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閑話

そこにあったであろうドラマを想像する1


「あしながおじさん」を読んだ方はご存知のとおり、あの話は、孤児院育ちの主人公ジュディが自分の出自を隠して大学へ進学するという内容です。
世界名作劇場で放送されていたアニメの「私のあしながおじさん」では、卒業式でスピーチをすることになったジュディが、予定されていた原稿を使わずに自分の言葉で話しはじめ、同級生や父兄の前で
「自分は孤児であり、孤児院で育った」
と告白するのが、ラストの大きな山場でした。

が、これはアニメオリジナル。
小説では、割とあっさり大学を卒業して、卒業後にあしながおじさんの正体を知るような出来事があり…という流れ。「Dear Enemy」は、明言はされていませんがその数年後の出来事です。

「Dear Enemy」の中で、サリーは、自分がまかされることになったジョン・グリア孤児院が、ジュディの育った場所であることを知っています。
冒頭を読むと、すでにジョン・グリア孤児院がどういう場所かをサリーが把握している、という前提で話が始まっています。
つまり、正編と続編の間にあるミッシング・数年間に、どういう文脈でかはわからないけども、ジュディがサリーに自分の出自を告白する、という一大ドラマがあったはずなのです。

契機があったとすれば、ジュディとペンデルトンさんとの結婚が決まったタイミングかなあと思うのですが、ジュディはサリーに心を開いているからこそ、わざわざ本当のことを話しておきたかったんだろうな、と想像するのです。
そしてサリーも、ジュディに対して幻滅するとかではなく、きっと
「じゃあ、いろいろと大変だったでしょう」
という態度で接したんだろう、と、「Dear Enemy」をここまで翻訳していて思いました。サリーはそういう子でしょう。だからこそジュディも、ずっと隠していた出自のことをサリーには打ち明けたんじゃないのかな。


そこにあったであろうドラマを想像する2


最初はどうなることかと心配だった悪ガキいたずらな坊やのパンチくんが、親切な個人宅に預けられることが決まったくだりは、一読者としてほっとします。
が、パンチくんをあずかってくれた女性お二人って…いったいどういう素性の人たちなんでしょうね?

原文では、この二人を「two charming spinsters」と表現していて、spinsterは、いわゆる「オールドミス」、結婚適齢期(死語ですね…)を過ぎて結婚していない女性のことだそうです。当時の結婚適齢期が20代中盤くらいとして、20代後半でも50代でも「spinster」にあたるわけですから、お二人の年齢については謎です。
ともかく、結婚していない女性の二人組で、立派なお屋敷に二人で楽しく住んでいて、生活は割と裕福。姉妹だったら「sisters」って書くだろうと思うので、友だち同士なのか親戚どうしなのか…ちょっと不思議なお二人です。

サリーは、人を見る際には割とクールなところがあって、「この人にはこういう良い部分があるけど、この点はちょっとだめ」みたいに、欠点は欠点としてしっかりとらえるタイプ。
そのサリーが、この二人についてはポジティブなことしか言っていなくて、思いきりのよさやユーモアのセンスをすごく評価していることがうかがえます。かなり気に入ったみたい。
このお二人の話だけでも相当なドラマでしょうし、さらにパンチくんとの暮らしも相当面白いことになっているんだろうな、と、これまた想像がふくらみます。

そしてアレグラ! アレグラと2人のお兄ちゃんたちの話は、翻訳していて自分で泣いています(自給自足)。
話が進むにつれて、新しいキャラクターの登場とともに新しいドラマが生まれて、本当にこの本は興味深いと、翻訳して改めて思います。そういう点では、まだ読んだことがなくてこれから読み進めていく方が羨ましい気もしますね。先を知っているからこそ、「ふふふ、この先は…」とニヤニヤする楽しみもありますが。

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