『酒場にて』 #24...

そこにあるのは、ただただ肉片と脳漿、血と体液の海だった。
店主は、己が無事であることにも気付かぬまま、奥歯をガチガチと鳴らしている。
男は、吸い終わったタバコを、カウンターで揉み消けした。紫煙が宙を舞う。
店主は、その煙を目で追うようにしながら、凶弾がボロボロにしてしまった壁の方を向く。
しかし、そこにもはや壁はなく、西日が差し込む、白茶けた草原が広がるばかりだ。
ふと、その草原の一角が盛り上がったかと思うと、それは、天を衝くほど巨大な人影となった。
西日のせいで、その姿を確認することはできないが、そのシルエットは、全身から草を生やしているように見える。
人影は、何か、巨大な筒のようなものを担ぎ上げた。

——対物狙撃銃って知ってるか?

男の言葉が、店主の脳裏をよぎる。
あんな巨大な銃で撃ち抜かれたのでは、ひとたまりもない。
店主は、そんなことを思いながら、男の話しを更に思い出していた。
——何か大事なことがあったはずだ。
——そう、何か——
それに思い当たると同時に、店主はカウンターの下に取り付けられた散弾銃を手に取り、素早く背後を振り返った。

——闇があったのさ。

しかし、そこには何もなかった。
闇も、人影も、そして、最後の希望すらも。

カチリと、音がした。

店主の後頭部に、冷たく、硬い何かが押し付けられた。
「せっかくのオチなんだ。コッチを向いて聞いてくれよ」
最早、聞き慣れた感すらある男の声がした。
店主は、両手を挙げ、ゆっくりと振り返る。
不意に、横から散弾銃を取り上げられた。
驚いてそちらを見ると、そこには、闇があった。
いつからそこにあったのかは分からない。
あるいは、初めからあったのか。
男が口を開く。
「俺が生き残れた理由、だったよな。もう分かったろう? ——俺も襲撃者だったのさ」
男は、手に青い班目模様の回転式拳銃を握っている。
その暗く深い銃口は、店主の眉間を見つめ、今にも喰らいつこうと舌舐めずりしている。
「さて、話をしようか——。バッファロー・ビルって酒場であった話しだ」
男の気だるそうな目に殺意がこもる。
「聞いてくれるかい?」

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