見出し画像

難破 (u/GSnow邦訳)

アメリカ発祥の掲示板redditの r/Assistance ページに投稿された「友人が亡くなりどうして良いかわからない」という投稿(削除済み)に対してユーザーu/GSnowが2011年5月に投稿し、以来一部で少し有名になっている返答の拙訳です。原著者の掲載許可を得ています。

さて、私ももう歳です。今のところ生きながらえてはいますが、歳をとったということは、これまで私が出会い慈しんできた多くの人たちが亡くなったということでもあります。母親、祖父母、親戚、親友、友達、知人、先生、同僚、生徒、隣人、そのほかにも多くの人を失ってきました。私には子供がおらず、子供を失う苦しみが一体どれほどのものなのか想像もつきません。ただ、私の拙い考えを少し述べさせて下さい。

「先立たれることにもそのうち慣れるさ」、とでも言って差し上げたいところですが、私の場合決して慣れることはありませんでした。そして、慣れたくもないと思っています。いつであれ、私の愛する人が亡くなると心を引き裂かれる思いをします。しかし、私は死を「辛くないこと」にしたくはありません。ただ過ぎ去っていくようなことにしたくはありません。

私の心の傷痕は、その人への愛と結び付きの証です。傷が深ければ、愛もまたそれだけ深かったということです。だとしたら、傷があったって良いじゃあありませんか。私の傷痕は、私が深く愛し、深く生きることができる人間であり、切られたり、えぐられたりしても、治癒して愛し続けることができる人間であるという証です。しかも、傷痕の組織は元の肉よりも強くなります。傷痕は人生の証です¹。

悲しみは波のようにやってきます。悲しみの波に打ち砕かれたときには、まるで船が難破したかのように²周りに破片が散乱し、あなたは溺れそうになるでしょう。浮かんでいる破片を見て思い出すのはかつての船の美しさと壮大さばかり。破片をひとつ見つけて、それにしがみつきます。その破片は形ある何かかもしれませんし、幸せな思い出や写真かもしれません。あるいはあなたと同じように浮かんでいる他の誰かかもしれません。当面あなたにできることはただ浮かんでいることだけです。どうにか生き延びてください。

波は最初三十メートルの高さ³で容赦なく打ち付けてきます。十秒おきに来て息つく暇も与えず、あなたは破片にしがみついて浮かんでいることしかできません。しかし、数週間後であれ数ヶ月後であれ、しばらくすると波の押し寄せる間隔が空いていることにふと気が付くでしょう。波の高さは相変わらず三十メートルで、ひとたび波が来るとやはり打ちのめされてしまいますが⁴、次の波が来るまでの間に息を整えたり生活をしたりすることができるようになります。何が悲しみの波の引き金になるのかは分かったものではありません。歌かもしれないし、写真、交差点、コーヒーの匂いかもしれません。何もかもが引き金となって波が打ち付けてきます。ただ、その波の狭間にはあなたの人生があるようになります。

いつしか、波の高さが二十メートルだったり、十五メートルだったりになっていることに気が付きます。波は寄せ続けますが、間隔ももっと広くなっています。波が来ることも予期できるようになっています。それは記念日、誕生日、クリスマス、あるいはオヘア空港に着いた時なのかもしれません⁵が、波を予期して心の準備をすることができるでしょう。その頃には、悲しみが押し寄せたときにも、自分はどうにかしてまたその向こう側へたどり着くことができることをあなたは知っています。びしょ濡れでむせ返り、船の小さな破片をまだ手放せずにはいますが、必ず向こう岸にたどり着くことができるようになっています。

私のような年寄りが言うのだから間違いありません。波が止まることはありませんし、不思議なことにどこか止まってほしくないように感じられることもあるでしょう。しかし、「自分は生き延びるのだ」と学びます。あなたはどんな波が来ても必ず生き延びます。あなたが幸運であれば、あなたには愛から生まれた数多の傷痕が残ることでしょう。数多の難破船と共に。

訳: massan


訳註
1. "Scars are only ugly to people who can't see."という文がこの直後に入っていたが、"people who can't see"の意味を取ることができず訳から取り除いた。
2. 原文は"When the ship is first wrecked,"。"Shipwreck"は難破船やその残骸のことを指すが、比喩的な表現として精神的に破滅しているような状態を指すこともあり、ここでは両方の意味で使われている。
3. 原文は100フィート。
4. 原文は"wipe you out"。 直訳すると「あなたを流し去る」だが、ここでは絶望して精神的にも疲弊しきるというような意味で使われている。波にちなんだ表現なのだが訳出できなかった。
5. イリノイ州シカゴにある空港。著者に亡くなった人との思い出があるのだろう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?