梅毒

この記事では、梅毒について説明しています。

梅毒が急増しています

ご存知の方も多いと思いますが、ここ数年梅毒が急増しています (実は日本だけではなく、世界的にも増えていて問題になっています)。

図1

急に増えた原因については、色んな人が色んなことを言っていますが、本当の原因が何なのかはよく分かっていません。というのも、増え始めた時点できちんとした調査が行われなかったんですね。なので今後も原因は分からないままだと思われます。

この後は梅毒という病気について、具体的に説明していきます。

そもそも梅毒とは

梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)という菌が原因で起こる感染症です。性行為で感染することがほとんどなのですが、他に妊婦さんから赤ん坊へ感染することもあります(今の日本でも、少ないですが報告があります)。それ以外での感染は、少なくとも今の日本ではほとんど無いと考えてよいでしょう。

感染後半年以内は目立つ症状が出やすいのですが、その後は症状が無い状態が長く続きます(数年〜数十年)。症状は無いのですが、治療しないで放っていると、後で重症になって後遺症が残ったり、命にかかわることもあります。梅毒も早期発見、早期治療が大切です。

1期梅毒(感染後3ヶ月以内)

梅毒トレポネーマに感染してから数日〜3ヶ月の間に、最初の症状が出てきます。この時期を1期梅毒と呼びます。

具体的には、梅毒の菌が侵入した場所の皮膚や粘膜にしこりや潰瘍ができます。できる場所は性器が一番多いですが、のどや肛門・直腸にもできます。しこりは結構硬いのですが、時間が経つと潰れて潰瘍になっていきます。

梅毒のしこりや潰瘍は痛みがないことが多くて、特に外から見えない場所(膣内、直腸、のど)にできた場合は気付かれないことが多いです。

ただ、痛みがないことが多いのですが、よく聞いてみると3〜4割の方は痛みや痒みを感じています(ただし比較的軽いことが多いです。激痛、という方はほとんどいません)。なので、「痛みがあるから梅毒ではない」と考えてしまうと、見落としてしまう可能性があります。

また、しこりや潰瘍の近くのリンパ節が腫れることも多いです(この腫れは痛みがないことが多いです)。具体的には足の付け根や首周りのリンパ節が腫れやすいです。

この時期の症状は、治療しなくても1ヶ月前後で自然に消えてしまいます。ただし症状が消えても病気が治ったわけではないので、治療しなければ進行していきます。

男性は見て気付きやすい場所に症状が出ることが多いので、1期の時点で診断されるケースが一番多いです。一方で女性や、肛門・直腸から感染した方は、見えにくい場所に症状が出ることが多いため、1期で診断されることは少ないです(後で出てきますが、2期や無症候期に診断されることが多いです)。

この時期は、感染していても血液検査の結果が陰性になることがあります。そのため、感染の心当たりから3ヶ月以内に検査をした場合は、念の為3ヶ月以上経ってからもう一度検査を受けた方が良いです(それまでは、梅毒感染を完全には否定できません)。

2期梅毒(感染後6ヶ月以内)

1期梅毒の症状が消えて、しばらくすると2期梅毒の症状が出てきます。
(※ただし多くはないですが、1期梅毒の症状が消える前に2期梅毒の症状が出てくることもあります)。

1期梅毒の症状は菌が侵入した場所にできるのですが、2期梅毒の症状はそれ以外の場所にも出てきます。一番多いのは皮膚の発疹です。

赤い斑点、いわゆるバラ疹が有名ですが、梅毒の皮疹はこれ以外にも色々なパターンたあります。

他の病気と間違えられることもあり、「皮膚科で他の病気と診断されて治療したけど良くならない → 梅毒の検査をしてみたら陽性だった」ということも時々あります。

また、「手のひら」や「足の裏」の皮疹が有名ですが、これらの場所に出ないこともよくありますし、逆にこういう場所に皮疹があっても梅毒とは限りません。

皮疹の他に、脱毛や発熱、だるさ、咽頭炎、全身のリンパ節の腫れなども2期梅毒で出てくることがあります。

このように2期梅毒の症状は種類が多いのですが、この時期の症状も、治療しなくても自然に消えていきます。でもやっぱり、治ったわけではないのです。治療しなければ進行していきます。

ちなみに男性は1期で診断されることが多いと書きましたが、女性や、直腸・肛門から感染したケースはこの2期と、症状が無い時期に梅毒と診断されることが多いです。

尚、2期梅毒まで進行すると、血液検査は確実に陽性になるとされています。

3期梅毒

2期梅毒の症状が消えた後は、症状が無い時期が長く続くことが多いです。この期間はかなり個人差があります(数年から数十年)。

その後、皮膚や内臓、大動脈に病変が出てくることがあり、この時期を3期梅毒と呼びます。

今は抗生物質で治療できるので、梅毒がここまで進行することは少ないです。ただし、完全にゼロになったわけではなく、毎年数十件報告されています。

無症候梅毒

梅毒に感染していて、症状が無い時期をまとめてこう呼びます。

上でも書いたように、女性や、肛門・直腸から感染した場合は、2期と、この無症候期に診断されることが多いです。

梅毒の検査と診断

梅毒は、診察と血液検査で診断することが多いです。潰瘍などに菌がいるかどうかを調べる検査法もあるのですが、行なっている病院はとても少ないです。ただ、通常は診察と血液検査で問題なく診断できます。

血液検査には大きく分けて2種類あります。一つはTP検査と呼ばれ、TPHA、TPLA、TP抗体などいくつか種類があります。細かい違いはありますが、調べているものは同じです。

もう一つは非TP検査で、STSとかRPRという名前がついています。これも細かい違いを気にする必要はありません。

TP検査

TPHA、TPLA、TP抗体などのTP検査は、梅毒以外で陽性になりにくいのが特長です。ただしあくまで「なりにくい」だけで、非常に少ないですが梅毒以外で陽性になることがあります(私も遭遇したことがあります)。

短所としては、一度陽性になると基本的には一生陽性のままです。そのため、梅毒を治療した後、治ったかどうかを判断する基準には使えません。また、過去に梅毒に感染したことがある人が、再び梅毒に感染したかどうかを調べる時にも使えません(新しく感染していなくても陽性になってしまうため)。これらを調べたい場合には、STSやRPRなどの非TP検査を行います。

尚、TP検査には結果が30分くらいで出る検査キットがあります。梅毒の「即日検査」という場合には、この検査を指していることが多いです。

非TP検査

STS、RPRなどと呼ばれますが、RPRがほとんどだと思います。

非TP検査の特徴はTP検査の逆です。つまり、梅毒が治ったかどうかや、再び梅毒に感染したかどうかを判断する基準として使えます。そして短所としては、梅毒以外で陽性になる確率がTP検査よりも高いです(そうはいってもかなり少ないですけど)。

以前は梅毒に感染するとまず非TP検査(STS、RPR)が陽性になり、その後遅れてTP検査が陽性になると言われていましたが、今は検査技術が進歩したのでそういう時間差は無くなりました。今では逆にTP検査の方が先に陽性になることも少なくありません。

梅毒の治療

梅毒の治療には抗生物質を使います。海外ではペニシリンの筋肉注射が一般的で、1期や2期であれば1回注射して治療は終了なのですが、日本ではペニシリンの筋肉注射が使えないので、その代わりとしてペニシリン系抗生物質の飲み薬を使用します(こんなことしているのは世界中で日本ぐらいです)。

治療期間(薬を飲み続ける期間)は、1期が2〜4週間、2期が4〜8週間とされていますが、4週間が一番多いように思います。

その後は、定期的に血液検査を行います。上で書いたように、梅毒が治ったかどうかはRPR(またはSTS)の数字を見て判断します。この数字が下がって基準を下回ったら、治ったと判断します。

いつ梅毒に感染したか

これはよく質問されるのですが、梅毒に感染した時期は、医学的には大まかにしか分かりません。

具体的には、1期梅毒の場合は、症状が出た時点からさかのぼって3ヶ月以内に感染したと考えます。そして、2期梅毒の場合は、2期の症状が出た時点からさかのぼって6ヶ月以内に感染したと考えます。

これ以上、医学的に感染時期を絞り込むことは難しいです。血液検査の数値は個人差が大きいので、この数値から感染時期を推測することもできません。

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