対戦ボードゲームのテーマ設定の難しさ

協力プレイでないボードゲーム、つまり対戦型ゲームは基本的にプレイヤーの目的を『勝利すること』に置いています。
この「他プレイヤーに先んじて、場合によっては足を引っ張ってでも勝利を手にすること」がテーマ的に難しいなと思うことがしばしばあります。
具体的には『人類全体で取り組むべき課題』をテーマとしたゲームにおいてです。

世界を救う勇者

例えば
「魔王が復活した世界。人類は滅亡の危機に瀕しています。あなた達は勇者です。魔王を倒しましょう」
というテーマの場合、協力ゲームなら皆で力合わせて倒そうね、で済みます。
実際クトゥルフやゾンビテーマの協力ゲームはこれに近いと思います。
ですがこれを対戦ゲームにした場合、他プレイヤーもあなたの敵になります。
つまりゲーム中のインタラクションによって、他プレイヤーを蹴落としたり妨害したり、一足先に利益を得たりする必要があるわけです。
そうなると、魔王を皆で倒しましょう、ではテーマが合いません。

他プレイヤーが倒す前に自分自身で魔王を倒しましょう。勇者としての富と名声を独り占めにするのです。

と言ったテーマが必要になると思います。
人類の滅亡を前にしても、自身の富と名声を求めることがプレイヤーの目的として設定されてしまうわけです。

アークノヴァ

最近話題のアークノヴァですが、私は当初このゲームを「絶滅の危機にある動物達を保護するゲーム」だと勝手に想像していました。この「人類で取り組むべき課題」をテーマに設定し、どうやってプレイヤー同士を争わせるのだろう、と思っていました。

では実際の説明書を読んでみましょう

https://support.tendays.jp/assets/games/Arknova_rules_jpn_web.pdf

要約すると
「あなたは最新鋭の動物園の建設をします。収益を高め、保全計画を進め、他プレイヤーよりも成功した動物園を作るのです」
といったテーマです。
アークノヴァは動物保護がメインの目的なのでは無く、動物保護をしながら「自身の動物園を他プレイヤーよりも優れたものにすること」が目的のゲームなわけです。
なので他プレイヤーは同じ動物保護をしていても敵になるわけですね。
ゲーム中に生じるインタラクションも「動物保護!?そんなことより他プレイヤーなんかに良い動物園作らせてたまるかい!!」といった理由付けとなります。
うーん……
皆で動物保護をする世界線にはならなかったのでしょうか……(もちろん対戦ゲームなので無理ですね)

ウィングスパン

ウィングスパンもアークノヴァと似た「鳥獣保護」をテーマとしたゲームです。
ただウィングスパンは説明書において「他プレイヤーよりも優れろ」とか「成功しろ」とかそういった文言は書いてありません。

あなたは鳥の愛好家で、多くの鳥を自分の敷地に呼び寄せたいと思っています。

これだけです。
その後に「様々な要素から勝利点を得て、最も高いプレイヤーが勝者となります」と続いています。
テーマ上、他プレイヤーを敵だとは明言して無いわけです。
※ アークライトの公式HPに説明書が無かったため引用は出来ませんでした

また作者のElizabeth Hargrave のインタビュー記事には下記のような記述があります

ウイングスパンは、他人と直接対立するようなプレイはしにくいのがポイントです。例えば、自分だけではなく、プレイヤー全員のために餌を集めてくれる鳥を集めるなど、相手を助けるようなプレイをすることが可能で、ゲームもそれをオススメしています。また、大勢でプレイしたほうがより多くの得点を得ることができます

ウィングスパンの妨害や攻撃の薄いゲーム性は、こう言ったテーマから齎(もたら)されたのでしょう。

テラフォーミングマーズ 

テラフォーミングマーズはどうなってるでしょか。
火星を居住可能な星にして、人類の危機を救おう! といった人類全体で取り組むべき課題をテーマにしたゲームに思えます。
では説明書を読んでみましょう。

https://arclightgames.jp/wp-content/uploads/2019/07/TM_RULEBOOK_JPN-reprint2018w.pdf

ざっくり要約すると
人口過剰や資源の枯渇によって人類の未来が危うい!火星に移住しなくては!
と言った世界観です。
しかし、その後にこう続きます。

世界政府は「この壮大な事業に従事する組織を支援する」という決断をしたのです。
この見返りのよい投資話は、複数の巨大企業の興味を惹きつけました。彼らは、テラフォーミングの陰で影響力を強めつつ、ビジネス拡大のために互いにしのぎを削り合ったのです。

つまり「人類存続の危機に託(かこつ)けて、他企業よりも利益を得ましょう」といった世界観なわけです。

他プレイヤーは人類存続のための同士ではなく、自社企業の敵であります。またテラフォーミングもメインの目的では無く、他者を蹴落としてでものし上がることが目的であるため、核や隕石をバンバン落とすわけですね。
もしかしたら世界政府も、企業同士協力させるより競争させた方がテラフォーミングが進むと考えたのかもしれません。

確かに漫画テラフォーマーズでも、ゴキブリという人類共通の敵を前にしてすら人間同士がやり合っています。そんな様を見るに、テーマ設定としては自然なのかなとも思います。
ですが漫画とゲームで異なるのは主人公=プレイヤーという点です。
「あなたは人類存続の危機を前にしても、他プレイヤーとは協力せずに自身の利益のみを追い求めてください」と言われてしまうわけです。
もちろん普段の生活では不可能な、こういった体験を得られるのもゲームの大きな魅力ではあります。
ですが「いや、人類存続の危機なら皆で協力し合っては……?」と思ってしまう自分もいるわけです。

最後に

ここまで書いて来ましたが、アークノヴァもテラフォも、単なるプレイヤーとして遊ぶ場合にはこれらの細かい部分は全く気にせず遊んでいます。またゲームとしての面白さに対して、これらのテーマが良い影響ならまだしも悪い影響を与えるとも思っていません。
ただいざ自分が作るとなった時『人類全体で取り組むべき課題』をテーマとして扱った上で「プレイヤー同士を競わせ、時には妨害させる理由付け」に頭を悩ませてしまうだろうなと思います。

最初に例として挙げた魔王と勇者の世界観。
あれも、

死に至る魔王の呪いにより、魔王を倒した者も必ず道連れとなり死んでしまう

と言った世界観であれば「犠牲になるのは自分だけで良い」と勇者たちは他プレイヤーより先んじて魔王を倒しに行く理由になるかもしれませんね。
最終決戦前に仲間達を気絶させる主人公、みたいな感じ。
これなら勇者っぽくて良い気がします。

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