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宝箱のようなザクロが好きだった話。

大学から家までの帰り道にふとザクロの木を見つけた。ザクロ…あまり目立った果物ではないかもしれない。ザクロ酢やシャンプーの成分として見かけることはあっても、スーパーで実を売ってるわけでも、好んで食べられるわけでもない。それでも僕はこの果物のことが大好きだった。それはRPGの宝箱のような果物だったからである。

ザクロを好きになったのは小学校の頃のこと、好きになったのはその生えていた場所の影響が大きい。その場所は学校の敷地の四角の一つだった。しかも、校舎の裏側、校庭とは反対側の職員用駐車場がある場所。2つの事務用品倉庫に囲まれて普通絶対入らないような空間にポツリとその木はあったのである。

誰も踏み入れることのない未踏の地に生えている針だらけの謎の木、しかもそこにタコさんウインナーのような不思議な花が咲いているとなれば、見つけた瞬間に好きにならざるを得ないだろう。RPGのマップをしらみつぶしに見ていった先にやっと見つけた宝箱のような存在に思えた。

しかも、である。タコさんウインナーのような花はやがて膨らんでタコのようになっていく。タコモチーフで進化していくその様はさながらポケモンのようで、ますます期待値が高まっていった。そして、パカッと実が割れると中には本物の宝箱さながら、透き通った赤い実がビッシリと詰まっているのである。まさか、宝箱から本当に宝石が現れるなんて!!期待以上のRPG展開に小学生の僕の心はワクワクが止まらなかった。

急いでその実を教室に持ち帰り、自慢げに先生に見せると、それがザクロという植物で果物であることが発覚した。恐る恐る食べてみると、プチっとなってシャリシャリっとした食感と少しの酸味。それは正に果物の味だった。自分と仲間だけが知っている秘密の場所で自分だけの特別なデザートを見つけたのだ!しかも割と無限に確保できる。1ヶ月は給食に秘密のデザートがつけられるだろう!これはお菓子もゲームも持ち込めない小学生にとって大きな事件であった。自分の冒険の結果が自分のおいしい思いにつながることなんてめったに起こることではないのだ。

こうして僕はザクロを好きになった。とは言っても小学校でしか見かけなかったので卒業以来食べていない。小学生でもない今は公園などで見かけたとして食べることは叶わないし、スーパーでも見かけない。
それでもザクロの輝きは衰えない。今でもあの味や食感、そして喜びを思い出せるのだ。いつかまた口にする日が来るといいな。

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