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パフューマリーデザイナーズノート

パフューマリーは、タクティカルゲームズより2020年ゲームマーケット秋にて発売されたボードゲームです。
そのゲームシステムデザインについてnoteにまとめます。

企画・コンセプト

パフューマリーの原案は、説明書にも記載してある通りタクティカルゲームズのスズキヨウタさんです。香水テーマであること、そして公開ドラフトを用いることはスズキさん考案です。
ただ当時の状態ではまだ上手く噛み合ってないなというのが率直な感想でした。
スズキさんから相談を受け、デザインを私が引き受けることとなりました。
・香水テーマ
・特殊な公開ドラフト
・エンジンビルド
これらがパフューマリーの企画案です。

香水テーマ

パフューマリーは香水というテーマの中でも、調香の部分を扱っています。
まずは調香に関して調べていき、ゲームシステムとして使えそうなものをピックアップしていきます。

・トップ、ミドル、ベースといった工程によって調香される
・工程が少し異なるだけでも香りが変化する
・香料にはいくつか種類がある
・揮発性である
・細かい作業が求められる

これらに沿って、より良いシステムの歯車を探していきます。

特殊な公開ドラフト

場に並んだ複数列のカードを一列ずつ獲得する、という方法はウィンチェスタードラフトと呼ばれる方法に近いドラフトです。
カードを出す時に手札の他のカードをコストとして支払う、という方法はサンファンやレースフォーザギャラクシーで用いられています。
パフューマリーはこれら2つの方法がミックスされています。
コストとして支払ったカードが場に並ぶ、場に並んだカードをドラフトで獲得する、そしてまたコストとして支払って……そんな感じのシステムです。
そのためカードが循環し、1枚のカードが手札と場を介して複数プレイヤーの手に渡ります。
このシステムの利点として

・カードを少なく出来る
・カードのバラつきをデザイナーがコントロール出来る

の2つがあります。
大量のカードプールからドラフトする方法では、ゲームを通してプレイヤーの手に渡るカードに偏りやバラつきが大きく出ることがあると考えています。
もちろんそれが魅力の一つでもあるのですが、パフューマリーではそこをなるべくコントロールしようとしています。
さらにカードはその強さによって世代が分かれています。これもカード運の要素がなるべく少なくなるようにと考えてのことです。

ワーカープレイスメント?公開ドラフト?

パフューマリーはワーカープレイスメントというシステムを採用しています。
ワーカープレイスメントは公開ドラフトに非常に近しいシステムです。その違いに関してはここで詳しく述べることはしませんが、ドラフトそのままではなく、ワーカープレイスメントを選んだのには理由があります。
パフューマリーは特殊な公開ドラフトによって以下のようなルールが設定されています。

①手札からコストとして支払ったカードが場に補充される
②ラウンドの区切りによって山札からもカードが場に補充される
③一度獲得したカード列はそのラウンド中、他の人は獲得出来ない

これが例えば「一度獲得したカード列にはラウンド中に補充されない」と言うルールであれば、誰かが獲得したカード列はラウンド終了時まで空っぽです。空っぽだからそもそもその列は獲得出来ないわけで、③のルールが必要無くなります。
ですが①のルールがあるがために、ラウンド中にも空っぽの列に随時補充されていくわけです。
そうすると、その列が獲得済みなのか、そうでないのかがカードの有無だけでは判別出来なくなります。これでは③のルールが上手く実装出来ません。
そのため獲得済みであることを分かりやすく示す印が必要となります。その印として、ワーカーを用いました。
こういった理由から、ドラフトとシステムが近しく、より視覚的に分かりやすいワーカープレイスメントを用いる必要がありました。つまりワーカープレイスメントはUIとして採用されたわけです。
そこからワーカープレイスメントをより活かす方向にシステムを固めていきます。

エンジンビルド

ウィングスパンやマスターオブルネッサンス等、エンジンビルドの先行作品がいくつかあります。
これらの作品の個人的に気になる点として「ゲームによっては組んだエンジンがあまり回らない」というものがありました。
エンジンビルドの快感は自分が組んだエンジンがぶん回る瞬間です。
この快感をなるべく強化したゲームにしたい。
そのため、パフューマリーは毎ラウンド必ず自分が組んだエンジンが回るようにしています。
ですが快感は得られる一方、

・強いエンジンを組んだ人がそのまま勝ってしまう
・エンジンによる効果が累積すると大味になってしまう

という問題点が考えられます。
特に後者に関しては、拡大再生産+エンジンビルドの宿命と言いますか、どこかで制限をかけてあげないと資源や効果が膨れ上がる一方になります。
この問題点は、調香テーマに沿ったシステムによって解決していきました。

・エンジンビルドの場をトップ、ミドル、ベースに分ける
・エンジンが回った結果出力される香水資源は、次ラウンドに持ち越し出来ない(揮発してしまう)

これらにより複雑性を増し、単純に強いエンジンというものを無くしています。
また同時に効果が累積しないようリセットをかけています。

そして毎ラウンドエンジンが回ることによって、多くの香料駒が発生し、駒を操作する時間が非常に増えるようになりました。
指先で駒を摘んで、複数の香料を操作する感覚。
実際の調香とはもちろん異なりますが、細かい作業によって香水を作っていくというテーマ性は上手く表現出来たのでは無いかと考えています。

拡大の方向性

パフューマリーには3つの拡大性があります。

・自分が組んだエンジン
・獲得した勝利点兼倉庫
・場に並ぶカード枚数

プレイヤーは拡大に快感を覚えます。
ゲームによっては拡大と勝利点を切り離すことで、プレイヤーにどのタイミングで舵を切らせるかを悩ませるものもあります。分かりやすい例で言うとドミニオンですね。
それに対して、パフューマリーは「勝利点兼倉庫」というシステムにより、拡大(倉庫)と勝利点を紐付けています。
ゲーム上この倉庫はエンジンと同じくらい勝つために重要です。
「気持ち良いこと(拡大)をしてれば同時に勝てる」が目指すべきところだったため、こういった実装にしました。

オールユニークな香水カード

香水カード40種類はオールユニークです。
実際の調香でも、工程や香料が異なればもちろん香りも異なるため、フレーバー文章もそれに沿ってきちんとしたものを考えようとなりました。
そういった経緯からプロの調香師さんにご協力をお願いし、フレーバー文章は作成されています。
自分の手元に並んだカードを眺める楽しさもエンジンビルドの魅力の一つです。

次への課題

パフューマリーは自分としては納得行くゲームに出来上がったと考えています。
ですが遊んでいただいた方の意見を見て、いくつかの課題があったことを認識しました。
・香水テーマの割に難しめ
・ゲーム後半のパズルが複雑
・箱の大きさとプレイ感の乖離
・長い、ダルい
・広いテーブルが必要
上から4つに関しては要検討しなくてはならないと思います。
ただ広いテーブルに関してはテスト段階から分かりきっていたことであり、これは私自身が「テーブルいっぱいにカードやコンポーネントが広がるとそれだけで楽しくなってしまう」という性質のため生じた部分です。
なので今後もおそらく変えるのが難しい部分です。申し訳ないです。

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