タルタルソースと柚子の皮の話
人気のやつ、タルタルソース🥚
たまごたっぷり、もったりボリュームあって、すこしのクリームでなめらかに、白胡椒がすこーし香るやつ。
スパイスは、あわせる素材とおなじ色をえらぶとよい、という話を昔聞いてから、そういうふうにしている。
だから、タルタルソースには黒胡椒でなくて白胡椒をいれる。
入っているかどうか、わかるようなわかんないような、
わかんないけど、なんだかいいな。
そんな加減が良いと思う。
スパイスや隠し味ってやつは、気づくととっても良い気分になる。
鴨そばをすすっている途中、ふわりとゆずの皮が鼻腔にひろがるとき。
テリーヌをかじっている途中、ガリッと粗挽きの黒胡椒が歯の間で弾けるとき。
ふわふわのカプチーノを口に流し込む、はっとシナモンの香りがたちのぼるとき。
だけど、隠し味というくらいだから、基本的には隠れているのが良い、
隠れていて、時折顔を出したり、顔を出さないけど良い仕事をしたり、というのが本来の役割なのだから。
あるラーメン屋さんの話。
ラーメンの器の中に、ちいさなゆずの皮がひとかけ忍び込んでいる。
食べている途中にふわっと香る、そしてまた通常に戻る、それくらいのやつ。
誰かが、「ゆずが効いていておいしい」と、口コミサイトに書いた。
それを見た誰かが食べに行き、「ゆずなんて効いていなかった、残念」というようなことを書いた。
店がその口コミをみて、柚子の皮をふやした。
最初の誰かが、お店に行ってラーメンを食べたあと、こう書いた。
「柚子が効きすぎてて、全体が単調になってしまった」
物語のような話だなと思った。
今はどうなのかわからないけど。それぞれの立場の言い分について、そうだよなあ、と考えさせられる出来事だった。
感覚はそれぞれちがうから、おなじ量でも感じ方は違うだろうし、好みもある。
良い!といわれたら、それを伸ばしたくなる気持ちや、少ない!といわれたら増やそうかな、多い!といわれたら減らそうかな、となる気持ちの揺らぎも理解できる。
それをふまえて言う。
全員が等しくはっきりわかるようなレベルまで引き上げる、ということは、安心安全であり、また危険なことでもある。
わかりやすい、は伝わりやすい。
だけど、わかりやすい、は飽きやすい。
料理ってそういうものだ。
タルタルソースに白胡椒をいれるたび、そういうことを考えている。
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