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不透明

先日の学祭で、makerugakachiの新曲として披露した「不透明」。ここでは、この曲の裏話や歌詞に込めた意味なんかを、備忘録として残しておこうと思う。例によってかなり長くなりました。お暇なときにでも。

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はじめに

2019年12月28日、部活の先輩(3年生)が引退した。当時1年生だった自分は、単純に「先輩が引退してしまう…!」という寂しさが募ったと同時に、「2年経ったら、自分も同じように引退するんだな…」という、ずいぶん前借したような喪失感をも味わっていた。引退ライブを兼ねたその日の定期演奏会はいつも以上に楽しくて、でも寂しくて、エモーショナルで、万感の思いが詰まったものだった。

そしてその日の深夜から、場所を移動して夜通しの宴会が行われた。アメ研では、夏と冬に学生センターを借りての親睦会がある。自分は当時お酒を飲んでいなかったし(未成年だったので!)、そんなに体力が持つ方ではなかったので、10時頃から始まったパーティーをひとしきり楽しみ、先輩たちとの別れを惜しんだのち、2時くらいには別室でひと眠りすることにした。

とはいえ、自分の部屋でもないし、気持ちも多少高ぶっていたので、そんなにグッスリとは寝付けなかった。4~5時頃にフラフラと起きてきて、眠気覚ましに外の空気を吸おうと思って学生センターを出た。就寝用の別室はエアコンが効いていて暖かい。それに対し、年末早朝の空気は、身を切るように冷たかった。

そのままボーっと1人で学生センターの周りをうろつきながら、前日(前夜)の事や入部してからの数か月を回想する。先輩のこと、同期のこと、これからのこと…なんかを色々考えつつ、ふと歌詞とそこに沿うメロディーが浮かんだ。(こういう書き方すると、なんかカッコつけてる!みたいになって嫌なんだけど、本当に脈絡なくパッと浮かんだんですよ!)

理由は特にないけど 側にいられたらなんて
許されないってわかってるよ

急いでボイスメモにレコーディングした。この一節だけのボイスメモを録ってから1年半と少しの歳月をかけてようやく完成したのが、この「不透明」という曲だ。

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歌詞について(前半)

過去に戻れたらな このままいられたらな
形のないこと 浮かんでは消える

入部してからこの日までの数か月の間の日々を振り返った時、なんだか後悔することの方が多かったような気がした。今(21年10月)にして思えば、「すっごいガキっぽいな…」と思うような事を言ってしまったこともあったし。「過去に戻れたらな」という願いは、自分の場合よっぽど自分の人生を謳歌していない限り、永遠に付きまとうんじゃないかなと思ったりもする。

逆に、「このままいられたらな」という想いもあった。(今もある)同期や先輩(今では後輩も)と過ごす時間も、あと2年で終わってしまう…という寂しさも、この時強く感じていた。実際はコロナ渦の影響で2年どころじゃなくなってしまったので、今になって余計にそう感じたりする。

白い息 光る星 誰もいない交差点
信号機の灯りが点いて 消えて 消えて

名前なんてつけられないが 何かの映画みたいだ
当てはまる言葉のない感情が溢れてくるんだ

あぁ 信号が青に変わる
未来は目の前に

ここは情景描写とフィクションが混ざっている。実際に外を散歩していたのは明け方なので、「光る星」は存在していない。ただ「白い息」と「誰もない交差点」があって、「信号機の灯りが点いたり消えたり」していた。そんな光景を見ながら思考を巡らせては、少しずつ近づいてくる2年後の別れを感じてもいた。

※ただ、そもそも信号機を歌詞に取り入れたのは、ある別の曲の影響を強く受けている。この曲も、夜から明け方にかけての美しい風景を描く名曲だ。

信号機は誰もいない道にも合図をくれる
愛想などない でも律儀で 誰かに似てる気がした
(ハル/Mr.Children)

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なぜかわからないけど 涙が止まらないよ
明日への不安と昨日への執着が

過去は戻れないし 未来は待っちゃくれないんだ
時計の針に追われて また朝日が昇る

ここも同じような感じ。「過去に戻れたらな」という願いと、「過去は戻れないし未来は待っちゃくれないんだ」という現実で揺れる心情描写だ。「明日への不安と昨日への執着」は「涙」に係っている。というより、涙を呼び起こしているものが、「明日への~」の部分ということ。

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イヤホンの向こうから流れる声に耳を澄ませて
何も聴こえない様に ボリュームをまた上げた

まぁ はっきりしないような日々が続いてく

短い文字数に落とし込みきれていない感じがするが、要するに「外界の雑踏や膨大な情報をシャットアウトして、イヤホンの向こうから聴こえる音楽や歌声だけに集中したい(だからボリュームを上げる)」ということを表現したかった。

この部分は、歌詞自体の意味に加えて、この曲の元ネタにも結構引っ張られている。アメ研OBのピルグリムマザーズというバンドが演奏していた、「In-N-Out」というオリジナル曲。

不安定な日々で 僕はインプットする感度を調整
未確定な自己で 僕はアウトプットする感度を調整
(In-N-Out/ピルグリムマザーズ)

歌詞だけでなく、曲の構成やアレンジにもかなり影響を受けているので、是非聴いてみてください。(歌詞は耳コピなので間違っていたらすみません)

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理由は特にないけど 側にいられたらなんて
許されないってわかってるよ

不透明な僕らは 好きな色を纏って
空白の背景に書き足していくんだ

冒頭、最も最初に出来た部分はここで使った。と同時に、この不透明という曲の着地点をどうするかの試行錯誤を経て、かなり急ハンドルを切ったような歌詞になってしまったな……とちょっと思ったりもする。

「不透明な~」以降の部分は、実は「書き足していくんだ!」という前向きな決意というより、「書き足していくんだ…そうするしかないんだ…」という、ちょっと消極的で、「仕方がないからやる」「やらざるを得ないからやる」というイメージの方が近い。だから、前半全体は一貫して「過去に固執していて、未来に対しては不安や寂しさが一杯」というネガティブでナイーブな一面しか描いていない。(ただ、それが伝わりにくい書き方になってしまった…という反省。話の展開が急すぎるように見えてしまった)

そして、その「前に進むしかない」の部分を前向きな決意に変えるという想い役目を請け負うのが後半のパート。メロディーはかなり早い段階で決まっていたものの語りの歌詞なんて書いたことがなかったし、フィットする表現を探しつつうまくゴールへ向かうというハードルの高さからかなり苦労した。その結果はここから。

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歌詞について(後半)

窓の外に広がってた海は
水平線の向こうまでずっと白くて
映画の中に映るようなそれとは違った
幻想的な美しさと危うさをはらんでいた

日本海流のうねりに乗って
流れ着いた幾多の細胞の中から
たった一つの輝きを掴むような
途方もないことを考えていた

ここでいう「海」には明確なモデルがある。曲が生まれるきっかけとなった朝からさかのぼる事4か月弱、バンドのメンバーと熱海の旅館に泊まった。その旅館に向かう道中、東海道線の車窓から見えた海は、その日の曇天とも相まって、青というより「真っ白」だった。(なので「日本海流」ということ)

当時はバンドがこの先どうなっていくかなんて全く分からなかったわけで、ありとあらゆる可能性の中から、3年間ずっとバンドを謳歌しハッピーエンドで終わる事ができるような、めちゃくちゃに順風満帆な日々が続くことを願っていた。(もちろん、そんなに甘い話ではない)後半は、そういうことの比喩でもある。

自由に生きていたい衝動と
安定を得ていたい理性との鬩ぎ合いが続いて
目の前の景色すらも怖くなってきて
アルコールで全てを一気に流し込んだ

これは今でもある。自由気ままに生きてられたらそれはすごく幸せな事なんだろうけど、やっぱり教科書通りの人生がなんだかんだ間違いないような気がしたりもする。当時の感覚では、さらに「バンドとしてさらに高みを目指す(何ならちょっと売れるぐらいまで)」のか、「バンドを楽しみつつ、しっかり手に職をつける」のか…という迷いがまだ残っていた。そういう大事な選択って待ってはくれないし、だからこそ不安が膨らんでいく。「目の前の景色すらも怖くなってきて」は、当時からしてみるとあながち大袈裟でもないような表現だった。

※ちなみに、その後のアルコールの一節。当時一切酒を飲んでいなかった(未成年だったので!←複唱)のになぜ急に…というと、この語り部分にも元ネタが合って、そこから引っ張ってきた…という裏話。

心臓の音で怯える夜と、幸せを飲み込んだ副作用
穴が開いて萎んでいった、ビニール製の夢の世界
嘘の光を追いかけて、線路へ飛び込んだ人
アルコールでかけた、数時間で溶ける魔法
誰も愛せない、札束でできたラブソング
一瞬で雨に流された、せっせと作った砂の城
(その日がきたら/ハルカとミユキ)

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朝日が昇っても明ける事のない夜
日差しと共に容赦なく降り注ぐスコール
そんな不透明な世界の中にいて
僕も、

曲のタイトル「不透明」とは、文字通り先行きの見えない世界のことでもある。ただ、それは世界(社会)のシステムや遡行し得ない時の流れだけがそうさせているわけではない。むしろ、頭の中であれこれ考え悩む中で、実際には朝日が昇っているのに夜が明けていないように感じたり、日差しを浴びているのにスコールに打たれているような気分になる。自分はとくに今でもそうなってしまう。「不透明」に見える理由は自分の中にも内在していて、それを踏まえた上で…いよいよ曲はクライマックスへ。

(ちなみに、「夜」と「スコール」で踏んでいたりする)

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モノクロのままの作りかけの未来図
手の平の上には原色の煌めき
囃し立てる街の音をそっと閉じて
深く息を吸って
さあ 何を描こう?

この部分は曲のシメ。演奏も最後の盛り上がりを見せる。そして、2部構成という前半と後半でかなり雰囲気も中身も違う歌詞の意味を総ざらいするオチをつけなければいけない…というところで悩んだ部分。結果的に、前半最後の取ってつけたような「空白の背景に書き足していくんだ」という歌詞を回収できたので、まあある程度収まったかな、という印象。

「原色の煌めき」という表現には、これもまた元ネタがある。この「原色」という表現がすごく好きで、結果的にかなり影響を受けている。

すぐいくよ あなただけ
見つめて 終わらない夢がみたいの
原色で煌めいて 何者でもないままのあなたで
(蒼い星/柴咲コウ)

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おわりに

不透明という曲は、前半でひとしきり感傷的に悩みや迷いを書き連ね、同時に「それでも前に進んでいかなければいけない」という、半ばヤケクソや諦めに近いような後ろ向きの決意を歌う。そして後半は、語り部分でマーチのようなドラムに乗せて、ちょっとずつ前向きな雰囲気を作りつつ、最後のクライマックスでようやっと少しだけ前向きな決意が覗く。同時に、冒頭で書いたこの曲ができた瞬間…早朝の徐々に陽が昇って朝になっていくという「夜明け」の風景を2部構成のメロディーやリズムで表現してみた。ラプソディというほど大袈裟でもないし、そんなにクオリティもよくないけど、こういうストーリーの流れと心情の変化がある曲だ、ということだ。

改めて振り返ってみると、かなり強引な部分が多かったり、表現の不足が多いな…と感じた。でもまぁ、これはこれで悪くないんじゃないかな、と思ったりもする。正直、練習で演奏するまでかなり不安(演奏のクオリティというよりも、曲の中身が果たして良いのかどうか…という不安)だったが、演奏してみると意外としっくりきた。なので、こんな長い文章を読んでもらっておいてなんですが……なんとなくダラッと聴いてもらえたらと思います。ここまでの中身は、「本当はこういうことを書きたかった!」という部分の補填という意味もあったりするので。

最後に歌詞全体を。お付き合いいただきありがとうございました。

過去に戻れたらな このままいられたらな
形のないこと 浮かんでは消える

白い息 光る星 誰もいない交差点
信号機の灯りが 点いて 消えて 消えて
名前なんて付けられないが 何かの映画みたいだ
当てはまる言葉のない感情が溢れてくるんだ

あぁ 信号が青に変わる
未来は目の前に

なぜかわからないけど 涙が止まらないよ
明日への不安と昨日への執着が
過去は戻れないし 未来は待っちゃくれないんだ
時計の針に追われて また朝日が昇る

イヤホンの向こうから流れる声に耳を澄ませて
何も聴こえない様に ボリュームをまた上げた

まぁ はっきりしないような日々が続いてく

理由は特にないけど 側にいられたらなんて
許されないってわかってるよ
不透明な僕らは 好きな色を纏って
空白の背景に書き足していくんだ

窓の外に広がってた海は
水平線の向こうまでずっと白くて
映画の中に映るようなそれとは違った
幻想的な美しさと危うさをはらんでいた

日本海流のうねりに乗って
流れ着いた幾多の細胞の中から
たった一つの輝きを掴むような
途方もないことを考えていた

自由に生きていたい衝動と
安定を得ていたい理性との鬩ぎ合いが続いて
目の前の景色すらも怖くなってきて
アルコールで全てを一気に流し込んだ

朝日が昇っても明ける事のない夜
日差しと共に容赦なく降り注ぐスコール
そんな不透明な世界の中にいて
僕も、

モノクロのままの作りかけの未来図
手の平の上には原色の煌めき
囃し立てる街の音をそっと閉じて
深く息を吸って
さあ 何を描こう?
(不透明/makerugakachi)