勝利点は可愛くない

本noteのまとめ
・見た目の良さは視線を集める
・集めた先に戦略を置く
・しかし戦略は考えさせない
・視線をどれだけ集めるかをデザインする


はじめに

多くの中量級〜重量級以上のゲームでは、その目的や勝利条件に「最も多くの勝利点を得ること」と記載してあります。
プレイヤーはとにかく勝利点を得るため他プレイヤーと競うわけです。
勝利点だ! 勝利点をくれ!
誰よりも多くの勝利点を我が手に!!
……本当にそうでしょうか?

もちろん効率よく勝利点を獲得するプレイングが好きな方もいることでしょう。
しかしながら多くのプレイヤーにとって、ゲーム最中におけるモチベーション・欲求は別の部分にあります。
拡大再生産においての拡大していく喜びとか、箱庭が充実する様子とか、コンボやシナジーが上手く繋がった時の快感とか。
勝利点が欲しくてゲームをしてるわけじゃないんです。


ストーンマイヤーのゲーム

大鎌戦役、ウィングスパン、タペストリー。
豪華なコンポーネントが目を引きますね。とても楽しく満たされた気持ちになります。
これらの作品は世界的にも人気です。
個人的に、ストーンマイヤーの作品は欲求の制御が非常に上手いと考えています。
自分なりに掘り下げていきましょう。


ウィングスパンの卵

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※アークライト公式ページより引用

色とりどりでとても集めたくなりますね。
可愛いし、指で摘むのも、ボードに並べるのも楽しい。
でも形が豪華であることや色が違うことにルール上の差異は特にありません。システム上は全く必要無さそうに思えます。
しかしゲームを通した体験には大きく影響すると考えています。

例えばもしこれが紙製の、色も質素なチップだとどうでしょう。
もちろんそれでも可愛いと感じる方もいると思います。
しかしやはりあの卵よりはインパクトに欠けますね。
インパクトに欠けるとどうなるのか。

プレイヤーがあまり見なくなるんです。

ゲーム中、プレイヤーは様々な情報を視覚から取り入れて処理しています。
そしてそれは盤面全ての情報を均等に取り入れているわけでなく、優先順位を設けています。処理能力には限界がありますからね。
見やすさ、大事さ、楽しさ。これらが複雑に影響します。
見やすさ(目からの距離の近さ)でいえば手札が最も参照しやすい情報です。逆に他プレイヤーの個人ボードはとても参照しにくい。
楽しさは見た目の華やかさや、能力が拡大していく喜びに通じます。ここが大きいと単に楽しいので見ていたくなります。
大事さはゲームの目的を達成するため(勝利点を得るため)に、どれだけ重要かが指標となります。
ウィングスパンではこれらの視覚情報とプレイヤーの欲求を上手く利用しているのです。

卵を集めさせる

ウィングスパンの戦略の一つに「卵を集めて得点を稼ぐ」という方法があります。
もし卵があのコンポーネントではなく、質素な紙製チップだとどうなるでしょうか。
勝利点を優先するプレイヤーであれば、たとえチップであってもこの戦略を取ることがあるでしょう。「大事さ」によって取得する視覚情報を決定しているからです。
しかし勝利点を第一に優先しないプレイヤー、盤面が華やかになったり、コンボやシナジーの快感を得たり、こういった「楽しさ」によって取得する情報を決定しているプレイヤーでは異なります。
簡素なチップだと「卵を集めて大量得点」という戦略に辿り着くのが難しくなります。なぜなら楽しく無く、見ないからです。

複数色ある理由

一色よりも、複数色ある方がプレイヤーの視線を集めます。つまりゲーム内においてそれだけ参照して欲しい(見て欲しい)情報ということです。
実際、序盤から終盤にかけて卵を集め続けることは一つの戦略として成り立ちます。
システム的な理由は無くとも、複数色あることで戦略上必要なところへより強く、自然にプレイヤーの視線を集める。
ウィングスパンでは視線を誘導することにより、楽しさ→大事さを上手く繋げているのです。

複数色なのにシステム的な差異を盛り込まない理由

じゃあせっかく卵の色が違うんだから、システム上も各色に差異をつけたら良いんじゃないか。
例えばセットコレクション要素とか、または色ごとに違う能力を持たせるとか。

もちろんそれも一理あります。
ですが、あえて言うのであればウィングスパンにおいてはそれは不純物になってしまうのです。
楽しさの不純物。
プレイヤーは、可愛い卵を集めること自体がモチベーションとなります。
可愛くて集めたい(楽しさ)からであって、勝利点を稼ぎたい(大事さ)から集めるわけじゃありません。
もし色ごとに特徴が異なってくると「可愛い卵を集める」にさらなる戦略上の意味が生まれ、卵を眺めながらプレイヤーが悩み考える部分が増えます。
当初の「可愛いってだけで戦略にも繋がる」ではなく「戦略に繋がる可愛さで戦略を考える」と変わってきます。
「どの卵をどう集めたら勝利点にどれだけ繋がるか」を考えるのは楽しさからやや離れます。
大事さではあるけど楽しさではない。
だって可愛くないじゃないですか。
戦略や勝利点は可愛くないんです。

でも勝利点は欲しい

ソロゲー感が強いとか。インタラクションが弱いとか。これらは言い換えると「勝ちを意識させないデザイン」なのではないかと思います。
ゲーム中は勝利点のためではなく楽しむために頑張って欲しい。

なのでプレイヤーは勝利点は特に欲しくない……わけじゃないんですね。
実はプレイヤーはやはり勝利点が欲しいんです。
というより、納得感と言った方が良いでしょう。
勝利点は終了時にゲーム側から与えられる評価になります。
「よくできました!」や「もうすこしがんばりましょう」のあのスタンプ。勝利点はあの役割を担っています。

自分そして他のプレイヤーがどれくらい勝利点を獲得したかは、誰がどのスタンプを押されるのかと同義です。
本当ならゲーム側からしても「一番楽しんだプレイヤーが勝利します」にルールを変更し、全員に「よくできました!」のスタンプを押してあげたいところです。
ただそれだと条件が曖昧すぎて成り立ちません。
そのためウィングスパンでは「ゲームを一番楽しくやったプレイヤー」が勝利点をより獲得しやすいよう促し、一番楽しんだ人に「よくできました」のスタンプが押されるようしているわけです。
上手くやったプレイヤーではなく、可愛くて楽しかったプレイヤーが勝つ。
それがウィングスパンの狙いだと考えています。


大鎌戦役でのメック(ロボ)

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※アークライト公式ページより引用

ここまでウィングスパンの卵について語りましたが、大鎌戦役のメック(ロボ)でも似た構造を取り入れています。
プレイヤーはあの大鎌戦役のボードやフィギュア等のコンポーネントを広げた時に、どのような感情を持つでしょう。

あのカッコ良いロボをマップに降臨させたい、動かしたい

そんな気持ちを抱くのでは無いでしょうか。
大鎌戦役では序盤の定石として「メックをとにかく早く作る」というものがあります。活動範囲を広げ、迅速に拡大していくにはメックが必須です。
ウィングスパンと同様に、プレイヤーが持つ「ロボを早く出動させたい」という楽しさから来る感情を、そのまま序盤の定石(大事さ)に繋げているわけです。


メックと卵の違い

メックの形は各勢力ごとに異なるものの、自分が持つ4体はどれも同じ形です。
全て違う形(または違うポーズ)にも出来たはず。
システム上の差は無くとも、各々ポーズが違うメック。ストーンマイヤーならやりそうじゃないですか。
なぜしなかったのか。
コスト的な理由を考えず、あえてシステム的な理由を想像してみます。

ウィングスパンでは卵をより多く集めることが戦略の一つとなり得ます。序盤から終盤まで大事。集めたい欲求を大きくしてもゲームは破綻しにくいのです。
対して、メックは序盤〜中盤に1体は出してもらう必要はあるものの、最速で4体出す必要性はそこまで高くありません。6つある目標トークン(星トークン)のうちの一つでしか無いからです。
ゲーム終盤まで通していっぱい集めさせたい卵と、序盤〜中盤までに最低1体は出させたいメック。
その差だと私は考えています。
この理由により、メックは1体出せばプレイヤーの欲求がある程度満たされるよう同一形にしたのかもしれません。
もし4つともユニークだと全部出したくなるじゃないですか。
ゲーム中他にも視線を向かせたいのに、メックにプレイヤーの欲求が集中し過ぎてしまいます。

タペストリーでもマイルストーン(ゲーム内目標)として、着色済フィギュアが目を引きます。ただし獲得後は底面積だけにシステム上の意味があり、フィギュアの形や種類は何も関係しません。
これらもおそらくプレイヤーの欲求とシステム上の戦略との兼ね合いによって、あえてそのような形式を取っていると考えますが、タペストリーに関しては深く掘り下げられるほど詳しくないため今回はこの程度に留めます。


勝利点を可愛く(カッコ良く)するには

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※ボドゲーマより引用

もし勝利点が可愛く(カッコよく)ないならば、カッコよくするにはどうしたら良いだろう。そう思うわけです。
例えばエバーデールの立体的な木のボード。あれが勝利点トラックだったらどうでしょう。
得点を取れば取るほど、自分の駒が木を登っていく形。高くて景色の良さそうなところに自分の分身が置かれる楽しさ。
勝利点獲得=カッコ良いに結びついてくれそうです。
なんだか良さそうに思えますね。

しかしこれには問題があります。この方法を採用すると、プレイヤーの視線が勝利点トラックに集まりやすくなります。
集まるとどうなるでしょう。勝利点レースが激しくなったり、または最終的に勝利点が獲得出来なかったプレイヤーの満足度が低下したりと、ゲーム性に影響を及ぼす可能性が高まります。
なので互いの勝利点を気にさせるようなゲーム、マルチゲームだったら有りかもしれませんね。ROOTのような可愛いマルチだと採用の価値があるかもしれません。


おわりに

現在ボードゲームは国内も海外も見た目の良さが重視される傾向にあり、豪華で派手なコンポーネントになりがちです。
なので単純に「売れるから」という理由である可能性も否めません。
ですがストーンマイヤーでは、どこをどの程度豪華にするかをシステム上の重要性と照らし合わせてデザインしてるのではと考えます。

全体的にやや妄想よりの考察な気もしますが、今回はここら辺にしておきます。

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