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手元に置きたい

ーー だって私の手元に無いと、朝ごはん食べた後に飲むお薬が無いでしょう?

 姑は非難がましく訴える。
 自分の手で薬を管理したいのだ。仕切りのあるお菓子の小箱をピルケース代わりに、朝昼晩と飲む薬を揃えて、姑は服薬をきちんと管理してきた。それが今、何故許されないのかと怒っている。

 昨年実母が他界し、私自身の手術も同時期にあり、葬式・手術・納骨と慌ただしく過ぎ年も暮れようという頃、今度は姑のかかりつけの病院から連絡があった。

ーー お母さんのお薬の飲み方が少しおかしいので確認してください。
ーー 今日、お宅にお伺いしてお薬を数えたのですが、数が合いません。

 同じ頃、眼科からも連絡をもらった。

ーー 今度白内障の手術する予定ですが、どうかご家族も一緒に説明を受けてください。ところで、お母さん最近少し様子が変わってませんか?

 ついに来るべき時が来たか。
 二年程前、姑は自ら「物忘れ外来」にかかりたいと、私を付き添わせて総合病院に行ったのだが、診察を受けても結果は特に問題無し。しかし、姑は日々変調を感じていたのだろう。
 物忘れ外来にかかる事で、生活にかかる支障が解決するのではないか、そんな風に期待していたのだろうけれど、その時にはなんら手立ては得られなかった。
 そして、心配事がもっと切実になってから、助けの手が差し伸べられる事になった。あの時、姑が願ったような、頭にかかった霧が晴れるような解決ではなかったけれど。

 まずは内科。
 母の顔馴染みの看護師さんが私に丁寧に説明してくれる。出した薬と残った薬の数が合わない。地域包括センターを訪ねて、今後のご相談をされてはどうか…
 姑は横で聞いているのだが「何言ってるかわからない」と困ったようにはにかんだ笑顔を浮かべる。バツが悪くて誤魔化してるわけではない。耳に入る言葉が、頭で理解できないのだ。

 眼科で手術の予定を聞いた後に、地域包括センターで要介護申請、ケアマネージャーさんをつけていただき、白内障手術後の点眼・服薬をどうやって行うか(増えてしまう薬の把握は本人には既にムリ)を計画、デイサービスを利用することで私が仕事に行ってる間はみていただく事に。
 問題の薬は姑の元から取り上げられ、訪問看護師さんで管理することになった。特に、血圧の薬や眠剤を正しく飲んでくれなくては困る。今は眠剤を使う事は無いのだが、何をどう間違えて多く飲んでしまうかわからないから、手持ちのものは無くしてしまった。

ーー 私か看護師さんが必ず来て、目薬を差します。お薬も必ず持ってきます。

 姑宅に行けば必ず、これを根気よく言う。気が済んでくれるまで言う。
 勿論、姑は納得してない。これまで何年も自分できちんとやってきたのだから。飲み過ぎるってことは絶対に無いわよ、と詰る。

 私達は毎日、これを繰り返してる。

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