ミリアニで一貫して描かれる『利他的』という価値観について
本日(2024/10/8)は、アニメ アイドルマスターミリオンライブ(以下ミリアニ)のTV放送開始一周年ということで私なりにミリアニについて考え、ミリアニが伝えたかったメッセージや価値観についての考察を書き残しておきたいと思います。
どちらかというとミリアニ視聴済みあるいはミリオンライブについてある程度把握している方向けの内容です。
利他的とはどういう意味か
ミリアニの綿田監督は、主人公として春日未来を据えたときに性格や行動を『利他的』になるよう調整したと複数回発言されています。(BD特典の原っぱ通信での発言)
そもそも利他的とはどういう意味でしょうか。
辞書上の意味では自己犠牲が強調されていますが、作中での未来の振る舞いを考えると、そこまで大仰あるいは意識的なものではなく単純に他人のために自然に行動できるくらいの意味合いだと思います。
当然、監督は何の意図もなく主人公の性格を調整したりはしません。ミリアニにおいて利他的というのは未来個人の価値観に留まらず、シアター全体の価値観ひいては作品全体のテーマ、メッセージとなっています。
ミリアニが既存ファン向けの作品構成でありながら定期的に新規に刺さるのも、この利他的という分かりやすいテーマに対する共感があるからだと思います。
具体的に未来のどういった点が利他的なのか
部活掛け持ちという設定
1話冒頭で未来は自分自身の夢を求めて色々な部活を掛け持ちしています。この設定自体はコミカライズなどにも見られたものですが、ミリアニではピンチヒッターとしてチームに貢献したり、タイムを計ったり、子どもやお年寄りと一緒に遊んだり、視点が自分ではなく相手に向かっていることが分かります。
人が誰かと遊ぼうと考えたとき普通なら同性、同年齢を相手に選ぶでしょう。その方が気が楽だからです。お年寄りと卓球で遊ぶというのは最早ボランティアの領域ですが、未来はもちろん慈善を意識してはいません。
この最序盤の描写で未来の好奇心、行動力、そして頑張る誰かを応援したいという利他性が伝わってきます。
なぜ未来はオーディションに合格できたのか
2話のオーディションで未来は静香とともにオーディションに合格します。静香が合格したのは、持ち直したあとの歌唱力やパフォーマンスに将来性を感じたからと推測できます。ですが未来はなぜ合格できたのでしょうか。パフォーマンスは付け焼き刃で、事前の面接でも気の利いたことが言えたとは思えません。
そんな未来が合格できたのは、一度きりのチャンスであるはずのオーディションの本番でアガってしまった静香に躊躇なく手を差し伸べたことではないかと思います。この行動ができるには3つの条件が必要です。
ぶっつけ本番という状況で他人のことが見える心理的な余裕があること
自分自身のパフォーマンスが中断しかねない状況で咄嗟に判断し行動できること
そもそも他人を気遣う善意があること
未来は他人のことがよく見える子で静香がアイドルになりたがっていることも初対面で見抜き一緒にアイドルになろうと提案します。
利他的であるためには善意だけでなく相手に対する好奇心や洞察力、行動力も必要で、未来はそれを示したからこそオーディションに合格できたのだと思います。
ミリオンスターズ全体の価値観としての利他性
シアターがホームになれる理由
3話以降では利他的な価値観を持っているアイドルが未来に限らないことが示されます。
例えば一見異質なエピソードとされる7話では、敵対チームのアイドルを咄嗟の判断で身を挺して助けようとするシーンが複数回描かれています。7話はあえて未来たちからフォーカスを移すことで、利他的というのがミリオンスターズ共通の価値観であることを暗に示しているのだと思います。
また4話でも気まずくなった桃子のもとにみんなが集まったり、未来の真意を分かってもらうために翼も人肌脱いでくれたりします。
さらに10話では自己のパフォーマンスのみに気をとられ行き詰まっていた静香がチャリティー活動を通じて相手に歌を届けることの意味を知ることでアイドルとしての才能を開花させ、父親の理解も得られます。
ミリオンスターズというのは利他的な、ある意味お人好しともいえるアイドルの集まりであり、故にこそシアターは不安なまま上京してきた紬や、荒涼とした芸能界で生きてきた桃子にとってのホームたり得るのだと思います。
アンチテーゼとしての茜ちゃんと4話の展開
とはいえ全員が同じ価値観を持ち、それが一方的に賞賛されるというのもかえって不自然ですし、創作物としてのバランスを欠きます。
その点、茜ちゃんはグッズや配信の収益によって普通に私腹を肥やすことを企むクセのある子です。茜ちゃんがいることでミリオンスターズは完全には同質化せず集団として一定のリアリティが保たれています。
また、4話では未来のみんなを想っての行動が裏目に出てしまいトラブルを引き起こします。利他的な動機によって起こした行動が常に周囲を幸せにするとは限らない側面もきちんと示されています。
利他的であることがなぜ望ましいのか
プロデューサーは4話でオーディションの判断基準と自身の価値観を以下のように明言しています。
同じ歩幅で一緒に走りたいと思える人を探していた
みんなのやりたいことを支えたい、一緒に叶えていきたい
後者からはプロデューサー自身も利他的な価値観を持ち、頑張る誰かを応援したい気持ちがあること、前者からはその価値観を共有できる子を探していたことが読み取れます。
頑張る誰かを応援するために頑張れる人間は、同じ価値観を持つ人間に応援されうる。そして価値観を共有する人たち同士で集まればより大きな力になる……それがプロデューサーの描くミリオンスターズの理想ではないかと思います。
そしてその好循環のなかにはファンも入れることを示したのが12話のエピソードです。前述の頑張る誰かを応援するという観点においてアイドルとファンとは互いに与え合える対等な立場になれます。
それは12話の元になったライブにご自身もファンとして参加していたという綿田監督が考えるアイドルとファンとの理想的な関係だったのではないでしょうか。