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「奢って」女を厭ふ

下半身疼く男共は決まって「酒席を共にしたい」との誘い文句に、加えて「おごるよ(笑)」の一文を備え付けること例外はなし、「(笑)」の一投に酒飲み根性をチリチリと炙られては、自分の酒代も出せずして誰が酒飲みを自称できるのであろうか、亡くなった父親が在りし時、日毎申す「我が酒代賄うべし」の言葉を以て、娘の私が酒代を奢られ足元見らるる体たらくでどうするのだと、「おごるよ(笑)(笑)(笑)」とぞ煽り耐性地を割るか如き低能ぶりで返信する。
まぁ父ちゃんが亡きとはこれ嘘であり、今も何処や四国地方でしがないネジ売りをしては、正気保てぬ老人相手に「このネジを買っておけば集客ありて一攫千金、長寿の願いまで叶わしてござい」と猛弁振るっておる頃かもしらぬ、いンやもしかすると「このネジを買わずんば我タヒせり」と顧客の足元縋りついては情けないことこの上なき商売を行っているのかもしれんが、まぁとにはかくともネジを売ってどこかで元気に暮らしておることに相違ない。
じゃあ誰ぞ亡くなったかと言えば、祖母が遠き昔に、、というわけでもなく、我が祖母ピンピンと過ごして憚らず、昨年小さき段差において転げ落ちたために負った大腿骨の骨折にて、床に臥すこと284日、動けなくなら彼女もこれにて以降呆けの始まる人生かと思いきや、全治叶わずとの診断を下されたことに腹を立てた祖母、ド根性にて年越前の退院を果たし、翌日から快気祝いに空かしたビール瓶で若者を殴打しては、健康であることの喜びにおいて舞に舞う。
ほんだらば殴打された若者がタヒんだのかと申せばそういったわけでもなく、殴られた後若者倒れては起き上がり小法師のごとくヒョイヒョイと復古を遂げて、殴打のこれしきも効いておらずを装ふ、「澄子の全快が是めでたし」と叫び、祖母の名を呼び捨てたことに彼女の怒りを買い、再び鹿児島県産芋焼酎「五代」の一升瓶にて振りかぶっては殴打さる、本格的に脳より血を流し救急車により大病院に搬送さるるもこれまた集中治療室にてかろうじて生き永らえておるのである。
では誰も亡くなってはおらずまことめでたき話ではあるが、じゃあ何故亡くなったとの言発するかと言えば、酒飲み女の酒代を奢らるること厭うを申したくも、ババアが思い付きの出鱈目を申すなとのバッシング受けること危惧し、そんならば帰らぬ者の往年申す格言であればそれなりの説得力があろうかと思い、しめしめ我が父くらいちょっとやそっとコロしてやってもまぁ何ぞ減るもんじゃなかろうと舌なめずる。
しかし父親のコロさるること甲斐なし、「オゴッテオゴッテ」と下半身はだけて鳴き声あげる女世に憚り、一夜の過ちを犯したとて貞操のこれぽちも減るもんじゃないというのに、「スマートに奢れる男じゃないと駄目なの☆」なぞとほざくに対し、白痴の男共、女は酒代を施しさえすれば床を共できるのであるなぁと涎を垂らしつメールに勤しむ。
酔いも回った23時、「奢って」女の弊害ったらナイヨと愚痴を吐き吐き、面する男のうんざりとしつつ、そういうお前も女は酒代を奢ればこませると思っているのであろうが、我が酒代は賄うのであるから、致せぬ代わり、我が愚痴を聞くくらい何ぞ減るもんじゃなし、と3時間、丑三つ時にて酒席を離するは精算機前、「20634円でございます」との呼びかけに、財布覗くも電車でスられたか残金634円成、照れた顔して振り返るは眼前に男の拳迫る、妙齢女が酒浸し。
右目に青タン持してのたまふ、タダ程損するものはなし。

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