ボードゲームのブログ・記事・レビューを読もう
この記事はBoard Game Design Advent Calendar 2020の1日目の記事として書かれました。
Board Game Design Advent Calendar2020。
今年の先陣を切らせていただきます戸塚中央と申します。
私はとにかくボードゲームに関するブログや記事を読むのが大好きで、ほぼ毎日暇さえあれば読んでおります。もちろんこのBoard Game Design Advent Calendar も毎年全ての記事を拝読しています。
せっかく1日目に名乗りをあげたわけですから、その座に相応しい内容にしたい所存です。頑張ります。
ということで、明日から続きます皆様のAdvent Calendar を含め、ボードゲーム関係のブログや記事に関してデザイナーとしてどう受け止めどう吸収しようかという内容について記そうと思います。
読む際の心得、までは行かずとも、私が普段何を考え何をメモして読んでいるのかという事が伝われば幸いです。
インプット方法
インプットとアウトプット。
よく聞く言葉ですね。特に説明は無くて良いでしょう。
ボードゲーム製作に関して、インプット方法は大きく分けて下記の3つにあると思っています。
①ボードゲームを遊ぶ
②ボードゲームを調べる
③ボードゲーム以外の全て
③に関しては、デジタルゲーム、小説や映画、芸術やスポーツ、日常生活も含めたその他諸々の全てです。これらが面白いゲームを生み出すのに必須だ、という人から、そうではないという人まで様々だと思います。
稀によくある言説として「良いゲームを作りたいなら、ゲーム以外の趣味を充実させなさい」といったものを見かけますが私は採用しません。
個人的に「他にも持ってた趣味がボードゲーム製作に活かせた」ならまだしも「ボードゲーム製作へ活かすため違う趣味へ力を注いだ方が良い」はあまりしっくり来ないからです。
知見を広げるという行為は、それ自体に楽しさが無いと継続するのは難しいと思っています。
もちろん仕事として食ってくためにやるなら話は別ですけれどね。
仕事だと上司の指示だったり資格を取らなきゃだったり客先の要望だったり、特に興味を持てない分野でも就業内のみならず就業外の時間を使っ……失礼、話が逸れてしまいました。
①は語るまでもありません。
百聞は一遊にしかずです。
ですが、実際遊ぶ時間をどれだけ取れるかというと中々にハードルが高いと思います。もちろん最近はソロルール同梱ゲームも増えてきたので、一人で黙々と回すことも可能といえば可能です。
それを踏まえてもやはり一人だと遊べにくい、インプットしにくいという壁が立ちはだかります。
②の方法はその点気軽です。
隙間時間にスマホを眺める。好きなブログや記事を読む。BGGにある説明書を読む。気になるゲームを調べる、レビューを読む。
私はただ単に好きでやってるだけなのですが、これらもインプット方法の一つとして非常に有効だと考えています。
引き出しを増やす
そもそも、インプットによって自分の中で何が変わるかといえば「引き出しが増える」ということでしょう。
現に私は、引き出しを増やしたいな、増やせると良いな、という気持ちで記事やブログを読むことも多いです。
私の中でボードゲーム製作に関する引き出しは二種類あります。
「技術」と「感情」です。
これらは地続きと言いますか、感情のために技術があると考えています。その境界は明瞭ではなく、グラデーションのように混じりあっています。
どんな記事を読んでるのか
(敬称略、順不同)
ゴクラキズム、The Game Gallery、たっくんのボードゲーム日記、今日もプレイミス、ととろの最下位日記、ひだりの灰色、キャッチーでいてください、酒すごろく、ある元心理カウンセラーのボードゲーム日記、ふうかのボードゲーム日記、ニコボド、ボードゲーム大好き坊主、ぼくとボドゲ、board game map、SNDUCKnote、arsenic note、HIKAFRE BLOG、シュピール観、部屋とボードゲームと私と酒と泪と男と女、うらまこのボドゲ あれこれ、くまさんのボードゲーム日記、遊星ゲームズ、Table Games in the World、ボドゲーマ、etc etc……
ごく最近読んだのを思いつくままに挙げさせていただきました。これ以外にも大量に読んでおります。筆者の皆さまありがとうございます。
その中でもいくつかの記事を具体例として挙げ、読んだ時に私が何を感じ、何をメモしたのかを記したいと思います。
技術について
ボードゲームは様々なシステム・メカニクスを持ちます。どのようなギミックがあるのか、そのメカニクスはどう働くか、また全体を通して何を意識してデザインすべきか。
ミクロからマクロまで、実際のシステムデザインに関して役に立つ内容を「技術」と区分しています。
例えば、上杉カレーさんの記事は「技術」に関する内容が非常に充実していると思っています。このnoteを読んでらっしゃる多くの方が一度は目を通されたことがあるでしょう。
もちろんBoard Game Design Advent Calendar の多くも技術に関する記事の筆頭です。
技術メモ:マクロ
まずここでは、友人でもあり一読者でもあるTakeWatchさんの「精神科医のボードゲーム日記」をマクロな、あるメカニクスについて総合的に論じた、具体例としてあげさせていただきます。
この記事はタイトルにもある通りヌースフィヨルドのレビュー記事です。
その中の「(8)株要素」を引用いたします。
株式の定義は、株式会社の構成員の特権のこと
株主は資金を支払い、権利を買っている
株券発行者は、資金をもらうために権利を売っている
では、どういった権利か
筆者は以下の3権利に分解して理解している
(1)アクション権の移譲 (アクションの権利)
(2)配当金の分配 (配当を得る権利)
(3)市場価格の上下 (権利を売買する権利)
いいかえると、
・株式会社の経営決定に口をはさむ権利
・会社の報酬から配当金をもらう権利
・上記の2権利を、他者と売買する権利
この現実世界における3種の権利のやりとりをゲーム上でやるのが株ゲームだと筆者は定義する
お読みいただいた通り、株ゲームの定義に関して非常に分かりやすくまとめられています。
記事内では、以降実際のゲームの名前を挙げながら各要素の組み合わせによってどのような効果を生み出しているのかが論じられています。
とても勉強になる素晴らしい内容です。
こういった記事に関しては、一読しただけではその全てを理解することが出来ないため何度か読み返すことが多いです。時間が経ってから読み返すと新たな発見があります。筆者の理解の深さに感銘を受けるばかりです。
この記事に関してのメモは
株ゲームについて:精神科医のボードゲーム日記 ヌースフィヨルド参照
とだけ記載しています。
思考の整理というよりいつでも読み返せる索引の役割ですね。こういった索引メモもよく作っております。
技術メモ:ミクロ
次はミクロな、あるゲームの一つのギミックに注目した例を挙げたいと思います。
紹介いたしますのはイカさんのBoardgame-overReview「エンチャンターズ|ボードゲームの紹介」の記事です。
私は未プレイのゲームなのですが、とても分かりやすく記載されてるためゲームイメージが非常にしやすいです。読んでいてワクワクしますし、遊びたくなってきます。素晴らしい記事です。
そして、このゲームの中に個人的に興味深いギミックが盛り込まれていると感じたためメモを取りました。
本noteを読み進める前に、是非とも記事の内容を読んでいただき、私がどのギミックをメモしたかを予想していただけると幸いです。
……お読みいただけたでしょうか。
では、記事内で挙げられているエンチャンターズのギミックをいくつか列挙しましょう。
・二つのカードを並べて、一つのアイテムを作らせる
・カード能力は上書きされるが、下部のアイコンだけは見えるようカード重ねるため累積効果と上書き効果に分けられる
・プレイ人数分のデッキをゲームに用いるため、カード枚数と手番数が人数によって変更されない
なんだかこう、箇条書きしただけで良いゲーム感が漂いますね。デザイナーの手腕が唸ります。
これらはとてもユニークで面白いギミックだと思います。
ですが実はメモには取っておりません。
上記のギミックはとても面白いんですが、同時に「エンチャンターズっぽさ」に大きく寄与しているギミックだと感じました(ごく個人の感覚なのでもちろん他の方は違うと思います)
つまりもし私がこのギミックを同じように用いると「エンチャンターズっぽさ」が付き纏ってしまうのでは無いかという懸念です。そうするとやはり流用はしにくくなります。
ギミックの引き出しを増やす場合には、なるべく使い回しが効くものをと考えています。
では私はどこをメモしたのか。
戦闘による負傷は、1ダメージにつき「マイナス1勝利点」として扱われます。
この部分です。なぜここなのか。
読んだ時に考えたのは以下の内容です。
・ダメージ=マイナス勝利点として扱う事で「HP」という概念を無くせる
・HPが無ければ「回復」という概念も無くせる
・協力ゲームなら回復役を登場させるメリットもあるが、対戦型なら回復は必須でない
・ゲーム終了時に参照する勝利点というリソースを使う事でゲーム中の「ダメージ」に対するストレスを変えられる。つまりダメージを受け過ぎればゲームには負けるが、ゲーム中のマイナス効果や回復等、テンポを悪くする要因を減らせる
等です。
そして実際にメモした内容は以下の通りです。
各自モンスターを倒す対戦型のゲーム
→ダメージを受けた時にマイナス勝利点を受け取らせる
→HP、回復の概念を無くせる。協力型とは異なるアプローチ(Boardgame-overReview、エンチャンターズ参照)
自分が読み返して分かれば良いのでかなり簡略化しています。
もちろん実際のエンチャンターズでは全然違うギミックとして働いてる可能性もあります。ですがそこは重要ではありません。
「引き出しを増やす」が目的だからです。
こんな風に、気になったギミックは片っ端からメモしています。
プレイヤーとユーザー
続いて「感情」について書こうと思うのですが、その前にプレイヤーとユーザーという単語の使い分けについて記しておきます。
似たような単語でありますが、私は
プレイヤー:ゲームをプレイしてる時
ユーザー:ゲームをプレイしていない時
と分けて使っています。
具体的に言うと「店頭やWEBで見かける」「箱を開ける」「タイル抜きをする」「コンポーネントを並べて内容物を確認する」「箱に綺麗にしまう」「棚に並べる」等。
これらの時間はプレイヤーでなくユーザーです。
感情について
感情とは「プレイヤーまたはユーザーがどう思ったか」です。そのまんまですね。
この感情に関しては、記事を読むことが実際にボードゲームを遊ぶより優れている点があると考えています。
それは「他者の感情が分かる」という点です。プレイする場合だと同卓者以外の感情はなかなか知れません。
プレイヤーやユーザーはどんな時に感情が動くのか。そのゲームを通してどう思うのか。
これが、私がボードゲームを製作するにあたっての重要な指針となっています。
記事やブログ、レビュー。筆者が文章として出力したものには少なからず感情が乗ると思っています。ルール説明の記事ですら「どんな風に、どんなところを強調して説明するか」に感情が含まれています。
そのため先に引用しました「精神科医のボードゲーム日記」も「Boardgame-overReview」も感情部分に注目して読むことがあります。
今回はさらに、個人的にとても分かりやすく感情が表現されているブログを例として挙げたいと思います。
それがコモノックスさんの「ぼっちのボビーブログ」です。
紹介しましたのはハリウッドセンセーションの記事です。プレイレビューではないため、ユーザー目線の記事と言えるでしょう。
全文を通して読んでいただきたいのはもちろんなのですが、具体的に何箇所か引用します。
メカニクスとしては2人用のトリックテイキングで、マストフォローの切り札なし。と、ゲーマー向けに説明するといつもの感じ。ゲーム自体は3ラウンド制ですが、3ラウンドを待たずに決着がつく場合もありますよ。2ラウンド目以降では手札枚数の調整が入るので、疑心暗鬼が生まれるのも面白いトコです。
得点トラックはレッドカーペットだそうです。なんかちょっと嬉しくなってしまいますな!小箱なんだけど豪華感あるね。
プラスの評判もマイナスの評判もギリギリ程よいところで手を引かせるという、微妙な駆け引きが生まれるという訳ですな。
イラストは坂本奈津希さん、グラフィックデザインは別府さいさんが担当されてますな。イラストレーターの方のお名前は初めて見る方ですが、結構好みです。銀幕感溢れております。
なるほど。
コモノックスさんは枚数調整や引き取るカードの妙、レッドカーペットを模したトラックや銀幕感のあるイラストに心が躍ったんだだな。
と私は考えます。
この記事はゲームの魅力だけでなく、このゲームを受け取ったユーザーがどのような部分でテンションが上がった(感情のピークがあった)のかが、とても分かりやすく書かれています。
これがコモノックスさんのブログの素晴らしいところです。
去年直接お会いした時にも「コモノックスさんの記事はどこでご自身が盛り上がったのか非常に分かりやすく書かれており、いつも参考にしています」とお話ししたことがあります。
ただ実際にメモには取りません。取らないというより上手く取れません。メモとして残して流用するには中々に難しいのです。
ユーザーのある感情を具体的に文章化言語化するのではなく、もっと抽象的な感覚で自分の中に蓄積させていきます。
そのためコモノックスさんの感情の動きは非常に参考になりますが、メモはせず1つの例として捉えます。そしてさらに多くのプレイヤーやユーザーの感情の動きやピークをブログやレビューを通して集め、その数を増やしていきます。
そうすることでプレイヤーやユーザー、というより“ヒトが“どんな時に快感を得るのかというのを自分の中に形成していくのです。
私がブログや記事を毎日読むほど好きな一番の理由はこれです。
「ヒトはどんな時に楽しいのか」
それをボードゲームを通して得て、ボードゲームに還元しています。
まとめ
ボードゲームのブログや記事を読むと、プレイしたことのないゲームを知ること、また技術的な知識を増やすことが出来ると思っています。
そして何より“自分以外の“プレイヤーやユーザーの感情の動きも知ることが出来ます。
ボードゲーム製作に関する技術は「ゲームを魅力的にするため」のものです。
いくら技術を集めても、その使い道が分からなければ宝の持ち腐れだと思っています。
そのため私にとっては技術と同じくらい「プレイヤー・ユーザーがどんな時に魅力を感じるか」を自分の中に形成することが非常に重要なのです。