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コンプレックスだった「何もない自分」。それが「強み」へと変わった現在地

メディア制作部の制作ディレクター・齋藤 萌さんは、その可憐なお名前のとおり、フワッとしたかわいらしさと柔らかな空気感をまとった女性。同僚のことをいつも気遣い、中途入社したばかりで震えていた私に優しいメールをくれたこと、忘れません。加えて、誰よりもストイックな人です。優しくて、強い。今回、その相反する魅力を探るため、お話を伺いました。

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――齋藤さん、今朝も出社が早かったですね。「今日こそ一番乗り!」と思っても、齋藤さんが必ずいます。

そうですかね(笑)。朝8時ごろには会社にいるようにしているんですが、それは新卒で入った前の会社時代からの習慣なんです。まだ自分は何もできないから、せめて誰よりも早く行こうと心がけていて。もう社会人9年目、東洋経済新報社に中途で入社して5年目ですが、その意識が抜けないんですよね。


――今や何もできないどころか、誰よりも案件を抱えているともっぱらの評判なのに、ストイックすぎです! 前職ではどのようなお仕事をされていたのでしょうか。

法律系の専門出版社で、法令集などを編集していました。堅苦しい仕事のように思われがちですが、意外と泥臭くて、面白いんです! 毎日のように霞が関に通っては、「次はどんな法律ができそうですか?」とか「今回制定されたのは、どういう内容の法律なんですか?」と官僚の方々に取材をしていました。社会の動きによって法律が変わるんですよ。国が動く瞬間に立ち会える、刺激的な日々でした。

あと、私はツイッター廃人なのですが(笑)、世の中で何が話題なのかとか、今の潮流ってどっちなんだろう、などとウォッチするのが好きなんです。そういう物事を取材したり、世の中に影響を与えるような面白いものを作りたいと思って、学生時代から出版社を志望していました。


――前職では夜討ち朝駆けのようなお仕事も……! なぜ、東洋経済新報社に転職されたのでしょう。

決められたものを編集するのではなく、自分で企画を立てたい、もっとクリエーティブなものを作ってみたいと思うようになったんです。先ほど、前職で社会の動きによって国が動く瞬間を見てきたと話しましたが、社会の動きって経済がいちばん影響するのかな? とある時思い……。経済が専門の出版社なら、面白いことができそうだぞ、と。
ただ、「メディア制作部の制作ディレクター」とはどんな仕事をするのか、具体的にイメージできていませんでした。
経験してみて思うのは、ディレクターって、地をはうような仕事なんですよね。
クライアントからお題をもらったら、まず記事の企画を立てる。それをどう料理したら、どんな識者を立てたら読者に刺さるのか、理解してもらえるのか。そんなことをずっと考え続けるんです。生活のほとんどが仕事といっても過言ではないかもしれません。
記者の人は、担当企業を極端に言えば意地悪な目線で見ますよね。広告制作の場合は、まずその企業を好きになることが大切。でも、そのよさを伝えたい相手は読者です。だから、客観的な視点も持たなくてはいけません。

――なるほど……。その大好きになった企業のよさは、どうすれば読者に伝わるのでしょうか。

「タイトルで決まる」、これがすべてかもしれません。だから、タイトルは最初に付けるのがいいと思っているんです。すべてが出来上がった後に付けるほうが簡単ですが、自分で据えたタイトルに向けて企画を動かしていったほうが、いいものができる気がします。
例えばなのですが、「大企業がいいことをしました」という記事はつまらないですよね。「○○社がこんなに大盤振る舞いしているその理由は?」とか「ひ弱なエリートとそうでない若者の違いは?」というタイトルのほうが読みたくなりませんか?
ちょっと意地悪なタイトル、マイナスなワードのほうが読まれる傾向にあるんです。「広告だと思わずに最後まで読んじゃった!」というコメントがいちばんうれしいですね(笑)。
広告に対してネガティブな見方をされることもありますが、だからこそ、広告だからとか一般記事だとか関係なく、「面白いから読まれる」ものを作りたい。それが本来クリエーティブの目指すべき姿だと思うし、そういう世の中にしていきたいなと思います。


――齋藤さんといえば、担当の業界が多岐にわたっていますが、エッジの効いた企画も多いですよね。「この企画にこういう人をキャスティングするんだ!」というような。

ありがとうございます……。それはミーハーな性格が生きているかもしれません。広く浅く、いろんなことに興味があるんです。
でも、それが元々は弱みというかコンプレックスだったんですよね。私には「ファッション誌や料理本を作っていました!」というような華々しいキャリアがないですし、プロパー社員でもないので、最初は「東洋経済っぽいものを作る」ことにもピンときていませんでした。でも、最初が何もなかったからこそ、特定のジャンルに限らずいろんなことをやらせてもらえたし、自分でもこだわりなく挑戦することができました。
特定のジャンルがないから、固定観念を持たずに「この企画はこういう人にコメントをもらったら面白そう」とか「こういう見せ方をしたら読者の興味を引くかな」などとアイデアが出てきたのかもしれません。

――「自分には強みがない」と思ってしまうと、時には潰れてしまいそうになる人も多いと思います。でも、齋藤さんはそれを力に変えて、学生時代から目指してきたクリエーティブな仕事を実現させたんですね。でも、毎日仕事のことばかり考えてしまいませんか……?

確かに、生活の大半は仕事のことを考えているかも……。でも、日がな一日眺めていたツイッターをビジネスの視点で見られるようになっただけで、趣味の幅が広がったような気がしています。それまでビジネス書を読む習慣はなかったけれど、取材相手の著書やクライアントに関わるものに興味が湧くようになりました。「自分ごと」として読めるようになったし、世の中の出来事やカルチャーを、ビジネスの視点で見られるようになったんです。休日の趣味であるJリーグ観戦をそういうふうに見るのは、まだちょっと難しいですが(笑)。
だから、これから東洋経済新報社で働くことを考えていて、「自分は経済には弱いかも」とか「取り扱っているものが難しいんじゃないか」と思っている方には、私も頑張れたので自信を持ってチャレンジしてみてほしいですね。


――入社した人間にとっても心強いメッセージです……! では最後に、手探りだった頃と比べて、今、どんなふうに変わってきましたか?

6年目を目前にして、やりたいことが明確に見えてきました。
いちばんは、ニッチな分野の魅力を世の中に発信していきたいですね。大企業や有名商品の広告は読者からの反響もやりがいもあって、もちろん面白いのですが、すでに認知度の高いもののよさは、自分じゃなくても伝えることができるんじゃないか、と思うところもあって。
発信が不得手の企業や地方団体、ニッチなサービスなどを、自分の編集力や発信力を生かして世の中に広く伝えることができたら、本当にやりがいを感じるだろうなと思うんです。だから、ソーシャルグッドや地方創生というテーマに今いちばん興味があります。そういった企画をロングスパンでできるといいなと思います。今も3年計画の連載などを担当していますが、1つのクライアントを長年追い続けたいです。
あとは、面白い人やエッジの効いたテーマを立てて、複数の広告主を募った特別サイトも立ち上げてみたいですね。「広告だと思わずに読んじゃった」という読者をたくさん生み出せたら、何よりもうれしいです。


インタビュー中、「視点」のお話や「自分ごと」という言葉が何度も登場しました。齋藤さんの作るものには嘘がないと思えるのは、つねに自分の目で見て、自分の言葉で発信しているからだと気づかされました。コンプレックスだったと話していた「何もない自分」。「何もない」のではなく、何ものにも自分視点で対峙する、芯の強い女性でした。(折野美佳)




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