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日記28 マジの「無双」じゃん。

10月2日、今季日本プロ野球界で最も物議をかもしたイベントとも言える投手転向を果たした根尾昂投手がプロ初先発を上々の結果で終えた。そしてこの試合をもってセ・リーグ最下位に沈んだ中日ドラゴンズの1年が終わった。そのほぼ1か月後、日本プロ野球最高峰にして最後の戦いでもある日本シリーズ第7戦で、オリックス・バファローズが日本一に輝き中島聡監督が神宮の空に舞った。ということで、野球を熱烈に応援する我が家のシーズンもこれをもって終了……と思われた。

根尾投手の快投の2日後。野球界は、11月の頭に開催される侍ジャパン強化試合のメンバーが発表され盛り上がっていた。我が中日ドラゴンズからは、未来のエース髙橋宏斗投手が選出。髙橋投手をはじめとする28人の侍たちは、11月上旬に行われる強化試合を戦うことになる。強化試合は、5日と6日に東京ドーム。これは国内球団との試合だ。そして本命とも言えるのが、9日と10日(水木、つまりド平日)に札幌ドームで行われるオーストラリア代表との試合。日本ハムファイターズが新球場に本拠地を移すこともあり、札幌ドームは来季からほとんど野球の試合が行われなくなる。

「これが札幌ドーム最後の試合か~…………」
「………………行くか。」

かくして、野球大好き親子による札幌遠征は決まった。

11月10日の朝。まだ空が暗いうちに家を出て、中部国際空港へ向かう。早朝にミュースカイに乗るなんて、コロナ禍前の海外旅行以来。すごく新鮮だ。なんなら中部国際空港から国内線に乗るのは初めて。(国際線や、国内線に乗って「到着する」ことは何度もあるが)国内線の出発ロビーを物珍しげに眺めながら時間をつぶし、朝8時過ぎに出張のサラリーマンと思われる人々と共に離陸する。

今回行ってみて驚いたのは、北海道って思ったより近い。いや、北海道自体はめちゃくちゃ大きいが、名古屋(中部)~新千歳がこれほど近いと思わなかった。風向きが良かったことも幸いして若干巻いて到着し、5年ぶりに北の大地に降り立った。預けた荷物を回収し、札幌へ向かうため空港駅へ。

新千歳空港駅

鉄道ファンはこれだけでテンションが上がる。久しぶりのJR北海道だ!席が全て埋まるほどのお客を載せて、快速エアポートは札幌へ走り出す。しかし、地下駅の新千歳空港駅から地上に出た瞬間驚いた。景色が白い(この時は結構曇っていたこともあるが)!そして名古屋ではほぼ(たぶん)見られない、線路の脇に植えられた針葉樹。毎年行っている仙台では「あっ針葉樹だ!」と意識したことがなかったので、これだけでも結構新鮮に見える。しかし、たまに町に入るとコンビニやら洋服の青山やら見慣れた店が並んでいるので、なんだか「日本じゃないようだけど間違いなく日本」という不思議な感覚。前述したように、飛行機で国内から名古屋に帰ることはあっても飛行機に乗って国内に行くことがめちゃくちゃ久しぶりだったので、「飛行機で出かける=海外」というなんとなくの刷り込みがあったのもその理由かもしれない。

新千歳空港から揺られること約40分、気動車がエンジンをふかす音が響き渡る札幌駅に到着。後で調べてみると「住んでる人でも迷う」と言われていたが、名古屋駅と同じくらいの大迷宮である札幌駅の地下を突き進み、まずはホテルの最寄り駅に行ってコインロッカーに荷物を預ける。地味に、この時地下鉄に乗ったことで、日本に存在するすべての地下鉄事業者(札幌・仙台・東京メトロ・都営地下鉄・横浜・名古屋・京都・大阪・神戸・福岡)を利用するという実績を達成したのが結構嬉しかった。

身軽になった野球親子は、まず札幌駅へ戻る事に。お腹が減ったので、札幌名物の味噌ラーメンを食べようと調べてみると、駅ビルに「札幌ら~めん共和国」というラーメン店がひしめくフロアがあると知り、そこへ向かった。数あるラーメン店の中から、より「濃ゆい」味噌ラーメンを食べよう、という事で入ったのが「吉山商店」さん。朝からしっかり食べておらずお腹もめちゃくちゃ減っていたので、「焙煎ごまみそ炙りとろ旨チャーシュー麺」を注文する。

焙煎ごまみそ炙りとろ旨チャーシュー麺(こんなにピンボケすることある?)
※メンマの追加トッピングをしています※

これが旨い!味噌ラーメンってコッテリしてしつこいイメージがあったけど、見た目よりだいぶ食べやすい。そして、写真にも写っている(ブレブレだが)5枚のトロ旨チャーシュー、これがすごい。肉厚なチャーシューに濃厚なスープが染み込んで、かなり食べ応えがある。さらにポイントなのが、「焙煎」ごまみそラーメンであるということ。来てから時間がたっても
燻したいい香りが漂ってくる。香り良し味良し食べ応え良し。ちなみに、セットで頼んだ棒餃子もちゃんと美味しかった。お店のギョーザ、やはり良い。
(ちなみに、めちゃくちゃ量が多かった!普通のラーメンだと思って気軽に大盛にしてはならない。この時は大盛にこそしなかったが、ノーマルライスはいつものノリで頼んでいた。しかしこれすらもやりすぎだった。昼食とは思えないぐらいお腹いっぱいになったし、実はこのラーメンが後々尾を引くことになる)

札幌らーめん吉山商店 (yosiyama-shouten.com)
札幌ら~めん共和国 - 北海道ラーメンのフードテーマパーク (sapporo-esta.jp)

さて、ラーメンを腹12分目ほど平らげ、とりあえず歩いてカロリーを消化しつつ「ガッカリ時計台」のくだり(失礼)をするべく、駅周辺を散策する。その道すがら、こんなものを見つけた。

「滑り止め砂」

交差点のところに、郵便ポストのようにポツンと置いてあるこれ。「滑り止め砂」と書いてあり、この時は中が空になっていたが、別の場所で見かけたものだと園芸用の土の1/4サイズみたいな袋が中に詰め込まれている。「みんなで砂をまきましょう!ツルツル路面に注意!」という注意書きからも分かる通り、真冬に危ないと気が付いた人が進んで砂(砂利)をまいて、後から歩く人が転ばないようにという助け合いの工夫だそうだ。こんな事、名古屋に住んでいたら考えもしないし、そもそも名古屋で路面が凍結して困ったなんてことは年に3~4日くらいしかない。しかし逆に言えば名古屋でも年に3~4日あるということは、北海道は大変だろう。こういった工夫も、雪国を生き抜く知恵なのかもしれない。

(参考)砂まき活動の紹介/札幌市 (city.sapporo.jp)

そんな発見をしつつ、時計台へ。恒例行事とも言えるガッカリ時計台の実績を解除する。ガッカリといっては失礼だが、これは逆にプロが上手く撮るからこそ本物とのギャップが生まれるのかもしれないと思った。実物は、ビル街の中に突然出てくるので驚く。「私もビルですよ」という表情で、一人だけ背が低くて赤い屋根の時計台がたたずんでいる。ミッドランドスクエアとセンチュリー豊田ビルの間に急に時計台があるような感じだと思う。

札幌市時計台。奥はさっぽろ創成スクエア(たぶん)。
雪が溜まらないよう縦型になっている信号も注目。

そして時計台からさらに南下すると、大通公園に出る。有名な「さっぽろ雪まつり」の会場でもある公園は、11月上旬の時点ではまだ葉が赤や黄色に染まっていて鮮やかだった。公園に沿って進み、札幌テレビ塔へ。2本の通りに挟まれた緑地公園の真ん中にテレビ塔がそびえたつ様は、名古屋人からすると久屋大通公園と中部電力MIRAI TOWERとダブって見えてしまう。

地下街への入り口とテレビ塔。

折角来たので、展望台にも登ってみた。が、このテレビ塔結構怖い。というのも、高さとしてはそれほどないのだが、なんだか古い。骨組みが結構サビているし、エレベーターもゆっくりゆっくりでなんだか頼りない。「壊れないよね……?」という謎のスリルを味わいながら展望台へ。しかし、そのリスクと引き換えに(?)見えた景色はとても綺麗だった。

何故か歪んでいるが、テレビ塔から西の方角を望む。

名古屋の久屋大通公園は南北に長いが、札幌は東西に広がっている。そして、札幌市街地の西側には結構近いところまで山が迫っていて、名古屋ではあまり見られない景色が広がっていて面白い。
そして、1つ前のテレビ塔の写真からも分かる通り、大体午後2時前後に塔を訪れたのだが、信じられないぐらい日が落ちている。おそらく名古屋だと、同じ時期(11月)だと午後4時前、夏場だと午後6時前ぐらいの光景をこんなに早い時間から拝むことができる。調べてみると、名古屋市の緯度が北緯35度なのに対し、札幌市はロシアのウラジオストクとほぼ同じ北緯43度。これが緯度の差なのか……ということに、この旅の中で度々気づかされた。

さて、ここで親子分かれて単独行動になった。そこで行ったのが、個人的に札幌を訪れる上である意味一番の目的でもある「水曜どうでしょう」の聖地巡り。「水曜どうでしょう」とは、レギュラー放送終了から20年経っても全国的に人気が衰えない伝説の北海道発ローカルバラエティー番組である。札幌には、この番組にまつわる聖地が沢山あり、中でも番組本編の前後に企画説明や次回予告などを行うミニコーナー「前枠・後枠」を撮影していた平岸高台公園は、水曜どうでしょう聖地の最高峰とも言える場所であり、イスラム教徒がメッカ巡礼を行うがごとくどうでしょうファンにとって一生に一度は訪れたい場所なのだ。

大通駅から地下鉄に揺られ、南平岸という駅で下車。駅から東に歩き、地図に示された場所に行くと……。

番組で何度も登場したあの景色。
公園に設置されていた石碑。

(ちなみに、訪れたのがバリバリ平日の昼下がりだったにも関わらず、自分以外に恐らく同業者であろう人が1人で来て写真を撮っていた)

これは番組を知っている人でないと伝わらないのであまり多くは書かないようにするが、もう感無量だった。

そして、この公園の名前「平岸高台公園」通り、最初の写真にも写っているがこの公園は奥が高台になっていて、そこにベンチがある(写真では植え込みの奥に隠れていると思う)。番組とは関係ないが、折角来たし駅から思ったよりも歩いたので、景色を観に行ってみた。写真以上に勾配がきつくちょっとした登山だなぁと思いながら頂上に辿り着くと、絶景が待っていた。

高台からの景色。かなりの勾配なのも分かる。

なぜか縦に撮ってしまった写真しかないので伝わらないのが悲しい。触れたように高台はかなり高く、周りにそれ以上に高い建物が少ない為、かなり遠くまで見える。そして高台は西側に開けている(先ほどのテレビ塔からの写真と同じ向き)のだが、遠くに藻岩山や円山(?)などの山々が畳み、手前には札幌の街並みが広がる景色は夕暮れ(といってもそんな時間でもなかったが)と相まって非常に美しかった。

ひとしきり感慨に浸った後、再び地下鉄に乗って大通に戻り、親子合流して札幌ドームを目指した。ドームの最寄り駅である福住駅は大通から10分少々。しかし駅の出口から一般道をそれなりに歩かなければならず、「結局アクセスがあんまりよくないなぁ…」と思いながら、名古屋では1月2月にしか着ないような分厚いコートを着て歩く。一応4時過ぎあたりだったと思うのだが、既に寒い。

札幌ドーム。真ん中から突き出ているのは展望台(翌日訪問)。

札幌はその寒さゆえに、あらゆるところが屋内になっている。コンコースに上がるエスカレーターも、エスカレーター部分だけの建物があって暖房が効いている。こういう気遣いは雪国らしくて良い。ただ、我々が入場した南ゲートはなぜか屋外(一応囲われてはいるので吹き曝しではない)にあり、もうとにかく寒い。そして昼に食べたラーメンがここで効いてくる。母の顔色がみるみる悪くなり(普通に胃がヤバかったらしい)、さらには朝5時半起きが効いて眠気までやってくる。寒い、眠い、お腹の調子が良くない……という最悪3拍子が揃った。一応、ここからがメインイベントなのだが…。

ともかく入場。第一印象はとにかく広いということ。普段行くバンテリンドームナゴヤは、各階のコンコースが割と狭く、開場直後はもう自由に歩けないほど混雑する。しかし、札幌ドームはとにかく広い。

札幌ドームのコンコース
(今更言うまでもないが、総じて写真がひどい)

ただ、よく考えれば通路は広ければ広いほど良い。特に札幌なんて北国なんだから、野球シーズンでも春先や秋口は冷え込むだろう。座席にそんなに大きなスペースを確保できないと考えると、このコンコースで防寒着を袋から出して着たり、逆に脱いでしまったり……などのこまごました作業をすればよい。そういう意味で非常に便利だ。
ちなみにこれは後述するドームツアーで聞いたことだが、札幌ドームは京都駅ビルも担当した原広司さんが設計したらしい。京都駅ビルと言えば、北口にある長大な階段が印象的だが、この階段の使い方の妙というのがドームにもよく表れている。ぐるっとコンコースに階段が繋がっていて、そこから中の席に向かって何本か通路が伸びている構造。とても面白い。
また、ドーム内の飲食店はやや偏っていて、まずモスが多い。ドーム内にモスバーガーが簡易店舗も含めて3店舗ある(今公式サイトのフロアマップを見ると3つだけだったが、感覚的にはもう少し多かった気がする…?)。さらにKFCも3つある。どういう偏り方なんだよ。

夕食は当然のモス。

とドーム内を散策しているうちに、プレイボールが近づく。国際試合ということで、君が代だけでなくオーストラリア国家もちゃんと流れる。野球以外を含めてもこういう「国際試合」というものを初めて現地で観るので、ちょっと背筋が伸びる。

座席からの景色。
ちなみに、いくら札幌+平日+夕方(17:30)とはいえ、あまりにも人が少ない
(実際にはプレイボール直前ぐらいで増えるが)
整列する日本&オーストラリア代表。
(セレモニー中)

いよいよ始まる!日本の予告先発投手は、衝撃の完全試合で野球ファン以外にもその名を知られるようになった令和の怪物、佐々木朗希。どんな投球かな、誰が打つかな、という期待にドキドキしつつ、いよいよ試合開始。とりあえず見る。(さすがに今季最後の野球観戦なのは間違いないし)

しかし、どうも様子がおかしい。朗希は立ち上がりこそフラフラしていたが、すぐに立ち直ってビシッと抑える。本人的にも100%の力を発揮できたわけではなかったそうだが、それでも結構抑えていたし、直球は余裕で150km/h越えを連発。投げるたびに場内がどよめいていた。
一方、オーストラリアの先発ティム・アサートン投手。過去日本戦での登板経験もあるし、それなりの投手戦を期待していたのだが、この日は乱調。2回に連打とフォアボールでピンチを招くと、さらにタイムリーを浴び2失点。そして早くも降板。それ以降、日本の投手陣がそれなりにオーストラリア打線を手早く抑え、オーストラリアの投手陣はフォアボールを連発しヒットも浴びる……というなんとも一方的な試合に。一応オーストラリア代表を擁護するとしたら、そもそもこのコロナ禍に飛行機で遠く北半球(しかも北国)にやってきて、慣れない異国のマウンドで全力を尽くすことは難しかったと思う。その上、オーストラリアは今からシーズンが開幕するタイミングで、それまで選手たちは中南米やアメリカのマイナーリーグでプレーするというややこしいスケジュールだったこともある。
いやしかし、強化試合とはいえこれは大丈夫なんだろうか…。オーストラリアの攻撃が早く終わり、日本の攻撃はヒットやフォアボールで長々と続く。正直、もう見るほうも飽きてくる

試合開始から約2時間弱なのに、まだ4回の攻防中。スコアも日4-0オと既に一方的。
(普通2時間やったら6回までは行っているはずだが…)

そして、同時に疲れも出てくる。朝5時半に出て飛行機に乗り、お昼に超特大のラーメンを食べて胃腸もしっかり刺激した。なにより寒い。最悪のコンディションで、しかも帰りにまたドームから駅まで一般道を10分弱歩かなくてはならない。試合ももうここから負けることはないだろうし、むしろさらに攻撃が長引けばホテル到着がどんどん遅くなり、レイトチェックインの時間になってしまうかもしれない……。
かくして野球大好き親子は、札幌まで来た一番の目的である侍ジャパンの強化試合を切り上げ、途中で帰るという決断を下した。(ちなみに、帰っている人は結構いた)

例の大階段で分厚いコートを着て、ドームを出た時には既に22時近く(試合は確か8回の攻防中)。真っ暗で極寒の札幌市街をトボトボ歩きながら駅へ。いや、楽しかったよ?楽しかったけど、「なんか思ってたのと違う」感じは否めなかった。福住駅から地下鉄に乗り込み、2駅程乗ったところで、試合終了の速報が入った。最終的に、日本は9-0で勝利。この強化試合のキャッチフレーズが【見逃すな。新しい「無双」のはじまりを。】だったのだが、いや、そこまでやるかね…。マジの無双じゃん…。
しかし、観戦に拘っていたらドームを出られるのは22時半過ぎ。そこから激混みの一般道を歩く元気はなかったので、この「帰る」選択は大正解というか、むしろそれしかないぐらいの選択だったのだろう…と思いつつ、宿泊先へ。狭い部屋だが、暖かい。暖房の偉大さを嚙みしめながら、その日は倒れ込むように眠りについた。

(つづく)