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レポ本同人誌制作記録

雑誌風のロケ地旅行レポ本(俗に言う聖地巡礼本)同人誌を発行しました。

前編は神奈川県、
後編では福島県をめぐる二部構成。

同人誌で主流なカテゴリといえば漫画・小説・イラスト集に大別されます。
でもこのメイン形態にとらわれず、もっと自由に、自分の好き!を詰めた形のものを作ってもいいのでは…!? 現にコミケの評論島とかすごく自由にいろんな本があるし…!と思ったのが本書を作るきっかけのひとつでした。

今回は本の制作を振り返ります。


表紙

表紙はCASAやTRANSITのような旅行本を意識して、背景あり&白ベタに黒文字で構成。
こだわりポイントはもっとあるのですが…詳細は表紙デザイン振り返りまとめの際に綴る予定なので今回は割愛します。

印刷所

いつも贔屓にしているのは大陽出版なのですが、標準のセットでは無線綴じ製本しかできません。
(推測ですがおそらく自社に中綴じ製本の機械が無く外注に出してるので、使えるセットを限定して受注数をふるいにかけてる&追加納期&有料になってるんだと思います)
今回は雑誌風&見開きページを見やすくしたかったので中綴じにしたく、中綴じにしたいがためだけに値段跳ね上がるのは…なんか…もったいない気がしてヤダ!!
ということで、標準装備の値段据え置きで中綴じが選べる印刷所を探して、最終的に白羽の矢を立てたのがブロスでした。特殊装丁を凝りたいときに真価を発揮する会社なので中綴じのためだけに使っても……とは思うのですが、まぁ今後もお世話になることあるやろ…と決めました。

・参考・
基本セット(表紙カラー・本文モノクロで特殊装丁なし)で中綴じ製本ができる印刷所
意外と少ない!

栄光
さすが最大手クラス、当然できる。個人的な事情により栄光は避けたいのでナシ。

booknext
栄光の子会社。選べるオプションが少ないぶんお値段が控えめだったので、中綴じさえできりゃ他はシンプルでええんじゃ!というときにぴったり。ブロスより安い。栄光グループなので今回はナシ。

しまや出版
よそよりややお高め。でも対応が丁寧と評判が良い。

2024年春時点の記録です。全てを調べたわけではないので、他にもできる会社はあると思います


参考にするもの

フリーマガジンやウェブカタログ
・フェリシモ
・ことりっぷ(脱稿間近ぐらいで存在を思い出した。のであまりちゃんと参考にできなかった……)

雑誌
Webや電子書籍だけでも見れますが、印刷実寸のサイズ感を掴むためにひとつは現物の資料があったほうがいいです。

デザインの傾向
↑ミニマム
CASA
POPEYE
TRANSIT
装苑
SAVY
↓装飾・遊び心多め
SAVYはたぶん関西にしかない……地方誌は大手じゃないからこそ自由度の高いデザインだったりするので、書店に行ってコレだ!というものを探してみてください。

デパートの催事カタログ
クリスマスケーキ、バレンタインはかわいい。なまじフルカラー多ページの印刷コストを知ってると無料配布でこのクオリティ…!?ってなる。

文字のサイズ別見本
雑誌と併用して、◯ptならこのぐらいか……とわかる。イベント会場にある印刷所の出展ブースで買いました。


実制作

デザインについて考えるスペースでもゴリ押ししてたことですが、コンセプトを決めることが第一です。

コンセプト決めの際、ホントは自分の好みを突っ走るのではなく、手に取ってもらう人のことを第一に考え工夫する必要があります。……が、今回は仕事や依頼ではなく自分の本なのであまり考慮しません。
でもコンセプトが決められない…という時は客観的視点に立ってみると、目指すべき軸が見えてくる…!気がします!

資料を参考にするときも、ビジュアルを見ていい感じのものを取捨選択するのではなく、「この特集ページはどういうコンセプトか?それによりデザイナーはどういう意図でこのような表現にしたのか?」を考えて、デザイナーの思考→出力のプロセスを汲み取ります。

イラスト本ならではの工夫

どうしても風景がメインになるのですが、それだと一般の観光誌と変わらなくなる……でも人物が被写体で背景を背景としか扱わないのも敬意に欠けるよなぁ……という苦悩があり、できるだけ偏りが出ないようバランスには気を遣いました。

ビジュアル構成面での心得はとにかく「ストレスがないこと」。
読むものは小さすぎても大きすぎても疲れる。そしてテキストはあくまで情報伝達補助あるいは装飾代わりであり、極力イラストだけで興味を惹かれるような楽しさが伝わるように意識して作ります。
装飾として文字を使う時、日本語だと「目につくと読んでしまう」ことで余計なノイズとなり疲れるので、欧文にすることでわざと目を滑らせ、パッと見では頭に入らないようにしています。

フォント

仕事ならモリサワやadobeを使えるんですが、自宅の個人PCにはないので……OS搭載フォントと、フリーフォントなど手の届きやすいフォントでどうにかしました。
フリーフォントは「商用利用OKかどうか」はチェックが必要です。
特に海外のサイトはフリーと称して無断配布だったり権利関係があやふやな怪しいサイトが氾濫してるので、テキトーに検索で出てきたとこじゃなく、信用できるサイトのみを使うようにしています。
(フリーフォントとかフリー素材って「料金がフリー(タダ)」なのか「権利フリー」なのかごっちゃになって紛らわしい……)

・Google Fonts

・photoshopVIP

・コリス

・フォントフリー


クリスタはフォント一覧でプレビューが表示されないのですげ〜探しづらい……
Fontbookを見ながらよく使うものを抜粋し、グループごとに分類しました。

・今回よく使ったフォント・

本文(ゴシック)……游ゴシック体normal 
オシャレ雑誌ではモリサワの中ゴシックBBB、こぶりなゴシックあたりがメジャー?

本文(明朝)……ヒラギノ明朝W4

ちょっとした見出し……游ゴシック体bold
モリサワなら見出ゴMB31、太ゴB101とかをよく使います

メインの本文サイズは7pt。最初6ptにしてたページもあったんですが、原寸コピーで見るとちょっと小さかったし全ページで統一したほうがええな……と気づいて修正しました。
画像キャプションなどサブ本文は6ptです。
また余白があるからってデカくするとマヌケな印象になるので、本文はせいぜい14pt以下ぐらいがいいかな……と思います。

マージン

断ち落としから15mm~20mmは文字を置かない余白を取ります。わざと見切れてる装飾的な文字以外は絶対ルールとして遵守。

グレーを活用

普段の漫画ではモノクロ2階調しか作らないのですが、今回は表現の幅を広げるためグレースケールも併用しました。

グレースケールならグレーの上に白抜き文字を使える

ただし濃度は10〜20%ほど、濃くてもせいぜい40%以下に、控えめに。
広い面積の塗りつぶしは黒100%もしくはカラーでの濃色だと引き締まっていいんですが、濃いグレーはベタっと垢抜けない印象になるので好きじゃないです。ゴスロリ系とか、重めテイストを狙ったデザインにしたいときはアリかも。


角版と切り抜き

バックグラウンドも含めて見せたいときには角版、被写体のみに絞って注目させたいときは切り抜き……と使い分けると効果的です。
ビジュアル面でもメリハリが出ます。

漫画

文章がヘタなので、漫画のほうが伝えやすいときは漫画にしました。

カスのエピソード


ブラッシュアップ

いったん完成させて目処がついたら、コピー出力して赤ペン校正をしました。
紙で見ると字の読みやすさや絵のアラはもちろん、特に余白の取り方のチェックが画面で見るだけより段違いに分かりやすいです。

コピー出力は「一括書き出し」→「pdf」で書き出したデータをUSBメモリに入れてコンビニコピーに持って行きました。ちょっとしたペーパー程度ならネットプリントを使うけど、さすがに本のデータは容量10MBを超えるので物理デバイスしか使えず……

出力紙での校正、漫画でもやったほうがいい……しかしさすがにコンビニでR18原稿を出力するほどの肝っ玉はない。自宅用モノクロレーザープリンター買おうかな…
そして当たり前ですが、他人に見てもらうと精度が上がります。今回は一人でセルフチェックのみ。

実際の紙面がコチラ。

どういうわけか綴じ方向が左右逆で出力されたのですげー見づらかった…
赤ペンを油性マッキーしか持ってなかったけど、裏透けしてしまうので、両面コピーの出力紙に書き込むときはボールペンがいいですね…

「作者不詳」「作者不明」どっちも言うけど何が違うんだ?とふと疑問が浮かんだので調べたら、
「不詳」は「ヒントがあるっちゃあるし本腰入れて調べたら判明しそうだけど、今はちょっとよくわからん」
「不明」は「もう知るよしが無いぐらいマジでわからん」というニュアンスの違いがあるとのこと。
知らなかったそんなの……

「ここ空気イスなのどうにかならんか?」
どうにもなりませんでした

そのほか句読点やルビを追加したり、理解しやすい文になるよう推敲して読みやすく。

大幅に文章を変えた例。
でもこれは文末が体言止めばっかりになってあまりよくない…

余白の取り方がおかしいところを調整。
例えばこれはケーキ皿が下のテキストにスレスレすぎたので、数ミリ上に移動させました。
こういうレイアウト調整は描き終わってから修正するのは大変なので下がきの時点でちゃんとしておくべきなのですが……完成してからでないと気付けないポイントがあったりする……


そんなこんなで全36ページ、チェックするだけで2時間近くかかりました。はたしてこの本を2時間かけて読んでくれた人はいるのか……?
ほとんどのページに赤入れ箇所がありました。だいたいは誤字・表記揺れです。

そしてそこまでしてもしぶとく生き残ったミスがコチラ。

いつのまにか地図上で家の位置がズレてました……

いやデケェ!!
仕事でやったらカミナリ級のミス!!!!
不意にレイヤー移動ツールで触ったんですかね。
見本誌が届いてからも読み返したのに、イベント後に見てやっと気づいた……。やっぱり時間や精神的に追い込まれているときのチェックはザルすぎる。

ほか反省点

中綴じとはいえ極力ノドの近くに文字を置かない

無線綴じほど致命的に読めないことはないが、やはり見づらい。10ミリ空けたのですがそれでもキツい。ノドも他のマージン同様20ミリは余裕があるといい気がします。

中綴じ多ページは本が膨らむ

表紙にPP貼りしたので?余計に膨らんだ。自宅に1冊だけ届いた見本誌がものっすごい膨らんでた。会場に段ボールで届いた分は詰め込み&重みでいい感じにペチャンコだったのでマシかも。

クリープ処理
中綴じ製本ならではの厄介ポイントのひとつに、クリープ処理というのがあります。
小口断裁のズレを考慮して、面付け位置を微調整する……みたいなひと手間かかる処理のことです。説明がややこしいので投げます。

こいつのことを完全に失念していました。
入稿用データを書き出ししてる途中ぐらいで思い出したのですが、もう時間ないし…なんかあったら印刷所でどうにかしてくれるっしょ♪ と考えるのをやめました。
ほとんどの印刷所でデータ作成注意事項ページに記載してないのでおそらくほとんど影響はなく、我々が気にする必要はないと思います。

完成品を見ても、おそらくクリープ処理はされてません。

内側のページほど小口カットが大きくなるので、ノンブルのマージンがやや狭くなっています。誤差の範囲で気になりませんが、完璧に揃えたいならデータの時点であえてズラしておく必要があります。

特に大きな問題はなかったのでよかったです。
おそらく影響が出たであろう箇所は、いちばん内側の、見開きで地図を載せたページ。

新幹線ッ…!ちょっと切れてる…!

でもこれは私がデータ作成の時点で、ノド側の塗り足し(切れるかもしれない箇所)を考慮せず見開きを見たまんま作ったのだけが原因だと思います。

〜結論〜
雑誌風にしたい・見開きで見せたいページがある…など特別な理由がなければ、わざわざ中綴じを選ぶメリットはない。

ノンブルは手作業で振らない
いつもと違ってオシャレノンブルだからと、なぜかコピペ→打ち替え……と作業したのですが、
よっぽど凝ってないかぎり、手作業で振るメリットは無いです。そりゃそうだ。なんで手作業でやっちゃったんだろ。
振り間違いはもちろん、ノンブルのサイズやフォントを変えたいな〜ってときも一括変更できず全て手作業で修正するハメになります。

文章力を磨く
もはやデザインの話ではない。


以上です。

漫画と違って、デザインや文章を考えなければいけなかったので脳みそのいつもと違う部分をフル稼働させることとなり大変でしたが、自分の趣味100%で制作できて楽しかったです!

絵を描ける方がSNSで「私も同人誌を出してみたい…でも漫画描いたことないから出せない……」みたいなことを呟いてるのをよく見かけます。

べつに漫画じゃなくてもよくない?!

イラスト集といえばフルカラーが主流ですが、私は過去にモノクロのイラスト集を出したこともあります。フルカラーで何枚も描くのが大変なら、モノクロでもいいのです。
解釈について論じた本や、推しカプ萌え語りツイートまとめ本などなら、絵が描けないし物語も思いつかないから小説も書けない…という方でも作れます。

自由な同人誌作りを楽しみましょう。




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