CRYAMY レビュー
「悲しいロック」
初めてこの曲を聴いた時は「やり直したい」のフレーズがBメロだと思っていて、いつサビに入るのかと思ったらそのまま「やり直したい」と言い続けて終わった。「easily」のようにラストに大サビが待っていると踏んでいたので面食らった。
それもあって「この曲にはあまりハマらないだろう」というのが第一印象だったが、気づけば何度も何度も繰り返し聴いていた。たぶん5千回くらい「やり直したい」のフレーズを耳にしたと思う。
カワノさんは弾き語りでよくこの曲の歌詞を飛ばす。その理由は「人間の脳は辛い記憶から忘れるように出来ている」と語っていた。「やり直したい」と延々と繰り返す歌詞にも表れているように、目を背けたくなるほどの過去のトラウマたちからこの曲は生まれたのかもしれない。
私も例に漏れず忘れたい記憶や、過去の選択への後悔を抱えながら日々を送っている。時を戻すことが出来たらと願い、異なる世界線に生きる自分を毎晩夢想している。それが不可能であることを理解しながら。
ただの気休めに過ぎないかもしれないが、そのような心情を持つ人が他にも大勢いるという事実だけでも幾許かの慰みになる。ひどく後ろ向きな歌詞なのに、活力をくれる歌。
「やってらんねー」
心地よいメロディーとは裏腹に、殺伐とした厭世観が漂う歌詞が魅力的。
何の暴力性も悪意もない歌詞なのに、なんだか気味が悪くて鳥肌が立つ。
暗に自○を教唆するような歌詞にもかかわらず、あまりにもメロディーが良くて何か爽やかな感じに中和されている。これだけの美メロを曲中で一度しかなぞらないのがまた潔い。
「ねぇ携帯が止まってない?」の「ねぇ携帯」が「Naked」に聞こえるような、遊び心満載の歌い方も好き。意図していなかったら恥ずかしい。
「マリア」
「生ゴミ」で始まり「死ね」で終わる物騒な歌詞だが、その意味を紐解いていくととても温かな歌だと気付く。
アプローチは異なるが、同じく#4収録の「WASTAR」と同様に、CRYAMYを愛する人たちへの感謝と覚悟を表明する曲だと思っている。
あまり耳馴染みのない「撞着」という言葉。調べると「矛盾」とほぼ同義語らしい。
ステージの上から何度も「救う」という言葉を発しておきながら、何の救いにもならなかった場合、つまり自家撞着が生じたその時は俺のことを刺してくれて構わない。そんなメッセージを込めたとカワノさんは語っていた。
自らへの戒めの言葉として何度も「死ね」と叫ぶ。恐らく世界で一番優しい意味を孕んだ「死ね」だと思う。
「世界」
「優しいあなたの正体はありふれた言葉たちだった」という歌い出しにこの曲の魅力が詰まっている。自販機の缶コーヒーや立ち並ぶ高層ビルなどのありふれた物に「あなた」を重ね、どこにでもいるような普遍的な存在だと歌う。しかしその後で、〈あなたが「世界よりも」だった〉と、「あなた」が唯一無二の何物にも代えがたい存在であると叫ぶ。一見相反するようなメッセージだが、むちゃくちゃ刺さる。
転調を挟み7分近くもある曲で、メロディーも歌詞も緻密に作り込まれているのに、サビは至ってシンプル。「あなたが」というたった4文字に全霊を込めて叫び続ける姿に心を打たれる。ジョン・フルシアンテばりに弾き狂うレイさんのギターソロもたまらない。
#3 Ver.が好きすぎて新録を受け入れられるか心配だったが、FCKE Ver.も文句なしに格好良かった。永遠に思える間奏のあと、溜めに溜めたラストのサビで感情を爆発させるCRYAMY。一本の映画を観たような充足感がある。
メジャーレーベルには到底真似できない激動の13分間。これからもわが道を突き進んでいってほしい。
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