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【D&D】ソス卿の悲劇: バンシーの歌声から読み解く愛と喪失の物語

ドラゴンランス女王竜の暗き翼』の発売を契機として、ドラゴンランスに関心を寄せる方が増えています。
 本記事では、物語のなかで最大の敵役であるソス卿について、未訳小説の紹介も交えながら彼の生涯を辿ってみたいと思います。


黒薔薇の騎士の物語

 マーガレット・ワイスとトレイシー・ヒックマンによる小説『ドラゴンランス』によると、ソス卿の生涯は一般的にはこのように伝えられてきました。

 ソス卿はソラムニアの真摯な騎士でしたが、極めて情熱的で自己主張が強く、その結果、身の破滅を招くこととなりました。既婚者であるにもかかわらず、彼は美しいエルフの乙女に心を奪われ、聖なる誓いや騎士の誓いを軽んじ、情熱に身を任せました。妻を忘れ、乙女を誘惑し、結婚の約束を果たすべくダルガールド城砦に彼女を連れて行きました。奇妙なことに、妻は行方不明になり、物語が複雑に入り組んでいきます。

 エルフの乙女はソスの悪行を知りながらも、彼に対して誠実であり続けました。乙女は女神ミシャカルに祈り、ソスが名誉を回復できるようにと願いました。祈りが叶い、ソスは<大変動>を防ぐ力を手に入れますが、その代償は自身の命でした。深い愛を得たソスは、イスタルに向けて旅立ちます。

 しかし、途中でエルフの女たちに遭遇し、神官王の妨害を受けます。彼女たちは乙女の愛の力を弱めるために嘘をほのめかし、ソスの理性を奪います。激しい嫉妬に囚われ、ソスはダルガールド城砦に戻り、無実の乙女を非難します。その瞬間、<大変動>が起こり、城砦は炎に包まれます。乙女とその子供は炎に焼かれ、乙女はソスを呪い、永遠に忌まわしい運命を生きるよう告げました。ソスとその仲間たちは炎に焼かれ、忌まわしい新たな姿に変わって生まれ変わったのです。

『ドラゴンランス』 KADOKAWAより
 

ソス卿の若き日の軌跡

 エド・ヴァン・ベルコムが描く『ソス卿』では、ソス卿の若い頃が鮮やかに綴られています。彼はかつてはソラムニア騎士団の一員であり、善の戦士としての道を歩んでいましたが、不倫や探求の失敗により堕落し、死後に邪悪な不死者として蘇る過程が描かれています。

Lord Soth: The WarriorsⅥ

 物語の始まりでは、ソス(当時の名前はローレン・ソス)は家督を確保するために、父であるアインケル・ソスの不倫で生まれた異母弟妹たちを暗殺するよう忠実な騎士であるカラドックに命じます。カラドックは冷酷な任務を遂行し、ソスに報告します。こうしてソスはナイトルンドの領地を継ぎ、薔薇勲爵士団への昇格を目指します。自身の家系や功績を自慢し、薔薇勲爵士団の評議会はソスを一致団結して受け入れ、ダルガールド城砦の領主に任命します。数か月後、ソスはパランサスの貴族の娘であるコリンヌ・グラドリアと、ダルガールド城砦の外で華やかな結婚式を挙げました。

 レイナード・グラドリア卿とその妻レイラ、すなわちコリンヌの両親は、彼女の持参金としてメイルゴス周辺の土地とソラムニア平原の北端の土地の権利書をソスに贈りました。これにより、ナイトルンドの西の境界はヴィンガールド川を越え、パランサスとの距離が短くなります。


ソス夫婦の複雑な愛の物語

 結婚後、子供を授かることができない悩みを抱えるソス夫婦。ある日、ソスはパランサスで開催される騎士会議に向かう途中で、オーガに襲われたエルフの巡礼団を救うことになりました。そのなかで美しいエルフの乙女、イゾルデ・デニッサに心を奪われ、彼女をダルガールド城砦に連れ帰ることを決意します。ダルガールド城砦に到着すると、ソスは複雑な気持ちになり、イゾルデを治癒師のイシュトヴァーンのもとに預けます。コリンヌとの再会もあり、ソスは子供についての話題を避けることで彼女に不安を抱かせるのでした。
 ソスは妻のコリンヌとの関係に戸惑いを感じつつも、イゾルデに惹かれていきました。ソスは妻との間に子供が出来ないことをイゾルデに告白し、彼女とキスを交わします。覗き見していた侍女のミレルはそのことをコリンヌに打ち明けます。
 さらに、ソス卿は、ヴィンガールド城に呼び出されますが、そこで何も重要なことがないことに気づきます。彼は、コリンヌの従兄であるアーヴィン卿が、彼を城砦から遠ざけるために嘘の手紙を送ったのだと疑います。ヴィンガールド城での出来事で、ソスはコリンヌの従兄であるアーヴィン卿の陰謀を疑うようになります。
 一方で、このままでは全てを失いかねないと、コリンヌは子供を欲しいと願い、魔法によって子供を授かるために山の中の魔女を訪れます。しかし、その魔法の成功はソス卿の徳に依存していることが判明します。
 ソス卿夫人の懐妊の知らせに城内は祝福ムードに包まれますが、イゾルデもまたソス卿の子を宿していることを告げ、物語は一気に緊張感を増していきます。 

ソス卿の複雑な心の闘い

 ソスは、愛人のイゾルデが妊娠していることを知りますが、自分の非嫡出子が城に問題を引き起こすことを心配しています。父親と同じ過ちを犯したことに気づき、その事実にショックを受けます。
 一方で、ソスの妻であるコリンヌは子供の出産間近となり、ひどい陣痛に苦しんでいます。ソスはイゾルデの部屋から呼び出され、急いでコリンヌのもとに駆けつけます。しかし、生まれた赤ん坊は醜悪な化け物の姿をしていました。コリンヌはソスの魂の純潔さが子供の健康に影響するという魔女の言葉を思い出し、ソスを責め立てます。
 ソスはついに耐えられず、コリンヌと子供が死んだと嘘をつき、自らの部屋に閉じこもります。彼は後に、コリンヌと子供を残忍に殺し、火葬します。一方で、イゾルデはソスの嘘を信じ、彼との結婚を望むかのように思えます。ソスの内面の葛藤と複雑な関係が、物語を深化させています。
 ソスは魔女の小屋に向かいますが、魔女はすでに姿を消していました。怒りに震えるソスは小屋を破壊します。一方で、侍女のミレルはソスの不倫と殺人に関する証言を最高裁判事であるカラデン卿に伝えます。カラデン卿はソスを召喚し、高等裁判所での騎士審理が始まります。
 真実を話すように強制する呪文にかけられたイシュトヴァーンの証言により、ソスは妻と子供を殺害したと判決を受け、翌日の処刑が決定されます。ソスはカートに縛られて市中引き回され、その時、彼を救出する計画が立てられます。

ソス卿の逃亡劇

 処刑場でソスと騎士たちは脱出を試み、ソスは斧を奪って鎖を切り、馬に飛び乗ります。追跡を受けながら<大司教の塔>に向かい、山に逃げ込み、装甲を捨てて馬の負担を減らします。運命の手と呼ばれる山の端に到達したソスの騎士たちは平原に出て、ダルガールド城砦に向かいます。途中で追いつかれつつも、城砦の騎士たちと合流し、城に入ります。ソスの馬は倒れ、彼は別の馬に乗り換えます。
 ダルガールド城砦の騎士の奮闘もあり、パランサスの騎士たちは城の前で立ち止まります。条件が告げられ、ソスはソラムニアの騎士団から除名され、ナイトルンドを出ると処刑されることに同意します。白煙を上げて条件を受け入れ、パランサスの騎士たちは引き返します。

ソス卿の運命、燃える城砦と永遠の苦しみ

 夜、ソスは悪夢を見ます。息子ペラデュールを捜し求め、燃え盛る城の内部を駆けまわるソス。しかし、炎に包まれたマントを投げ捨てると、すぐに炎に包まれます。やがて、子供部屋に到達し、ペラデュールの声に導かれたその先には、魔女の姿をした老婆が待ち受けていました。ソスは絶望と恐怖の中で魔女に立ち向かいます。
 イゾルデはソスを夢から覚まそうとしますが、ソスは自らの探求について語り始めます。ミシャカルの啓示を受けたと言うイゾルデは、ソスにイスタルの神官王に立ち向かい、<大変動>を防ぐことができると伝えます。ソスは自身の死を理解し、イゾルデの決意に驚嘆します。ソスとイゾルデの激しい口論。ソスはイゾルデを裏切り者と呼び、子供の父親が自分ではないのではと疑います。イゾルデはソスを愛していると訴えますが、ソスは耳を貸そうとしませんでした。

 神官王をとめるソスの試みが失敗に終わったまさにその時、イスタルに堕ちた火の山の衝撃が城を揺らしたのです。ソスの城砦は崩壊し、炎に包まれます。イゾルデは落下するシャンデリアに突き刺され、火傷を負います。彼女はソスに子供を救うよう懇願しますが、ソスは拒絶します。ソスに忠実な騎士たちは、城から逃げようとしますが、火に追い込まれて命を落とします。ソスは死なずに不死の騎士となり、城に籠ります。
 ソスが殺したエルフの乙女たちの霊は、バンシーへと変わり果て、ソスを苦しめるのでした。彼らはソスの罪を歌い、彼の心を引き裂きます。ソスは死も眠りも得られず、永遠の苦しみに耐える運命を迎えることになるのです。

終わりに

 次回はレイヴンロフトをさ迷うことになったソス卿について語りたいと思います。

Shadow of the Dragon Queen Alt-Cover


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