見出し画像

ボードゲームは『期待』をさせろ!

このnoteのまとめ
・ボードゲームの面白さは期待にある
・期待とは「もしもこのまま上手く行ったらめちゃアド取れるぜ!」である
・期待には「もしも」「上手く行ったら」「めちゃアド」の3要素が必要である

ボードゲームは様々な面白さを内包しています。
そのため「面白さとはコレである」と一概に述べるのはなかなかに難しいんですよね。
ですが、その中でも私が最近強く意識してることがあり、それはタイトルにある通りの『期待』です。
特に中重量ゲームのシステムデザインにおいてはかなり重要ではないかと考えています。
この期待について、本noteでまとめていきます。

ヘッダー画像はみんなのフォトギャラリーから

何となく面白くない状態

あなたが自作のゲームのテストをしていて「形にはなってるけど何となく面白くない」という状態になること、結構あると思います。私は良くあります。
ゲーム全体の評価に留まらず、もう少し細かい粒度の話で言えば「この戦略は楽しいけど、こっちの戦略は楽しくない。やる気が起きない」と言った状態です。
ゲームとしては成り立っている。見た目やUIも悪くない。強弱のバランスも悪くなさそう。テーマも良い。
なのに何となく面白くない
こうなると大抵ボツにすることが多く、その原因を「大元となるコンセプトやコアアイデアが悪かったんだね(つまりスタートの時点で失敗だったんだね)」と結論づけてしまいがちです。
ただ実際のところはそうでなく、個人的には「期待」が足りないだけだと思っています。

では期待とは何なのか。細かく見ていきましょう。

期待の魅力

下記の記事はとても分かり易く期待の魅力を述べてくれています。
もしかしたらこのnoteを読むより勉強になるかもしれません。全員読みましょう。

一部引用いたします

人間って、なにか行動を起こす前に、つねにある程度その結果を予測しているんですが、過去の経験上「これはうまくいく可能性が3割ぐらいある」と思った瞬間に、その時点で“それが成功したときの快感”を前もって得られるんです。

この、成功した時の快感を前もって得てしまう状態を『期待』と呼んでいます。

もう一つ付け加えるとなると、期待とは起こりうる結果を“上振れ状態”で予測してしまうんですよね。
記事には単に「成功した時の快感」とありますが、期待する時に脳内にあるのはそこそこの成功じゃなく、めっちゃ上手く行った時の成功です。
※記事ではこのめっちゃ上手く行った時の成功を「可能性3割」と表してるのかもしれません。

この「上振れ」はめちゃくちゃ大事なので後で詳しく述べるとして、期待をボードゲームに適切に取り入れるにはどうすれば良いのか、それを考えていきます。

期待とは

ボードゲームにおける『期待』とは
もしもこのまま上手く行ったらめちゃアド取れるぜ!
のことを言います。
ボードゲームの面白さは計画と実行と反映なんて言われることがありますが、それをもっと噛み砕いて表現するとこうなります。
そしてこの『期待』には下記の3つの要素が必須です。
・もしも
・上手く行ったら
・めちゃアド

では一つずつ見ていきましょう。

上手くいったら

この上手く行ったら、は予測や計画のことです。
自分の選択がどういった結果を及ぼすのか、そのためにはどんな準備が必要なのか、
つまりは「どうすれば上手く出来るのか?」が分かりやすい必要があります
見通しの良さと言った表現をされることもありますね。

これが欠けてしまうと「で、何をすれば良いの?」となります。
対戦ボードゲームの最終的な目標は勝利することであり、最も勝利点を集めることです。
何をすれば良いって? いや勝利点を集めれば良いんだよ
これは一見正しく見えますが、それでは見通しが良いとは言えません。
もっと手前に分かりやすく目標を提示してあげる必要があります。
まず一手目は何をすべきか。
このラウンドは何をすべきか。
このアクションを積み重ねるとどうなるのか。
最終的にはどのように勝利点に結びついてくれるのか。
短期、中期、長期と種類の異なるマイルストーンを適切なタイミングで提示しましょう。

また、この見通しの良さはテーマが補ってくれることもあります。

アグリコラは農業なので、畑を耕すか家畜を飼うと良いでしょう
大鎌戦役ではカッコいいロボであるメックをまず造ると良いでしょう
ウィングスパンでは鳥を増やし卵を産ませると良いでしょう

このようにテーマが何をすべきかを明示してくれます。
なのでプレイヤーに馴染みの無いテーマを使う場合は、そこから広がるイメージを適切に使うことが出来ません。
より注意を払う必要がありますね。

見通しの良さに関しては、ゲームデザイン的には分かりやすい部類なので、問題がある時に見つけるのはさほど苦労しないと思います。
簡単に解決出来るかは別としてですが……。

めちゃアド

説明不要かと思いますが、アドとはアドバンテージの略であり「得をすること」です。
たとえ見通しが良かったとしても、このアドが魅力的でないと
「何をしたらどうなるかは分かったけど、美味しく無いからする気にならない」
となってしまいます。

ここで重要なのは実際にアドがあるかどうかではなく「プレイヤーが得られるものに魅力を感じるか」です。

分かりやすい例としては勝利点でしょうか。
ゲームの目標は勝利点を集めることですから、勝利点は得だしアドなはずです。
ですが「勝利点を貰えること」自体が魅力的であるかはまた話が別なのです。
プレイヤーは基本的に拡大行動を好みます。
手番が増え、出来ることが増え、コストが安くなり、アクションが強化されることを好みます。
特に序盤となれば、勝利点への魅力はより減退し、拡大への誘惑は増大します。
拡大した方が雪だるま式にリターンが大きくなる(と想像しやすい)からですね。

ゲームにおけるアドの度合い、つまりどれだけ勝利に近づくかと、プレイヤーがそれを魅力に感じるかどうかは、分けて考えた方が良いでしょう。
特にデザイナーはゲームの全体構造を誰よりも理解し、各アクションの価値が見えた状態で判断してしまいます。
どのアクションが勝利点換算するとどれくらいの価値があるのか分かってしまうのです。
ですが、初回プレイヤーはそのゲームの一部分しか見ることが出来ません。価値が適切に判断出来る人は一握りです。
そのため一部分しか見れない状態でも「価値があるように見える」美味しそうなニンジンを目先に吊るす必要があります。

ここに問題がある場合、バランス調整がかなり難しいことが多いです。
ある選択肢に魅力が無いからと言って、強くしすぎるとバランスが壊れてしまいます。
かと言って魅力が無いまま放置は出来ません。

なのでまずは「強い」と「魅力的」を切り離して考えるのが良いでしょう。
そして「強くする」ではなく「魅力を増やす」と言う観点から調整します。
じゃあ実際どうすれば魅力が増えるの?
というところですが、ここでも「上振れ」が機能します。後ほど述べます。

もしも

もしもとは、計画実現への障害です。
先ほど添付した記事の内容を再度引用します。

しかも、当たる確率が不確実なのが重要なんです。期待したときに当たるかどうかわからないので、当たりがわかるまでの待ち時間のあいだに、さらに快感がもらえるんですね。
 逆に、100%の確率で当たると思ったときは、期待した時点で「必ず当たる!」という快感は得られるものの、当たるまでの待ち時間では快感を得られない。だから、当たるかどうかわからない事象のほうが快感をより多く得られるんです。

100%当たるんじゃ気持ち良くない。確率が低い方が気持ち良い。なんて、人間は難儀な生き物だなと思いますね。

つまり「もしも」とは
上手く行くかもしれないし、上手く行かないかもしれない
といった状態であり、それをゲーム側が用意してあげる必要があります。

これはボードゲームで言えば馴染み深い要素が関係します。
・インタラクション
・運

の二つです。

インタラクションにおける「もしも」

計画を立て、準備を整え、得られるリターンも美味しい。
“あとは他人がどう動くかだけだ”

これがインタラクションに対する「期待」であり、気持ちの良い瞬間です。

ワーカープレイスメントであれば「あのアクションが踏まれなかったら」
エリアマジョリティであれば「あそこのエリアが確保出来たなら」
早取りであれば「誰よりも早く獲得出来たなら」
マルチであれば「あいつと組めたなら」

インタラクションがそこまで強くないゲームだと
「他プレイヤーが自分の思い通りに動いたならば」
となるでしょうし、
マルチや交渉のあるゲームであれば
「他プレイヤーを自分の思い通りに“動かすことが出来たなら”ば」
となります。
後者の方がより自分の選択が影響するため達成感が満たされそうです。
インタラクションの強いゲームを好むプレイヤーは、この「もしも」から強い快感を得ているのかもしれませんね。

運における「もしも」

計画を立て、準備を整え、得られるリターンも美味しい。
“あとはあのカードを引けるかどうかだ”

これが運に対する「期待」であり、気持ちの良い瞬間です。

この運はカードであったり、タイルであったり、ダイスであったり。
様々なランダマイザで実装されます。

これら2つのもしもは、プレイヤーに「アレはしないでくれー!!」または「アレが来てくれー!!」という感情を持たせられるかどうかが重要です。
そのために上記で述べた
・上手く行ったら(どうすれば成功なのか)
・めちゃアド(得られるものが魅力的か)
の2つを適切に設定する必要があります。
「アレ」を上手く想像させなくてはならないからですね。

上振れの期待

ここに、2つのカード効果があります。
A:自身が建てた建物の数×2点を得る
B:自身が建物を建てる時+2点を得る

これらの効果は似てるようで全く異なります。

Aは過去を参照する効果です。
プレイヤーが既に何軒建ててるか、で得られる得点が変わります。
カードを使った瞬間に効果は確定するため、もしもが影響しません。

Bは未来を参照する効果です。
このあと1軒しか建てられないかもしれないし、10軒建てることが出来るかもしれません。
効果はカードを出した段階では未確定です。
ここには「もしも」が影響します。

そしてプレイヤーは、AではなくBのが期待出来ます。
またB効果を期待する時は「最大限その効果を活かせた状態」を想像してしまうわけです。
プレイヤーはカードを出した瞬間、自分がこのあと1軒しか建てられない状態なんて想像しません。持ってる建物10軒全部建てられる状態を想像します。
たとえ良くて5-6軒が関の山だったとしても。

実際得られる効果よりも、大きな効果を想像してしまうこと。これを「上振れの期待」と呼んでいます。

上振れの期待は、カードの実際の強さよりもその効果を魅力的に見せることが可能です。
それを上手く利用した具体例を二つほど提示しましょう。

テラフォーミングマーズ における地球オフィス

テラフォには地球オフィスというカードがあります。
これは「1金で出せて、以降地球タグのカードコストは3金安くなる」といった効果です。
効果を読んで分かる通り、地球タグのカードを出すたびに3金得します。
このあと何枚地球タグのカードが引けるか、はカードを出した瞬間はまだ分かりません。
ですがプレイヤーは「これからバンバン地球タグのカードを引くに違いない」と想像してカードをプレイします。そしてカードを出した瞬間気持ち良くなってしまいます。
実際の確率的にも、バンバン引く可能性そんなに高くないにも関わらずです。

今まで私はテラフォの永続カードの魅力を「起動回数が多くて強いから」だと考えていました。
ですが違うんです。
「起動回数が未確定で『期待』出来るから」
未来を参照する永続カードは魅力的なんです。

オラニエンブルガー

下記のTakeWatchさんの記事内「快感の前借り」でも触れられています。

オラニエンブルガーでは建物カードの配置した時点で効果が発動しません。
発動には「4本の経路で囲む」「2本の橋がつながる」のどちらかが必要です。
つまり効果発動までにタイムラグがあり、そのタイムラグを利用してより強い効果が発動出来るようプレイヤーは準備します。

その準備が上手く行くかどうかは、相手プレイヤーとのアクションの取り合いであったり、カードのめくり運も関係してくるのですが、そんなの関係なくプレイヤーは出した瞬間に「めちゃ上手く行った時の効果発動」を想像してしまいます。
そんなに上手くいくはず無いのに、出した瞬間は上手くいくと『期待』してしまうわけですね。

オラニエンブルガーのカードには何段階か効果の強さがありますが、実際に発動するのは上から2-3段階目の強さの効果であることが多いです。
なのにプレイヤーは「常に強さMAX効果の快感を前借りしてる」状態となります。
これは、めちゃくちゃ上手に「実際の強さ」と「魅力があるかどうか」を切り離して実装してるわけです。
さすがウヴェと言わざるを得ません。

まとめ

・ボードゲームの面白さは期待にある
・期待とは「もしもこのまま上手く行ったらめちゃアド取れるぜ!」である
・期待には「もしも」「上手く行ったら」「めちゃアド」の3要素が必要である
・上手く行ったらは「見通しの良さ」である
・めちゃアドは「得られるリターンの強い魅力」である
・もしもは「インタラクションや運により上手くいかない可能性」である

あなたのゲームがなんだか微妙だなという時、もしかしたら『期待』が足りていないのかもしれません。
またその期待を細かく分けて考えて、何をどう実装すべきか判断してみてください。
その材料に本noteが少しでもお役に立てれば幸いです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?