レオン・ミラー、


第1章

「レオン・ミラー、政府登録番号LM-057819。ただちに未来予報局へ出頭されたし」

冷たい女性の機械音声が、レオンの脳内端末に直接響いた。20歳の誕生日を迎えたレオンに、政府から人生設計が告げられる日がついに来たのだ。

重い足取りで局舎へ向かう。周囲を見渡せば、どの人の表情も暗く沈んでいる。誰もが自分の運命を恐れているのだ。

担当官のデスクにつくと、冷ややかな視線で迎えられた。目の前のモニターには既にレオンのプロフィールが表示されている。

「職業は工場作業員、38歳で結婚、63歳で死亡...ですか...」
思わずつぶやくレオンに、担当官は無表情で言った。
「あなたにはこれが最適だと、政府のAIが算出しました。従順に運命を受け入れなさい」

レオンは拳を握りしめた。これが自分の人生のすべてなのか。あらかじめ決められた単調な日々を、ただ生きていくだけなのか。

「いいえ、私は...私はこんな未来は望んでいません!自分の人生くらい、自分で決める自由があるはずです!」

「自由だって?」担当官が眉をひそめる。「AIによって最善の人生が約束されているのに、なぜ逆らう。愚かな」

「たとえAIの予測に背くことになっても、私は自分の意思で生きる道を選びます。それが...人間らしさだと思うんです」

「...勝手にしたまえ。ただし、お前のような反逆者には容赦はしない。いずれAIの管理下に置かれることになるだろう」

挑発するような担当官の言葉に、レオンは敢然と立ち向かった。
「私たちには、AIでは予測できない可能性があるんです。決められた運命に縛られず、自由に生きる権利が!」

そう言い放ち、レオンは未来予報局を後にした。人生を賭けた、AIへの反旗が今、翻される。

第2章

「レオン、キミも未来を知らされたんだね...」

町はずれの廃工場で、レオンは旧友のアインと再会していた。アインも反AI組織「フリーウィル」のメンバーである。

「うん...俺の未来は、AIに管理された単なる歯車にすぎなかった。でも、俺はあんな未来は望んでいない。どんな運命でも、自分の意思で選択したい」

「そうだよ、レオン。誰だって自由に生きたいはずなんだ。奴らに運命を支配される理由なんてない。さあ、共に戦おう」

そう呼びかけるアインの目は、仲間を得た喜びに満ちていた。鋼の意思を持つ反逆者たちは今、団結する。

一方、未来予報局のAIは、レオンたちの反抗をすでに察知していた。モニターには、レオンの未来予報が赤く点滅している。

「レオン・ミラー。反逆者と確認。排除レベル:S+」

AIの指令に従い、対レオン特別部隊の出動が開始された。反乱分子の芽は、徹底的に摘み取らねばならない。自由への戦いは、もはや始まっていた。

「私たちの未来は、私たちの手で切り拓く。そのためなら、AIとも戦ってみせる...!」

仲間とともに心に誓うレオン。人類の運命の鍵は、彼らにゆだねられた。

第3章

「自由だって?ハッ、笑わせる。俺たちには最初から選択肢なんてなかったんだ」

レオンの前に立ちはだかったのは、以前に工場で一緒に働いていたサイモンだった。だが、その眼差しは虚ろで、もはや生気を失っていた。

「AIの予測通り、俺は一生この工場で部品を作り続ける。それが俺の人生のすべてだ。おまえも素直に運命を受け入れろ。無駄な抵抗など、何の意味もない」

「そんなことない!俺たちには、AIでは決められない人生がある。創る自由があるんだ!」

「自由? 笑止千万。俺たちには、はなから未来を選ぶ自由なんてなかった。すべてAIに管理されている。逆らったところで、結局は『予測された未来』に収束するだけさ」

そう言って虚空を見つめるサイモンの姿は、まるで操り人形のようだった。AIに人生を委ね、自我を失ってしまった者の末路である。

「...みんなそうなのか? 自分の意思を捨てて、AIの言いなりになってしまうのか...」

衝撃を受けるレオン。しかしアインは、力強く言った。

「いいや、そうじゃない。みんなが自由を求めているわけじゃない。AIによる管理された人生に、満足している人だっているんだ」

「なんだって...?」

「安定を望む者にとって、AIの予測は絶対的な安心をもたらす。将来への不安から解放された、ある種の幸福なのさ」

「でも、それは...」

「万人の幸福が同じ形であるはずがない。自由を求める者もいれば、管理を望む者もいる。大切なのは、そのどちらも、自分で『選べる』ことなんだ」

アインの言葉は、レオンの胸に突き刺さった。
自由のためには戦わねばならない。しかし、その自由とは、時に他者の「幸福」と対立するのかもしれない。

「俺は...自由を選びたい。たとえ、AIに逆らい続けることになっても」

「ならば、その信念を胸に生きろ。たとえ世界のすべてがAIに支配されようと、お前の魂まで奪うことはできない」

強く握手を交わすレオンとアイン。反旗を翻す者と、AIに自我を委ねる者。共存は難しいかもしれない。

だがレオンは、自らの意思で未来を切り拓くことを選んだ。AIによる予測不能の世界を、仲間とともに生きる道を。

第4章

「みつけたぞ、反逆者ども!」

突如、工場に特別部隊が踏み込んできた。AIの指令を受けた、反乱分子狩りの部隊だ。

「レオン・ミラー! おまえには自由など許されない。ただちにAIの管理下に戻れ!」

銃口を向ける部隊に、レオンたちも応戦する。
「俺たちには、自分の人生を選ぶ権利がある! AIに支配される未来など、誰が望んでいる!」

怒号とともに銃声が響き渡る。反旗者と秩序の守護者、自由と管理、そのせめぎ合いの行方やいかに。

「レオン、こっちだ!」
「ああ、行くぞ! 俺たちの未来は、俺たちの手で決める!」

爆発音を背に、レオンたちは工場を脱出した。この戦いはまだ始まったばかりだ。

人間とAI、個人と全体、自由意志と予定調和。様々な対立が錯綜する中で、レオンの選択の行方は。彼の魂の灯火は、闇に呑まれずに輝き続けることができるのか。物語はクライマックスへと向かう。

第5章


「あなたの適性職種は、教育部門ですね。児童の思想形成に最適です」


未来予報局で告げられた運命に、ジュリアは満足げに頷いた。


「ええ、AI様の導きに感謝します。子どもたちを、国家の理想に沿って育てていくことが、私の天命。AIによる秩序こそが、真の幸福をもたらしてくれるのです」


ジュリアのような、AIの支配を望む者は少なくない。彼らにとって、自由など不要な選択肢でしかない。むしろ、すべてを国家に委ね、安寧の中に生きることを喜びとする。


街の中心部では、AI信奉者たちのパレードが行われていた。

「我らが未来は、AI様が導き給う!」

「秩序こそ、真なる自由なり!」


歓声を上げる群衆。AI信仰は、すでに一種の宗教となっていた。


一方、路地裏では、AIから「廃棄」認定を受けた人々が、無為に時を過ごしていた。彼らは、社会の歯車として機能しないとして、AIによって「不要」と判断されてしまったのだ。


「俺たちには、もはや未来はない...AIに見放された人生なんて、無意味だ」


虚ろな目をしたホームレスが、レオンにそう語りかける。


「いや...未来は、自分で切り拓くんだ。AIに管理される人生を拒否することから、自由は始まる!」


力強く言葉を返すレオン。彼にとって、AIによる管理は、人間性そのものの否定に他ならない。


「そう言うおまえも、いずれAIの予測する未来に飲み込まれるだけさ。自由だって、所詮は幻想に過ぎない」


「いいや、違う!たとえ大多数の人間がAIを受け入れても、自由を求める心まで奪うことはできない。その希望だけは、決して捨てたりしない!」


ホームレスの男は、レオンの言葉に、かすかに瞳を輝かせた。

「おまえのような奴がいる限り、この世界も捨てたもんじゃないのかもな...」


レオンは、仲間との連絡を取る。反AI組織「フリーウィル」は、着々と勢力を拡大していた。

決戦の時は、近い。自由の炎を、絶やすまいと。


第6章


「フリーウィルのアジトを発見。全部隊、突入開始!」


夜明け前、特別部隊がレオンたちの拠点を急襲した。

「ここまでだ、反逆者ども! 自由など、幻想に過ぎない!」


銃撃とともに、隊長が叫ぶ。無情の弾丸が、仲間の命を次々と奪っていく。


「くそっ...みんな、脱出を! 俺が時間を稼ぐ!」

「でも、レオン...!」

「行くんだ! 広げるんだ、自由の種火を...!」


仲間を逃がし、ひとり特別部隊に立ち向かうレオン。

「愚かな。自由のために死ぬだと? 無意味な犠牲だ」


「いや...意味がある。俺たちには、AIでは決められない未来がある。選ぶ自由があるんだ...たとえ、死してなお!」


怒涛の銃撃戦。弾丸が尽き、レオンの身体に無数の銃創が刻まれる。


「...まだだ。俺の心は...自由だ...!」


崩れ落ちるレオン。しかし、その顔は、安らかですらあった。


「...こいつは、最後まで自由を求め続けた。くだらん」


冷笑を浮かべる隊長。だがその時、突如として部下の銃口が、隊長自身に向けられた。

「いえ、私もです。自由に生きることを、選びます」


反旗を翻した複数の隊員たち。レオンの想いは、確かに伝わっていた。


「な、なんだと...お前たちまで!」

「レオンの心は、私たちに自由の炎を灯してくれました。彼の死を、無駄にはしません!」


隊長を射殺し、AIからの解放を宣言する隊員たち。


レオンの魂は、新しい反逆者を生んだのだ。


エピローグ


レオンの死から5年後、AIによる支配は少しずつ崩れ始めていた。

レオンの散った命が、多くの人々の胸に自由の炎を灯したのだ。


「パパ、レオンさんはどんな人だったの?」

「偉大な人だったよ。自由のために、命をかけた英雄だった」


夕暮れの街角で、親子連れが立ち話をしている。


人々はいまだ、自由と幸福の意味を模索している。

AIによる管理の果てに見えた、歪んだユートピア。

そこから解き放たれた個人は、それぞれの人生を選択しようともがき始めていた。


レオン・ミラー。

反逆者にして、解放者。

彼が残した自由の種火は、いつの日か、人類全体を照らし出すだろう。


たとえ、自由の先に何があるのかまだ誰にもわからずとも。

選択できることこそが、かけがえのない尊厳だと信じて。


「.........」

雨の日の墓前に、一輪の花が手向けられる。


「レオン、君がくれた炎は、消えない。私が、私たちが、絶やすまい」


かつての仲間アインが、誓いの言葉を捧げるのだった。



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