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Ostia デザイナーズノート

はじめに

当記事は、2022年にKickstarterを通してuchibacoyaから出版されたボードゲーム「Ostia」に関してのデザイナーズノートである。
Ostiaというゲームをどのように制作したか記録することで、自分で後で見返したり、他の方の中重量級ゲームをデザインする際の一助になれば幸いである。
読者として、Ostiaをプレイしたことのある方、ゲームデザイナー等を想定している

着想

私は2020年頭から、少ない時は週1回、多い時だと3-4回ほど、うちばこや氏、TakeWatch氏と共にオンラインテストや打ち合わせを継続的に行なっている。

2020年末、その時はTakeWatch氏のテストを行っていたのだが、テスト後のフィードバック中に
「アクション選択をマンカラにしてしまうのはどうか」
という意見がうちばこや氏から出た。

マンカラのアイデアは個人的にとても良いなと思ったものの、当時のTakeWatch氏のゲームに取り入れるのは難しそうだった。
そこで私から
「そのアイデア貰っても良いですか?」
と提案し、お二人の快諾を得たことで後にOstiaとなるゲームの製作を開始した。

時期的にはTakeWatch氏作『Sapporo1876』の超初期テストのようである。
デザイナーズダイアリー参照
ただ彼は複数のゲームを並行してテストを行うし、様々なメカニクスを試しては壊しを繰り返すので、もしかしたら別ゲームでのテストだったかもしれない。
TakeWatch氏はとにかくメカニクスの引き出しが多い。私自身もテスターとして参加することで大いに刺激を受けたり勉強させてもらったりしている。

方針立て

私の中重量級ゲームを製作の仕方は、まず方針として
・コンセプトの決定
・コアメカニクスの決定
・大まかなテーマの決定

が同時並行で決定される。

Ostiaに関して言えば
コンセプト:木駒を活かしたジオラマ作り、マンカラ駒にテーマを乗せる
コアメカニクス:マンカラ
大まかなテーマ:船、商人

となった。

コンセプトに関しては、uchibacoyaから出版してもらう時には「木駒を活かしたジオラマ作り」を毎回のコンセプトとしてるのであまり悩むことはなかった。
コアメカニクスは先の記述通りマンカラ。

残るは大まかなテーマとなるが、これをどうするかはかなり悩んだ。
ここで言う「大まかなテーマ」というのは、舞台や世界観ではなく「プレイヤーは何者で何をするのか」ぐらいのイメージを持ってもらえるとありがたい。

度々TakeWatch氏の名前が登場するが、氏の作品にAmalfiというゲームがあり、これをとても面白いと思っていた。
そのため私はAmalfiのような「海とか船とか交易とかそう言うの良いなー」といった漠然とした思いがあった。
そこで
「マンカラする駒を内港を回る船とし、商人テーマを乗せたらどうだろう」
と考えた。

当時、Ostiaのテストをする時は仮タイトルとして「マンカラ」または「Amalfi 2」と呼んでいた。

初回テストまで

大まかなテーマが決定したら、それに沿って各アクションを決めていく。
テーマが商人、船、内港(外港)ということから
・船の移動
・造船
・建築
・契約
・交易(都市の発動)
・マンカラの強化

の6つのアクションが決定された。

初期個人ボード

初回からアクションはほぼ変更が無いが、「移動アクション」によって船が移動するメインボードは完成版とは大きく異なっている。
当初はピックアンドデリバリーをメインボード上で行うルールだった。
しかしこれがどうにも上手く行かなかった。

初期メインボード

初回テストで受けたフィードバックは「面白くない」であり「作り続けても構わない、テストも付き合うが、uchibacoyaから出せるかは現時点では約束できない」と言うものだった。
うちばこや氏は「面白いのが最優先事項」と常々言っており、面白くならなければどれだけ時間をかけてもボツになる。もちろん、これは他の製作者の方々全てに共通する当然の前提だと思う。
つまらないのは自分でも理解出来ていたし、基本的に初回テストはそんなものである。

先行作との比較

Ostiaは「マンカラの始点で資源を集め、終点でアクションをする」というコアメカニクスを持つ。
このアクションに関して、ゲーム上実際にどのような振る舞いをするのかを先行作であるトラヤヌスとクルセイダーズを比較し検討している。
マンカラを使ったゲームは、他にもファイブトライブス、ゴールドウェスト等あるが「個人ボード上でアクション選択としてマンカラを用いる」と言う部分で、先の2作に焦点を当てている。

トラヤヌス

トラヤヌスはマンカラの終点でアクションをする。
そのため「始点の駒の個数」は参照しない。

動かした駒数分ラウンドトラックが移動するため、全く参照しないわけでは無いが、個々のアクションに影響するわけではないため「参照しない」としている。

駒の移動がどこで終わるかだけを考えれば良い。
これだけであれば実はそこまで複雑なパズルは要求されていない。
やや制限のあるロンデルくらいのものだ。

ただしトラヤヌスには色合わせパズルがある。
マンカラ駒の色を参照して、指定された2色が終点の箇所で並んでいるとボーナスがもらえる。これがパズルをかなり複雑にしていると考えている。
そして、その複雑性は個人的には快感よりも負担が大きいと感じていた。

クルセイダーズ

クルセイダーズは、トラヤヌスとは逆で「始点の駒の数と場所」を参照する。
なのでアクションを打ちたい場所に駒を集めれば良い。
ただマンカラはその特徴として「ある箇所の駒は1個ずつ増えていく」というものがある。一度に一箇所へ2個も3個も駒を集めることは出来ない。
そのため「どれくらいパワーを溜めたら打っちゃうか」がクルセイダーズのマンカラパズルのジレンマである。
その緩和や変化のために
・アップデートアクション:アップデートすることで一箇所で異なる2つのアクションにパワーを割り振れる
・種族能力:マンカラ駒の特殊な動かし方

を追加している。

特にアップデートアクションはパズルをかなり軟化させていると考える。

Ostia

Ostiaでは始点で資源を生産し、終点でアクションを行う。
「生産した資源とアクションで必要な資源が一致せず、その手番で消費出来ない」というズレがあり、これがメインのパズル性、複雑性となる。
そこへ
・駒数の増加
・2パワー駒
・ダブルアクション(監督)

を追加し、より楽しめるように調整している。

駒数の増加

トラヤヌス、クルセイダーズ共に、マンカラ駒の個数はゲームを通して増えない。12駒固定である(クルセイダーズの一部種族は除く)
これはおそらくマンカラ自体がかなり複数なパズル性を有しているためだろう。
またクルセイダーズの場合、駒数増加は他のアクションに比べ単純に強すぎるため採用を見送られたのかもしれない。トラヤヌスではそもそも駒数を増やす意味が薄い。
対してOstiaでは、造船アクションによりマンカラ駒を9駒→13駒まで増やすことが出来る。
トラヤヌスやクルセイダーズに比べて少ない9駒を初期設定とし、そこから増やしてるわけだ。
駒数増加によって、マンカラ自体の拡大に繋がり、資源生産が増え快感が増す。
ただもちろん複雑性も増す。
何度かテストを繰り返し、最大13駒が複雑性の限界だろうと判断した。

2パワー駒

マンカラの駒数は造船アクションによって最大4駒増えるが、造船アクション自体は7回まで打てるようになっている。
打った分そのまま7駒増えないよう、2パワー駒(生産で2個分の資源を産出する)を取り入れている。
・駒数増加の抑制
・2種類のマンカラ駒のパズル(トラヤヌスの色合わせパズルよりも簡単なパズルの導入)

この2つの狙いがある。

これにより、作者の考えるパズルの複雑性は
クルセイダーズ<Ostia<トラヤヌス
になっている。

ダブルアクション(監督)

トラヤヌス、クルセイダーズには無いアクションとして「ダブルアクション」を搭載している。
搭載の経緯としては、初回テストでは別々になっていた「建築」「マンカラ強化」の2つのアクションが、他のアクションに比べ魅力が薄かったために「建築&強化」の1アクションに集約されたことによる。
空いた1アクションに何を入れるかというところで、元々のオーソドックスなマンカラにある追加アクションを導入した。
このダブルアクションによってマンカラらしさと上手くやった時の快感の2つが実現出来てると思う。
「ダブルアクション強すぎない?」
と言われることもあるが
・生産は1回、アクションは2回という非対称性により、資源が足らなくなる
・マンカラ自体が難しくてそもそも連発できない

と言う性質で「確かに強いけど強すぎない」と調整している。
強めのアクションは「このアクションを打ちたい」という感情を想起させ、プレイヤーの短期的な目標や動機付けに繋がってくれる。
各アクションに(多少の)強弱があることはゲームに良い作用を及ぼしてくれるのだ。
同じマンカラであっても、このダブルアクションはトラヤヌスやクルセイダーズでは無かった実装のため、より差別化が図れたのではないかと考えている。

終了トリガーの設定

トラヤヌス:ラウンド制(手番で動かした駒の数だけタイムトラックが進み、トラック1週で1ラウンド)
クルセイダーズ:トリガー制(共有勝利点プールから勝利点を減らしていきゼロになったら終了)
Ostia:トリガー制(複数の終了トリガーが設定されている)
となっている。

トラヤヌスはとても良いゲームだが、このラウンド処理だけはあまり良くない。煩雑で処理間違えを起こしやすい。
そもそもラウンド制は
規定ラウンドで終わる
ラウンド間処理(収入、決算、支払い、イベント、クリーンナップ等)
のいずれか(またはどちらも)の必要性に迫られて選択するものであり、そうでなければトリガー制への優位性は薄い。
トラヤヌスの場合、支払いイベントとクリーンナップがあるため導入されている。

クルセイダーズはあまり他では見ない特殊な終了トリガー制だ。勝利点プールからどんどん勝利点が減っていき、空になったらゲームが終了する。
「皆して勝利点を減らさなければゲームが間延びするのでは?」という、トリガー制の持つ弱点が無いわけではない。
ただマンカラの性質上、ある程度満遍なくアクションすることを強いられるため、クルセイダーズに関して言えば大きな問題とはならないだろう。

Ostiaでは、5つの終了トリガーを設定している。これは他のゲームに比べると多い方である。
必ず終わる
各アクションの価値が終盤まで変わらない
の2点により5つも設定されている。
だがこれも「自然と遊んでいれば必ず終わる」ためには必要な措置であった。
そもそも、マンカラをアクション選択に用いる以上「ある程度満遍なくアクションを打つ」ことを求められる。
そうなると、他のゲームで見られるような
序盤は拡大行動、終盤は勝利点行動
のように分けることが出来ない。
序盤から終盤まで、どのアクションにも打つ価値を持たせないとならないからだ。
そのため、全てのアクションの価値を担保する意味でも「そのアクションを打てるだけ打ったらゲームは終わり」とする必要があった。
終了トリガーの種類は多いが、実際に混乱するほどでは無いと考えている。

メインボードの変更

初期テスト段階では、メインボード上を船がグルグルと周回し、ピックアンドデリバリーをする形であった。
詳細は割くが、いくつか問題点があり噛み合っていなかった。
別パターンを試すも上手く行かない、というテストを数回続けてくうちに、うちばこや氏から「ニュートン的なボードはどうでしょうか」と提案される。
ニュートンのボードは、言ってしまえば「枝分かれするすごろく」であり
・早取りのインタラクション
・枝分かれによるミニレース化
・複数の駒を同時に動かすことでの歩数調整(どのマスで止まらせるか?)
・長期的目標(ゴール)と中期的目標(途中マス)の提示

というこのゲームに必要な要素が全て揃っているメカニクスであった。
そしてこれがバチっとハマる。

ニュートンを取り入れたメインボード。各マスにはタイルが配置される。

中重量級のゲームシステムデザインでは「適切なメカニクス探し」と「各メカニクス同士の接合」が非常に重要な過程であり、ここに大半の時間が割かれている。
特徴的なコアメカニクスを思いつくかどうかよりも、それをどう活かせるかのが面白さへの影響が大きい。
アクアガーデンでのタイムトラック形式もうちばこや氏案であり、とにかくうちばこや氏はこの「適切なメカニクス探し」がめちゃ上手で、ディベロッパーとして凄く助けられている。

テーマの決定

ニュートンのボードを取り入れたことで背骨が一本バシッと入り、完成までが朧げながら見えてきた(と言ってもこの段階では完成率は6-7割)
ここで、明確な舞台や世界観を決めようと言う話になる。
舞台や世界観はシステムにも影響を与えるため、早めに決めおかないと細かい詰めの作業が進まなくなる。
そこで、Amalfiの時もご協力いただいたぷがさんに話を持って行った。
「マンカラメカニクスで、プレイヤーは商人で、船を航海させるテーマなんだけど何か良い舞台は無いかしら」
と相談したところ、ここはどうだろうと提案されたのが「オスティア港」であった。
オスティア港は
・古代ローマの港である
・トラヤヌス帝が関わっている
・実際に六角形の形をしている

という特徴を持つ。
もうマンカラテーマにはこれしかないでしょ! というくらいの舞台設定である。
ドンピシャの世界観を用意してくれたぷがさんには本当に感謝しかない。ありがたすぎる。

オスティア港。wikiより

その後の細かい設定もぷがさんに全てお願いしており、また
「こんなシステムを入れたいんだけど、世界観的に合うものはあるか?」
と言った相談をしながら、ボツにしたり取り入れたりを繰り返してシステム制作を世界観設定と並行して進めていった。

アートワークの決定

完成版のOstia

今回も箱絵をウラベロシナンテさん、メインアートワークを別府さいさんにお願いしている。
アクアガーデンと同じタッグだが、雰囲気は大きく異なり、可愛い系よりオシャレで重厚感のあるイメージで制作してもらっている。素晴らしい仕事には感謝している。
またアップグレードキットや拡張に関しては、アートワーカーとしてうちばこや社員であるたっつんさんにも入ってもらった。彼もとても能力が高く、非常に信頼のおけるアートワーカーだ。
システム、アートワーク・イラスト、コンポーネント、どれが欠けてもボードゲームは最大限の魅力を伝えられないと考えている。
今回も素晴らしいチームで一緒に仕事が出来て嬉しい限りである。

βテストの実施

アートワークもほぼ完成したところで、テーブルトップシミュレーター(TTS)上でのオンラインβテストを行った。
βテストはとても有意義で、テストしていただいた皆さまからありがたいご指摘がいくつもあった。
その中でも、インタラクションについては大きめの変更を加えている。

Ostia、遊んでいただいた方なら分かりやすいと思うが、このゲームとにかく「打ちたいアクションを打ちたい時に打てない」システムである。
つまり短期的な対応(次の手番はこうしたい)がかなり難しく、「他者からの干渉に自分の手を歪めてでも対応する」というインタラクションの実装が出来ない。
そのため中長期的なインタラクションを実装している。
具体的にはマイルストーン等による各種の早取りインタラクションである。
Ostiaは全体的にソロ寄りのシステムであるが、勝利点に関してはこの早取りがそれなりの比重を占めるため、他者を無視出来ない造りになっている。

Kickstarterプロジェクト

アクアガーデンに続き、uchibacoyaでの2回目のKickstarterとなった。
皆さまからのご協力により約2580万円のご支援をいただいた。本当にありがとうございます。

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