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Aqua Garden デザイナーズノート

はじめに

私がボードゲーム製作アカウントとしてTwitterを開始したのが2018年10月。そして2019年の頭からうちばこやさんとはTwitter上でやり取りはしていました。
ただその時はまだ直接的にお話ししたり連絡を取り合ったりはしていませんでした。
私はいつものことながらボードゲームに関して呟く、そうするとうちばこやさんはすぐに参考になるような既存ゲームを教えていただける。そういったやり取りを何度も続けていました。
「この方は色んなゲームを知ってるんだな」と思ったのを覚えています。
また、ボードゲームに関する様々な販売をしているのを存じていました。それをやや遠くから見ていた気がします。遠くからというより、共同で何かをするイメージは当時全くありませんでした。

そして2019年末に、うちばこやさんから突然DMが来ます。
「戸塚さんからはいいオーラが出てます。僕と一緒にボードゲームを作りませんか」と。

その後
「こういったものが作れます」
と写真で送っていただいたのがプリント木駒でした。
今まで木駒にシールを貼る、単色プリントをする。というやり方はいくつか知っていたものの「木駒自体に複数色プリントする」というやり方を知ったのはその時が初めてでした。

海外のゲームであればフィギュアが非常に目立っていますし、キューブやディスク等の木製コンポーネントも広く使われています。そして私もいつもこれらのコンポーネントに心を躍らせています。
ですが、同時にこれらの立体コンポーネントに関して既存のゲームに無い特色を出すにはどうしたら良いかをずっと考えていました。
「木駒にシールを貼る」がイメージとして最も近かったのですが、コストやユーザーの手間、操作性を考えると現実的でなく単なる妄想の域を出ず頓挫していました。

うちばこやさんの木駒プリントはそれら全てを解決する新しいコンポーネントだと感じていました。

企画

「この木駒を使ったオリジナルのゲームを作りましょう。ただし常に一番大事なのはゲームの内容です」
という提案を受け、まず最初に行ったのはうちばこやさんと共に木駒プリントの特徴と長所を挙げることでした。

この時から同時に2つのゲームの製作がスタートします。

その一つは既に発売されている「The arctic」です。
アブストラクトチックなゲームでありながら、木駒プリントのおかげでフレーバーや世界観を可愛く表現出来ていると思います。
また「摘んで動かす」という非常に原始的(プリミティブ)な快感を得やすいことからも、チェスのようなゲームにしようというコンセプトが根底にありました。
もちろんルール上も特徴を出すため「移動カードは開始前にドラフトする」というシステムを盛り込んでいます。実はカードドラフト+アブストラクトというルール周りに関してはもっと前から雛形は完成しており、それをうちばこやさんに見せてからブラッシュアップした形となっています。

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そしてもう一つのゲームがAqua Garden です。
「木駒で作る箱庭ゲーム」
これが、うちばこやさんから提示された企画案でした。

ゲームデザイン

基本的なテストは全てテーブルトップシミュレーター(TTS)上で行っていました。
週に1、2回。夜21:30からテストと決めています。毎回3〜5時間くらいやっていたでしょうか。
折しも新型コロナのために、テストプレイ会が激減していました。もちろんそれ以前に鹿児島にいるうちばこやさんとは物理的な距離がありましたから、直接お会いしてテストするのは現実的では無かったのですが、当時の状況を考えるにTTSは非常に役に立ったと思います。データをある程度作成してうちばこやさんに送ると、すぐにTTSでテストできる状態にしていただけたため、本当に助かりました。それは今(2020年12月)でも継続中です。

Aqua Garden のデザインを行う際、うちばこやさんとの相談の上で「ここは外さないようにしよう」という点をいくつか挙げていきました。

・インタラクションはゼロにしない
・ただし箱庭製作は邪魔されない
・初回プレイでも満足度の高い箱庭を作れる
・その上で上達度合(次はもっと上手くやろう)をはっきりと感じられるようにしよう
・“プレイヤーの記憶と写真に残って欲しい“

また「プリント木駒を100個は使いましょう」「テーマは、僕が好きなので水族館にしましょう」とのうちばこやさんからの提案がありました。
プリント木駒100個を使った水族館のゲーム。これだけでワクワクしませんか。私は勝手にワクワクしていました。

現在、国内に多くのボードゲーム製作者がいます。その製作方法は千差万別でしょう。
私個人としては企画やコンセプトに沿って製作するのは嫌いでなく、むしろ得意な方だと思っています。自分が持ってる引き出しの中からコンセプトに沿ったシステムを組み上げ、また組み上がった中に自分が考えるオリジナリティを追加するというのが基本的な製作方法です。
なので自分が企画しても他の方が企画してもあまり差が出ないのが自分の強みだと思っています。
うちばこやさんから企画が提示された時にも、引き出しの中にあるシステムでまず組み上げてテストに臨みました。

水族館テーマの箱庭ゲーム。
なので、個人ボード上にいくつかの水槽を用意し魚を並べる。魚は配置に制限がある。勝利点はセットコレクション風にする。
これらはそれほど難なく組み上がりました(もちろん数値調整はこの後めちゃくちゃに苦労しました)

問題は程よいインタラクションとジレンマのある木駒の獲得方法です。
アズール方式、様々なドラフト、宝石の煌めきのような買い物等々、自分の引き出しの中からいくつもシステムを出して組み上げてテストを行いましたがどれもしっくり来ません。
「個人ボードに並べる方は良いけど、獲得方法はダメですね」とうちばこやさんからハッキリ言われたのを覚えています。ただ同時に「方向性は絶対に悪くないと思います。いくらでも付き合うので、根気よくいきましょう」とも言っていただきました。

その時に立ちはだかっていた壁は以下の通りです。
・初回プレイで上手く行かずに水族館に魚が少ししかいないという事態は避けたい
・「木駒を自分の箱庭に並べる」が根幹なのだから出来る限り獲得方法はシンプルにしたい
・程よく悩ましく、運の要素も残しつつ、見通しも立てられるようにしたい(なんだかトッピング全部盛りみたいな話ですね)

これらを解決するシステム案が上手く組み上がりませんでした。

ゲームディベロップ

ゲームデザインの段階からうちばこやさんにはかなりガッツリと関わっていただいていたのですが、その中でも木駒獲得方式についてある日提案がありました。
「タイムトラック式を採用しましょう」
タイムトラックとは、パッチワークや東海道、ヘブンアンドエールのようにスゴロク方式でマスのアクションを解決していくシステムです。
その言葉を受け、システムを組み上げてみたらこれがバッチリとハマります。

タイムトラック式の利点は以下の通りです。
・極端な手番数の差が出にくいため、どのプレイヤーも確実に魚が手に入る
・まずメインボード上に魚が並ぶため見た目的にも楽しい
・ラウンド毎に新しく魚が並ぶので、ある程度の区切りによるランダム性と見通しの良さ
・他のプレイヤーの動きによるままならなさ(いわゆるインタラクション)
タイムトラック式に合わせて、個人ボード上のロンデルシステムなど、枝葉のルールもどんどん固まっていきました。

さらにキーマンとして、テストとディベロップに当初から参加していただいたTakeWatchことタケオさんにも非常に助けられました。
細かな指摘や調整をあげてはキリが無いのですが、大きく指摘された点が2つあります。
「Aqua Garden は配置できる魚の数にシステム上の上限があり、セットコレクション的な点数バリエーションもシンプルなため、勝利点の上限が見えやすい?数回プレイしたらもう上限に達するのではないか」
これがタケオさんからまず指摘されたことです。
つまり「次は上手くやろう」という体験を求めていたのに、獲得出来る勝利点の天井が繰り返し遊ぶうちに(人によっては少ない回数で)見えてしまう状態になっていました。これは良くありません。もうこれ以上の点数は物理的に取れないな、とプレイヤーが簡単に思ってしまってはリプレイ性が下がってしまいます。
私個人はゲーマーよりもライト層よりの視点で見ることが多いため抜け落ちていた部分です。タケオさんの指摘は正鵠を射ていました。
この問題を解決するため作成されたのが上級ルールです。
上級ルールによって点数バリエーションが増え上限が見えにくくなります。また基本と分けることで初めてのプレイヤーの体験をある程度保証できる、という狙いがあります。

そしてもう一つ大きくタケオさんに指摘された部分があります。これは先日上杉カレーさんに試遊いただいた時にも全く同じ指摘がありました。お二人ともさすがです。
「水槽の酸素消費量(駒を配置できるキャパシティ)を分かりやすく表現するため、水槽をマス目で区切り、さらにコマの大きさもそれに合わせたら視覚的に分かりやすいのではないか」
という指摘です。
ですが、これに関してはうちばこやさんと何度もテストし検討しましたが、結果的には採用しませんでした。
指摘の通りであることは事実です。ただこれより優先したい、いくつかのプレイヤー体験がありました。

Aqua Garden は自分だけの水族館を作る箱庭ゲームであり、そして「ジオラマゲーム」でもあると考えています。
終了盤面が最も華やかである。写真に残したくなる。これらはもちろんのことながら、もう一つ、プレイヤーの自由性を残したいという気持ちがありました。
水槽をマス目で区切ると、水槽内に配置の制限が加わったり、非常にシステマチックに見えてしまいます。終了時、個人ボード完成形の細かい位置までもをルールによってがんじがらめにはしたくないという思いがありました。
一つの水槽の中に区切りが無いことで、このゲームでは水槽内で木駒の位置を自由に動かすことが出来ます。
つまり「ゲーム終了時に木駒の位置を微調整し、自分が満足するジオラマを作り上げる」ことができます。
これが私達が企画の最初に夢想した風景でした。
そのため水槽内の情報は可能な限り少なくする、またより楽しいジオラマ体験のため魚駒の大きさや形も均一にせず各魚に合わせる、という方向性で製作を進めました。

こういった優先したいいくつかのプレイヤー体験があったために、厳格な競技性に関しては正直足りない部分があるかと思います。
ですが『悩ましいジレンマと可愛らしい木駒で作る自分だけの水族館』という体験に関してはきっと満足いただけるはずです。

コアシステムが完成してからも、ゲーム全体のバランス調整や数値調整はかなり苦労しています。この段階からはうちばこやさん、takewatchさん以外にもかなり多くの方にテストしてもらい、調整してはテストするを数十回ほど繰り返しました。

アートワーク

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Aqua Gardenの箱絵イラストはウラベロシナンテさん。アートワーク全般が別府さいさん。皆さんご存知のuchibacoyaゲームにおける最強タッグです。

私は自分が製作に携わってるゲームのイラストやアートを見るのが楽しみでたまりません。製作中のピークの一つと言えます。
ウラロシさんの絵は、毎回見るたびに衝撃を受けてます。
すごい!上手く説明出来ないけどなんか色とか雰囲気とかとにかくすごい!
本当に素晴らしくて魅力的です。
ジンベイザメを下から見上げた構図。淡い光と水の雰囲気。パーフェクトです。
店頭で、Web上で、または郵送された段ボールを開けた時、真っ先にユーザーの目に入るのは箱絵です。ゲームの顔。
この重要なポジションを期待以上の働きで応えてくれるウラロシさんには感謝しかございません。

そしてアートワークの別府さん。
このゲームの魅力の9割は別府さんの働きと言っても過言ではないかもしれません。
プリント木駒からカード、ボードのアート。これら全てが美しく組み上がりプレイヤー体験を素晴らしい方向へと導いています。私達が作りたかったジオラマゲームはシステムだけでは絶対に完成しません。
別府さんにもテーブルトップシミュレーター上でテストしていただき、その際に与えたいプレイヤー体験に関しては細かくお伝えしていました。
ただ私もうちばこやさんも、アートやUIに関しては専門ではないため細かい指示までは出せません。
そのため別府さんは「私たちが与えたいプレイヤー体験」から逆算して木駒の形からボードの色までその全てをデザインしていただきました。例えば、木駒のほとんどは立てて置くことが出来ます。立てて置くことで、横から見たときに立体感と奥行きがより強調されます。
ジンベエザメも別府さんによって提案されました。最初はマンボウだったんです。この変更により、箱絵イラストもジンベエザメになりAqua Garden の世界がギュッと締まりました。

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ルールライトではぬんさんに非常に助けられました。Aqua Garden の製作はもっと時間がかかるかと思っていたのですが、ある段階から極端に早められたのはぬんさんの功績がとても大きかったと思います。
というのも、私はとにかくルールライトが苦手でして、筆が遅くなかなか上手く書けません。これはもう大変申し訳ないと言うしかないところであります。すみません…
ぬんさんのルールライトは非常に分かりやすく、またUIに関しても別府さんとのやり取りによってゲームがどんどん良くなってました。
「お二人ともありがとうございます!素晴らしいです!」
とグループメッセージに書き込むことが後半私がメインでやっていたことです。

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kickstarter

Aqua Garden は現在kickstarter にてプロジェクト中です。明日15日(火)の午前10時に終了いたします。
日本国内の小規模パブリッシャーが海外の土俵で勝負するため、うちばこやさんがkickstarter という舞台を選んでくれました。
kickstarter では開始する際にも様々な人の力を借りています。ページ作成には引き続き別府さん。構成に関してはSNDUCKさんやコモノックスさん、あらいさん、山田空太さん、マンディさん。そして翻訳にはパトリックさん。動画作成にはひみつりさん。
その他様々な方の力を借りてAqua Garden というプロジェクトは完成しています。
私が大きな顔してこのようなデザイナーズノートを書くのも躊躇われるくらい、本当に多くの方の力によって作り上げられたゲームです。

このAqua Garden が世界に羽ばたくゲームとなることが我々の目標です。うちばこやさんを中心とした、チームの皆で作り上げたこのゲームのおかげで、ただの夢ではなく現実の目標として手を伸ばせる範囲にあると感じています。
kickstarter はクレジットカードの登録またはVプリカの使用等、利用するには手間が多いのも事実です。ですがもしこのゲームに魅力を感じ、そして支援していただけるのであれば、是非とも参加していただきたく存じます。たとえ自信を持って送り出した作品であっても、ボードゲームというのは皆さまの手に取られてこそ大きな価値を持ちます。
プロジェクトのために尽力していただいたチームの皆に、そして何より応援してくださる皆さま方に心よりの感謝を申し上げます。
どうぞよろしくお願いいたします。


 

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