では最も気に入っている表現だ。「今の幸せな日常がずっと約束されているものだ」となんとなしに思っていたが、突然の死別によってそれが砂の城より脆く崩れ去った主人公。しかしそれを乗り越えて、精一杯生きて、いつか天国へ行ったときに、誰にも何にも邪魔されない、あの頃「約束されていた(いるものだと信じていた)」幸せを、改めて2人で歩いていこうと彼女に伝える(あるいは、自分自身に言い聞かせる)部分。絶望から始まり、彼女の生きていた姿を思い出し、それを生きる希望に代えていく主人公の新しい一歩を描いて、曲は終わる。
ちなみに、「共に歩いていこう」というフレーズは、実は歌詞を全く意識していない[衝動]の段階からあったもの。既にオケを作った時点で、この曲のストーリーをなんとなく考えていたんだと思う。
[追憶]の音
音に関しては、先述した通り[衝動]の時点でほぼ完全に出来上がっていたし、それにたじこーのリードギターが重なって、ベースも少しリフが追加され、かなり自分主導でありながらもバンドの色がしっかり出た作品になっていると思う。また音源については以前の記事でも書いたように、アメ研のコンピレーションアルバムには1年待って2020年の冬にレコーディングし同年のアルバムでようやっと録音した。全員のコンディションもよく順調に進んだが、リバースシンバルを追加することで特に「盛り上げに盛り上げて最後の一音だけ静かに終わる」という希望を忠実に再現したアウトロには特にこだわった記憶がある。歌詞の核心が「生きていくよ」なら、音の核心はこのアウトロだった。アウトロが全てといっても過言ではない。(但し歌詞の中身とは全く関係のない、「こういうアレンジがやってみたかった」だけではあるが)
[追憶]おわりに
ということで、これが[追憶]のほぼすべてである。曲も歌詞も4日の間に完成した曲ではあるが、それなりにしっかりした意味とストーリーを持っているし、むしろ迷うことなく、素直に描きたいことを描きたいままにやり切る事が出来たという点で、makerugakachiに卸した曲の中では最も気に入っているし、思い入れも強いし、その分良い評価を頂いている気がする。しかしその実結構パクりもあり、ちょっとした後ろめたさがある曲でもある。おそらくこの曲はもうバンドとして人前で演奏することはないだろうし、やるにしても自分で勝手に歌ったり弾き語りをする程度だとは思う。けれども、自分の中ではすごく大きな意味を持つ曲だし、ずっとその存在を忘れずに大切に記憶し続けていきたい曲でもある。