#day101 2022/3/6 手術後97日目 転院80日目 日曜日の迷宮

1時半に目が覚める。眠れなくなってしまい、色々とやっていたら、いつの間にか3時半過ぎ。二度寝からの目覚めは6:50。今日も起きれなかった。

遮光カーテンの隙間に潜り込んで、外の景色を撮影する。

ぼんやり映った写真を見ながら、黄砂の影響かなと思っていたけど、スマホのレンズが汚れていただけだった。


ヒゲ剃りと洗髪を済ませる。


8時になって朝ごはん。


今日は日曜日なのでリハビリも何もない。

足の痛みに耐える日常と違って、今日は「ヒマさ」というこの上ない苦痛に耐えなければならない一日。

お隣さんもそれを察して

「今日の午前中の楽しみが終わったぞ(笑)」

と嘆いている。
食事以外に今日の楽しみは何もない。

窓の外はものすごく良い天気で、天気に関係なくここから出ることすら出来ない、病院内に囚われた私たちの心境を嘲笑っているかのよう。

音楽を聞いたり、昨日の日記を書いたり、お隣さんとお話したりしながら時間を過ごす。


9時過ぎに、看護師さんの午前中の回診。検温と血圧測定。36.8℃。
今日はここまで、自主練も筋トレもしていない。歩いたのも朝の洗髪とトイレに行ったくらい。

++++++

お隣さんの同僚が離婚した話を聞いていた。同僚が家に帰ると、奥さんの不倫現場に遭遇したらしい。不倫相手は、なんと女性。

その絡みで、お隣さんが看護師さんに『男性同士の恋愛はどう思うか?』という質問をしていた。

今日の日勤担当は、だだんだん好き看護師さん。
彼女はBL物が好きらしく、『男性同士の恋愛は可愛く感じる』とのことだった。

この意見には、私もお隣さんも理解ができず、困惑するしか無かった。

私にもお隣さんにも差別意識は全く無い。
ただ、そういう男性たちから恋愛の対象として追い掛け回される、というのを考えると、軽い恐怖心が湧いてくるという話。

そもそも男性はそういう目線で追われることがほぼ無い立場なので、追われる立場になると怖さを感じてしまうのかもしれないな。



平日の生活リズムに合わせて、自主練や筋トレやセーフスをするつもりだったけど、結局何もしないままになってしまった。
日向ぼっこはいつも通りにやった。
間食はしなかった。


お隣さんが飲んでいる薬の効能を調べるお手伝いをする。
朝食後に薬を持ってきた看護師さんが残した

「血圧の薬が無くなってるけど、大丈夫?」

という一言で、お隣さんが『本当に血圧の薬が無くなったのかどうか不安になった』ので、それを確認するためにお薬手帳記載の各薬剤名から効能を調べる。

確認した結果、お隣さんが飲んでる薬は

  • 血液サラサラの薬

  • 血圧の薬

  • 胃薬

  • 血圧の薬(2種類目)

だった。

血圧の薬が出されているのが確認できて一件落着。
看護師さんの一言は、
「血圧の薬が『全部』無くなっている」
という意味じゃなくて、
「血圧の薬が『一部』無くなっている」
って意味だったんだろう。
コミニュケーションは大事。



12時になって昼ごはん。


昼からも特にすることがなく、ベッドに横になったまま、時にまどろんだりしながらずっと音楽を聞いたりしていた。
今日はLAUVばかり聞いてた。

I knew from the first time, I'd stay for a long time. Cause I like me better when I'm with you.


昼過ぎにだだんだん看護師さんがやってきて検温と血圧測定。36.5℃。
今日は一日36℃台だったので、お隣さんから「今日はストレスがないからや」とからかわれる。

そんなことない。今日は全く動いてないから。

そう言えば言うほどおかしなことになる。でも本当に動いてないからだと思うけどね。



18時になって晩ごはん。


今日はほぼ動いてないので、歩行練習をしとかないとな、という気になった。心のエンジン始動が遅すぎる。

杖無しで、廊下の端から端までを往復していく。3往復したあたりでロビーにいた35歳看護師さんに呼び止められる。どうやら、ロビーにいる年輩の女性が、私のことが孫にソックリだ、と言っているらしい。少しお話ししてあげてくれませんか?と言われた。お安い御用なので、看護師さんと一緒にロビーに向って、その女性とご対面。なるほど、この方か。

++++++
その女性とはお話ししたことは無いけれど、看護師さんたちと軽いトラブルになっているのを時々見かけるので、一方的に知っている。トラブルになっている時に漏れ聞こえてくる会話を聞く限りでは、程度は分からないけれど痴呆があるようす。荷物を預けた、いや預かってない、という感じで看護師と時々揉めている。痴呆があるだけでなく、割りと弁が立つようで、そういったやり取りをした後に男性看護師さんが「勘弁してよ…」とこぼしてたりする。

その彼女の世界の中に、遂に私も立ち入ることになった。

++++++

その女性は車椅子に座ったままで、もうひとりの女性と共にテーブルに向かっていて、お二人で談笑されていた。私が近付いて腰を落とすと、私の目を見つめて「そう、あなた!私の孫にソックリなのよ!」というキッカケになる言葉を投げかけてくれた。カーン。

そこからはジャブの差し合いが始まる。

「背の高さも孫にソックリなのよ!身長はどれくらい?」
「172cmです。」

「あらそうなの?もっと高く見えるわよ。180cmくらいに」
「そんなに無いですよ!でもありがとうございます」

「足も大きいわね。サイズはいくつ?」
「28cmくらいですね」

そんな身元調査が暫く続いたあとに、彼女がダッキングしながら懐に突然飛び込んでくる。

「お若いわね。学生さん?」
「いえいえいえ、○○歳のおっさんですよ」

「えっ?!」(かなりの困惑っぷり)
(マスクを外しながら)「こんな顔してます。オッサンでしょ?」

(しばらくの沈黙の後)「…本当ね…」
(そこは『若い』って言うところやろ!と思いながら)「でしょ?」

「でも素敵よ!ス・テ・キ♡」

白内障なのかもしれないけれど、こちらを見つめる瞳に蛍光灯の光が反射して、驚くほどにキラキラと輝いていた。瞳と表情だけを見ていると、まるで恋する乙女のような感じに思えた。

『ありがとうございます』と答えようとしていたら、彼女が連続攻撃でスピードスターぶりを見せつけてくる。

「結婚されてるの?」
「してましたけど、離婚したんですよ」

「あらそうなの?お子さんは?」
「います。○○人です」

「あなたはここは長いの?」
「もうすぐで3ヶ月です」

「あらそう。私はここは長いのよ」


私は彼女たちの入院理由を知らないので、どれくらいの期間、入院されてるのか全く知らない。割りと最近入ってこられたような気がするけど、私が彼女のことを知らなかっただけかもしれない。

「どれくらい入院されてるんですか?」

「私はね、看護師だからね。28歳で日赤に入って、今が94歳だからね、40年間ね!」
「え?!あっ、そ、そうなんですね!それなら僕はひよっ子ですね!」

「そうよ、ひよっ子よ!」


ちょっとツッコミどころが多すぎるけど、とりあえず彼女たちのゾーンに立ち入ったことだけは分かった。


「あなたはこのホテルで働き始めてから長いの?」
「え?!あっ、そ、そうですね。でも来週転職するんです」

「そうなのね。私は看護師だからね。」
「ここで働かれているんですか?」

「そうよ!28歳から働き始めて、今が94歳だから、30年くらいになるわね!」


いつの間にか、私がいる場所は病院からホテルになっていて、ホテルのボーイとして働いていることになっているようだ。他にもツッコミどころが沢山あるけど、彼女のマシンガンのようなパンチのラッシュは止まらない。

『どれくらいいるの?→私は看護師でずっとここで働いている→どれくらいいるの?』の無限ループ。

このまま彼女の中の迷宮に迷い込んだまま、数時間過ごすことも覚悟しつつ、もうひとりの女性の存在を思い出し、彼女に話を振ってみる。もしかしたらこちらの彼女は痴呆ではないかもしれない。


「奥さんはどれくらい入院されてるんですか?」

『私はこのホテルにお茶を飲みに来ているだけなんですよ』
「………このホテルのお茶は美味しいですもんね!」


私の希望的観測はモノの見事に外れてしまった。このお二人は同じ世界で楽しく会話をして過ごされていた。それはそれでスゴイことだなと思うし、完璧なパートナーだと思うし、二人にとっても幸せなことだと思った。奇跡の二人だと思う。


お二人とお話ししていても苦痛に思うことはほぼ無くて、話せと言われればいつまででも話せるようにも思うけど、お二人の世界とは時間の流れ方の違う世界の住人としては、どこかで切りを付けて自分の世界に戻るべきかなと思った。

話をスムーズに終わらせることが出来たので、お二人にご挨拶をしてから退席させてもらった。お二人にはまた会うと思うけど、次に会うときも「初対面として」会うことになるんだろう。その時までに、彼女たちの世界で通用する引き出しを増やしておかないとな。

++++++

お二人との会話を終えたところで、35歳看護師さんや補助の方々から、「お疲れさんです」と「ありがとうございました」と声をかけてもらった。私は今日だけなのと、仕事ではないので大丈夫だけど、彼女たちの立場になればとんでもなく大変だろうな、とは思う。


途中になっていた歩行練習を再開して、中断の前後合計で計17、8分間歩いた。



wordleの音楽版、heardleというのを見つけた。曲のイントロを聞いてその曲名を当てるゲームで、外れるたびに聞ける長さが少しずつ長くなる。

これは面白そうだ、ということで早速挑戦してみる。


何故か曲が流れない。おかしいな、と思って画面をよく見ると、

「あなたの国では、本日のお題をSoundCloud上で再生することが出来ないようです(意訳)」

と書かれている。著作権絡みでお題を再生出来ないようだ。

因みに答えはカニエ・ウエストの曲だった。

明日また試してみようかな。



いつもお菓子をくれる補助の方が、またお菓子をくれた。かりんとう。本当にありがたい。



お返しは準備したので、あとはいつ渡すか、を考えないと。


20時半過ぎに、今日開催の2レースのうち、1レースの結果が公開されていることに気付いた。

どうしようか迷った挙げ句、今日処理することにしてMacを引っ張り出して作業開始。消灯時間を少し過ぎたあたりで、データ処理とグラフの公開とアナウンスを終えた。残り1レースのデータは公開されてから処理することに。


Macを片付けて、wordleをしようと思ってたら、セーフスをしてないことに気付く。

慌てて真っ暗闇の中でセーフスをする。


セーフスを終えて横になっていたら、いつの間にか寝落ちしてしまっていた。

23時ごろ就寝。

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