GO!GO!式部【第2話 おいらかに、おいらかに】
2学期になった。「おいらかな人」として再デビュー。そう自分に言い聞かせながら、中学校にカムバックした。
久しぶりに戻ってきた中学校は、やはり居心地は悪かった。二年生だから、一年生のときのメンバーはバラバラになって別のクラスにいたから、なんだか転校生のような気分だった。
「式部さん、式部さん。」
昼休みに、ぼーっと窓の外を見ていたら、女子生徒が話しかけてきた。
「式部さん、これ!ファンクラブ会員特典のキーホルダーだよね?ON!Yの!」
「あぁ、そう。ON!Yの!Love!yなの?えーっと・・・」
「藤川、私は藤川遥。よろしくね!そう!わたしもLove!yだよ!」
「藤川さん、よろしく。」
「名前で呼んで!遥って呼んでよ!私もゆかりって呼びたい!このクラスにON!Y好きな子いたなんて嬉しい!」
「ありがとう、遥って呼ぶね。1学期、学校来てないから緊張しちゃって。」
「そうだよね、いきなり話しかけてびっくりさせちゃった!」
「話しかけてくれてありがとう。遥はON!Yでは誰ペンなの?」
「ヒョンジュンのペンだよ!8月のライブも行ったんだー!」
「わー!わたしも行ったよー!」
「ほんとに!一緒だねー!次、ライブあったら一緒に参戦できたらいいな!」
「うん!そうだね!そうしよ!」
ON!Yのおかげで、初日から友達ができた。「推し」がいるという共通点があるだけで、こんなに心をすぐに開いてくれるんだ!
遥とはON!Yの話題が尽きず、すぐに仲良くなった。
遥は、ON!Yの中でもツンデレキャラで人気なヒョンジュンのファンだ。ヒョンジュンはネコ好きで、保護ネコを飼っている。遥も保護ネコを飼っていて、家に遊びに行った時はネコ達とも遊べて楽しかった。
「ヒョンジュンは、ツンデレだけど、毎年クリスマスに動物の保護団体に寄付してる優しいアイドルなんだよ。まじ尊敬する。」
これが、遥の口癖だった。遥と話していると、ヒョンジュンの良さを更に詳しく知ることができて楽しかった。推しのメンバー以外のことを知るのも楽しい。こうやって、全メンバーの良さを知って「箱推し」になるんだろうなと、思った。
「遥が好きなヒョンジュンのエピソードもっと教えて!おすすめの曲も知りたい!」
私は遥に沢山質問をした。話題はいつもON!Yの話だったが、それを通して遥の優しい性格も分かってきて、なおさら話すのが楽しかった。
遥のおかげもあり、私は毎日学校に行くことができるようになった。一年生の頃、同じクラスだったメンバーは相変わらず、廊下で会っても私を無視したが、私はもう気にしなかった。
親友だった奈子ちゃんは、隣のクラスだったけれど、全然話す機会も無かった。奈子ちゃんはダンス部に入り、明るく活発な子になっていた。噂で、三年の先輩と付き合っていると聞いたが、知らない人の話みたいだった。
前世で、宮中で宮仕えをしていた頃も、女房同士で派閥があったり、ヒエラルキーが存在していた。
正直、いじめの形としては、平安時代のほうがひどかった。悪口や噂話では飽き足らず、嫌いな人が通る廊下にうんちを撒いたり、通路を閉めて立ち往生させたり幼稚な「あやしきわざ」をした。
一方、今の時代のいじめは目には見えにくい。私の場合には、グループチャットがきっかけだったし、大人にも相談出来なかった。形は違っても、どの時代にも、いじめはあるのかもしれない。
ただ、今は令和だ。身分の差別も無く、男女関係なく自由に勉強をしても良い。女のくせに漢文を学ぶななんて、誰も言わない。好きな音楽も聞けるし、服装だって制限はない。
いじめに負けたくないと思った。
遥と仲良くなったのをきっかけに、私は少しずつクラスになじんでいった。
特に、美術室の清掃当番メンバーとは仲良くなった。メンバーは、私と遥、そして愛香、舞の4人だ。
私と遥はON!Yのファンで、愛香は日本の5人組バンドのファン、舞はいわゆる腐女子でBL漫画が好きで、絵も上手だ。
それぞれに推しがいるので、私たちは毎日掃除そっちのけで、自分達の推しをプレゼンしてはゲラゲラ笑っていた。
この4人で話をする時にも、私は「おいらか」に話すように気をつけるようにした。つい自分の推しは一番だと言いそうになるのを抑えて、みんなの話を聞くと案外楽しかった。
バンドのファン達の暗黙のルールやライブでのノリ方とKPOPのライブの違いを知るのも楽しかったし、舞はみんなの推しのイラストを描いてくれたりした。
おいらかに、おいらかに、自分にそう言い聞かせて学校生活を送っていたら、気付けばもう12月になっていた。
クリスマスは4人で遥の家でパーティをした。お互いの推しのDVDや、マンガを持ってきて、それを見ながらチキンとケーキを食べた。そして、最後にプレゼントをそれぞれ交換し合った。
遥には、トレカホルダー、愛香にはチェキホルダー、舞には漫画のキャラクターのミニフィギュアをあげた。私も3人から色々とプレゼントをもらったが、遥からのプレゼントが目にとまった。
CDだ。しかも、ファンクラブ限定発売のON!YのCDだ。発売してから15分で完売したから私は買えなかったやつだ!
「ややっ!遥!これどうやって買えたの?!」
「こういうのは、発売時刻をチェックして買うの!授業中だったから、私は先生にトイレに行きますって行って、ケータイ持ってちょうどの時刻にアクセスして買えたってわけ!」
「天才!!いいの?!本当にありがとう!」
「うん、どういたしまして!これさ、握手会の抽選コード入ってるの。私ははずれちゃったけど、ゆかりも応募してみなよ!」
「握手会?!握手会ってそんな!当たる確率なんてわずかでしょ?!」
「そうだけど、応募しなきゃ当たらないんだから、とりあえずシリアルコード入力してみてよ!」
「うーん、わかった。」
「楽しみだね!当たりますように!」
愛香が言った。
「当たりますようにー!オタクの神さまー!」
舞も手をすりすりして祈っている。私は意を決して、シリアルコードを入力した。すぐにサイトの画面が切り替わった。
赤い文字が画面に見えた。
「選択したメンバー: Ken−G 当選 」
「・・・・・・。」
ケータイの画面の文字が一瞬理解出来なかった。
「え?」
4人で私のケータイ画面を五秒ほど見つめた。
画面には、赤文字で当選と書いてある。
「あなやーーーーーー!!!!!」
思わず、古語で叫んだ。
「ゆかり、どうしたの?!!あなやって何?!!」
遥が尋ねた。
「あなやは、びっくりした時に言う言葉!それはどうでも良くて!あ、あ、あ、当たった!!」
「えーーーーーーーー!!!!!」
『当たったーーーーー!!!!!』
4人で声を揃えて叫んだ。
当たった。当たってしまった。
私はKen−Gに会えるんだ!
あなや!!!
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