▼資源リサイクル業解体新書~カーボンニュートラルが生む激変にチャンスあり~

 静脈産業とは・・・使用済み製品を回収し、再使用、再生利用、適正処分を行う産業。ざっくり言うとリサイクル産業というともう少し馴染みが深いでしょうか。
 一方で、資源を採取し、加工して製品を製造し、販売する産業を動脈産業と呼びます。

 地球温暖化防止への国際社会の取り組みは、「ゼロ・カーボン」、「カーボン・ニュートラル」のキーワードと共に、21世紀の政治・経済の主要テーマとなっています。そしてその影響は鉄スクラップをはじめとしたリサイクル業界にも強い影響を及ぼしています。

 ということで今回は資源リサイクル産業について、わかる範囲でまとめてみようと思います。

 (冒頭は静脈産業って使ってみたかっただけなので、ここからはリサイクルと記載しますwww)

■鉄スクラップについて

・未来技術~COURSE50

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 現代の高炉製鉄法は化石燃料を還元剤として使う(コークス製鉄法)から、その過程で大量の二酸化炭素を排出します。世界の鉄鋼業界が「ゼロ・カーボン」対策として取り組もうとしているのが、(長期的には)還元剤として、コークス(石炭)の代わりに水素を使う「水素活用還元プロセス技術」、頭文字をとって「COURSE50(コース50)」と呼ばれる技術です。(関連銘柄リンク)

 「製鉄プロセス」全体におけるエネルギー消費の割合は、高炉を含む「上行程」が約8割を占めています。この部分で省エネとCO2削減が進めば、鉄鋼産業全体のCO2排出量に、大きなインパクトを与えることができます。

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 「COURSE50」は、この高炉を使う製鉄プロセスの「上行程」に関して、低炭素化を図ろうとするものです。「COURSE50」は、以下の2つの技術で構成されています。

①「高炉水素還元技術」

 石炭を蒸し焼きにしてコークスにする時、そこから排出されるガスの中にはメタン(CH4)も含まれています。このメタンから水素(H)を取り出して、高炉に投入するコークスの役割の一部を代替させます。つまり、水素(H)を、鉄鉱石「Fe2O3」の酸素「O」と結びつけて水(H2O)を作ることで、鉄鉱石から酸素をとりのぞく「還元」をおこなうわけです。

(従来) 2 Fe2O3 + 3 C   →  4 Fe + 3 CO2
(還元)    Fe2O3 + 3 H2 →  2 Fe + 3 H2O

②「CO2分離回収技術」

 水素で「還元」を一部代替させるとはいえ、高熱で燃焼させるためにも高炉へのコークスの投入はやはり必要です。しかしそうすると、前述した通り、「還元」でCO2が発生してしまいます。そこで、高炉が排出するガスの中からCO2を分離し、回収します。

 これらが実現すれば上工程における製鉄プロセスの二酸化炭素排出量を大幅に排出することができます。

・現在の動き~電炉操業法と中国

 といってもここまでの話は長期的な研究開発となるわけで、当面の対策として注目しているのが、先進国で大量に発生する鉄スクラップを使って製鋼する電炉操業法の活用にシフトしています。特に2021年は鉄スクラップを取り巻く環境は大きく変わっていて、1月より、世界の粗鋼生産の半分以上を占める中国は25年には電炉操業率を約10%から20%超とする大幅引き上げと鉄スクラップの積極的な活用に舵を切りました。それが顕著に表れたのが21年春以降の鉄スクラップ輸入政策の変更です。その結果、日本から中国向けの鉄スクラップ輸出は一気に増加に転じ、リサイクル産業に対する注目は一気に高まっています。

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 (輸出入のやり取りが多いために海運価格の高騰には一定の影響を受けますので、こちらも併せてチェックしてあげるといいかもしれません。)


■鉄以外のスクラップ(非鉄スクラップについて)

 プラスチックや木材など様々ありますが、特に注目されているのがレアメタル資源の再利用です。近年、自動車のEV(PHV)シフトによって、半導体やレアメタルなど、様々なものの需要が急速に高まってきています。

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 日本は鉱物資源のほとんどを輸入に頼っていることから、鉱物資源の再利用に対する意義は非常に大きいものとなります。

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 車体価格の1/3を占めるとされるリチウムイオン電池には、リチウム、コバルト、ニッケル、グラファイトなどのレアメタルが使用されています。また、駆動モーターにもジジム、ジスプロシウム、(その他レアアースではないですがコイルに銅)などが使われており、これらの需要は近年急速に高まってきています。

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以上の理由から、資源リサイクル事業は国策ともなっており、最近注目を集めています。

■個別銘柄について

ここからは個別銘柄についてわかる範囲で触れて行きますが、おそらく漏れも多いと思うのでご容赦ください。

・リバーHD

 リバーHDは静脈産業における再編統合の主体となるプラットフォーム(リンク)をつくり、業界再編・統合を進めることで日本発の静脈メジャーを目指すために2017年、2019年に産業革新投資機構(INCJ)から支援を受けています(リンク)
 従って、リバーHDは日本のリサイクル産業の中心にあり、今回のnoteでは絶対に外してはいけない会社だと思います。

 同業他社との繋がりとしては、今年の5月にタケエイと共同持株会社設立による経営統合に関する統合契約書の締結と株式移転計画を発表しており、10月に統合を予定しています。
 それ以外にも2014年よりエンビプロHDと業務提携をして、2018年にはエンビプロHDからの出資を受けていたり(リンク)、産業革新投資機構を通じてベステラ、東京鐵鋼、イボキンもリバーHDの株を持っています。

 リバーHDの強みとしては、在庫保有期間が非常に短く(3-4日)、リスク在庫を抱えていないため、販価動向の市況変動リスクがない点にあります。
 また、国内リサイクル対象物の最大の排出圏である関東で30基の大型シュレッダーのうち6基を保有して最大のシェアを誇ります。この大型シュレッダーの設営は自治体の許認可制で、その認可取得には4-5年かかるため、参入障壁は高いです。さらには今後3年間で60億円の投資が計画されている点からも今後の成長が期待できます。

 決算説明動画は⇒(リンク)

・エンビプロHD

 エンビプロの強みは高度な破砕選別加工技術を持っていて、加工を伴っているため付加価値の高いものを再生産することができるため、利益率が高い点にあります。
 また、2014年時点では静岡県を中心に北海道、長野県、愛知県に生産拠点7カ所、全国各地の主要な港に集荷拠点が12カ所、中古自動車および中古自動車部品の販売拠点として、UAE、チリ、ウガンダに海外現地法人を設けています。
 プラント数は業界でも多く、商品の量を増やす分高く買ってもらうことでさらに利益を確保しています。
 規模としては国内でも大手になるのではないかと思います。

 エンビプロHDでは現在成長分野としてリチウムイオン電池の高純度レアメタルリサイクルに投資をしています(リンク)。従来方式と比較して大幅に低コスト高効率であることから、これまで難しいとされていた同分野の事業化、および黒字化に成功しています

 決算説明動画は⇒(リンク)

・イボキン

 拠点は兵庫で大阪・兵庫といった関西圏に強いのがイボキンです。
 事業としては資源の発生元となる顧客ならびに排出事業者から、建築物の解体工事や設備撤去工事を直接請け負う「解体事業」、解体工事現場や工場などから発生する鉄や非鉄などを収集、金属系再生資源を製造販売する「金属事業」、木材やプラスチックまたは家電、小型電子機器等の複合素材を加工・選別する「環境事業」を3本柱として事業運営を行い、解体から最終処分までを自社で完結できる「ワンストップ・サービス」を提供できることが強みです。

・アサカ理研

 アサカ理研は2014年8月にレアメタル、レアアースのリサイクルに関する研究開発拠点である「生産技術開発センター」を竣工し操業を開始しました。独立行政法人日本原子力開発機構と共同研究したエマルジョンフローを用いた新しい溶媒抽出技術等を活用しています。この技術は排水への溶媒混入も少なく、環境的にも優れたシステムで、低コストでレアメタル、レアアースをリサイクルしています。

 アサカ理研の強みとしては錫、タンタル、ランタン、ガドリニウムです。
 錫スクラップは各種処理工程を経て99.9%以上の錫地金まで加工していきます。タンタルスクラップも同様に99.99%以上のタンタル製品まで仕上げることができます。ランタン、ガドリニウムでも同様ですが、スクラップから製品化までアップグレードリサイクルを行うことができるという点に強みがあります。
 また、アサカ理研の創業時はプリント基板製造工程で使用されるエッチング液の製造販売及び廃液から銅を回収する環境事業からスタートしています。ここから貴金属回収、精密電子部品の治具洗浄と、主にエレクトロニクス業界を対象に業務を拡大してきています。さらにはリチウムイオン二次電池からのコバルト、ニッケル、マンガン、リチウムの回収事業などにも取り組んでおり、専用プラントも立ち上げました。こちらは2022年1月から回収装置の試運転に入り、本格操業は同年後半を見込んでいます。モバイル機器などの電池から始め、2-3年後に電動車などからの回収が増加してきたら、前処理を国内数社へ委託することも視野に入れています。将来的には国内の他の地域や、海外に回収装置も含めた工場を建設。地域でレアメタルを回収する体制をつくり上げたい考えです。(リンク)

・松田産業

 松田産業は特に東南アジアで貴金属製品の販売と原料回収のネットワークを構築しており、現在ではシンガポール、タイ、フィリピン、中国(蘇州)、マレーシア、ベトナム、台湾に現地法人を設立しています。主要顧客であるエレクトロニクス業界は、近年東アジア地域がその中心地域となっており、東南アジアのネットワーク構築による効果は今後も高まっていくと思われます。(リンク)

■最後に

 これ以外にも書ききれませんでしたが、燃料電池分野でパラジウムや白金、半導体にモリブデン、錆に強く比較的軽いので錆耐性が求められるボディなどにチタンなど、様々な用途にレアアースが使われています。レアアースやそれ以外にも銅や鉄、その他に関しても埋蔵量というのはあるので、無限に採掘することはできません。従って、これらの資源リサイクルの需要というのは高まっていくものと思われます。
 日本は資源リサイクルとしては世界でもトップクラスの技術を持っており、今回取り上げた会社(取り上げられなかった会社)も国内外で高く評価され、その地位を築いていたりします。

 今後もこの資源リサイクル業界、長期的に楽しめる分野かと思うので、注目してみてはいかがでしょうか。


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