サリー、婚約!
またまた新展開、サリーがジュディに宛てた手紙の最後で、さらっと婚約報告をしました!
ここは短い一節ながら、私が持っている2冊で随分とカラーが違うので、興味深いところです。同じ文を翻訳してもこんなに違いが出るのか、という翻訳の面白さが顕著なところだと思います。
まず、原文です。
もっと前のほうで「すごいニュースがあるからお楽しみに」と予告しておきつつ、最後の最後で「まあ、あとは私自身の話くらいしか書くこともないけど…」とさりげなさを装っておいてからの、婚約報告!
サリー、なかなか話のもっていき方が上手です。
その、さりげなさを装っている感じを出したかったので、私はあっさりめに翻訳しています。
次に、私が愛読している松本恵子版。
この翻訳を始めてから購入した、村岡花子・町田日出子版。
松本恵子版は、関係代名詞などをかなり忠実に翻訳している印象です。私はどちらかというと「語順を原文に合わせる」を優先したいので、文章を区切ったり、倒置法を使ったりしてしまうのですが、松本恵子さんの訳はそういうことがあまりありません。修飾部が長めで、たとえば私なら
「〇〇って本があったでしょう、△△さんが大学時代によく読んでた」
のように翻訳するところを
「△△さんが大学時代によく読んでた、〇〇って本があったでしょう」
と、きちんと修飾部を前に出す形で翻訳しています。本当にかっちりした英文和訳で、勉強になるなあと思いながら読んでいます。
村岡花子・町田日出子版でかなり特徴的なのは、「~ですの。」「~ですわ。」というサリーの口調です。
どちらかというと、原文に忠実というよりは、読み物としての完成度が高くなるように書かれた感じで、キャラクターが生き生きしています。舶来の少女小説を、文化として広く日本に知らしめた村岡花子ならではなのかもしれません(あとがきによれば、翻訳は村岡花子の弟子にあたる町田日出子メインで行われたものだそうですが)。
文学フリマで「あしながおじさん」を売っていたときに、来場したお客さまから
「すでに翻訳が出ているものを、なぜまた翻訳しなおすのか?」
というようなことを質問されました。
そのときは
「訳によってテイストもかなり変わると思うので、自分の好きな言葉で翻訳してみたらまた違うかと思って…」
のようにお返事したのですが、いまになると、こうして比較したものを
「ね! ね! 違うでしょ!」
とお見せしたい気持ちです。
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