メルマガ『東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─ 』第387号「鍼灸法」(内景篇・精)

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 ◇ 東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─ ◆


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  第387号

    ○ 「鍼灸法」(内景篇・精)

        ◆ 原文
      ◆ 断句
      ◆ 読み下し
      ◆ 現代語訳
      ◆ 解説

      ◆ 編集後記


           

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 こんにちは。精の章の「鍼灸法」に入ります。
 

 ◆原文◆(原本の文字組みのままを再現・ただし原本は縦組み
      ・ページ数は底本の影印本のページ数)


 (「鍼灸法」p86 下段・内景篇・精)


         遺精夢泄心兪白環兪膏肓兪腎兪中極關元
    等穴或鍼或灸綱目〇失精精溢中極大赫然谷
  太衝等穴皆主之綱目〇虚勞失精宜取大赫中封
  綱目〇遺精五藏虚竭灸曲骨端一穴四七壯穴在
  前陰橫骨中央曲如月中央是也綱目〇便濁失精
  取腎兪夢泄精取三陰交各灸二七壯神效得效


 ▼断句▼(原文に句読点を挿入、改行は任意)

  遺精夢泄、心兪・白環兪・膏肓兪・腎兪・中極

  ・關元等穴、或鍼、或灸。綱目。


  失精精溢、中極・大赫・然谷・太衝等穴、

  皆主之。綱目。


  虚勞失精、宜取大赫・中封。綱目。


  遺精、五藏虚竭、灸曲骨端一穴、四七壯。

  穴在前陰橫骨中央、曲如月中央是也。綱目。


  便濁、失精、取腎兪。夢泄精、取三陰交、

  各灸二七壯神效。得效。


 ●語法・語釈●(主要な、または難解な語句の用法・意味)

 
 ▲訓読▲(読み下し)

  遺精(いせい)夢泄(むせつ)に、心兪(しんゆ)

  ・白環兪(はっかんゆ)・膏肓兪(こうこうゆ)

  ・腎兪(じんゆ)・中極(ちゅうきょく)

  ・關元(かんげん)等(とう)の穴(けつ)に、

  或(あるい)は鍼(はり)、或(あるい)は

  灸(きゅう)す。綱目(こうもく)。


  失精(しっせい)精溢(せいいつ)には、

  中極(ちゅうきょく)・大赫(だいかく)

  ・然谷(ねんこく)・太衝(たいしょう)

  等(とう)の穴(けつ)に、皆(み)な

  之(これ)を主(つかさど)る。綱目(こうもく)。


  虚勞(きょろう)失精(しっせい)には、

  宜(よろし)く大赫(だいかく)

  ・中封(ちゅうほう)に取(と)るべし。

  綱目(こうもく)。


  遺精(いせい)は、五藏(ごぞう)虚竭(きょかつ)す、

  灸曲骨(きょくこつ)の端(たん)一穴(いっけつ)に

  灸(きゅう)す、四七壯(ししちそう)。

  穴(けつ)は前陰(ぜんいん)橫骨(おうこつ)

  中央(ちゅうおう)に在(あ)り、曲(まがっ)て

  月(つき)の如(ごと)くの中央(ちゅうおう)

  是(これ)なり。綱目(こうもく)。


  便濁(べんだく)、失精(しっせい)には、

  腎兪(じんゆ)を取(と)る。夢(ゆめ)に精(せい)を

  泄(せっ)するには、三陰交(さんいんこう)に取(と)り、

  各(をのをの)二七壯(にしちそう)を灸(きゅう)すれば

  神效(しんこう)あり。得效(とっこう)


 ■現代語訳■
  
  遺精や夢泄には、心兪・白環兪・膏肓兪・腎兪・中極
  ・関元などの穴に、鍼または灸をする。『綱目』

  失精や精溢には、中極・大赫・然谷・太衝などの穴を、
  主として用いる。『綱目』

  虚労による失精には、大赫・中封を取ると良い。『綱目』

  遺精により、五臓が虚して竭きた者には、曲骨の端の一穴に、
  二十八壮の灸をすえる。穴は前陰の橫骨中央に在り、
  月のように曲がった部位の中央である。『綱目』

  小便の白濁し失精する者には、腎兪を取り、
  夢精には、三陰交を取り、それぞれ十四壮を灸すれば、
  神効がある。『得效』

 ★ 解説 ★

 精の最後の項目、鍼灸法です。これで全てです。

 鍼灸法の項目の記述の様式は、だいたい上に見るように、症候を上げ、それに経穴名を列挙し、「~を取る」とするのが通例です。

 ここでも文章が5段記され、それぞれに経穴が列挙されています。

 生薬の処方では後の湯液篇に個々の生薬の解説があるように、鍼灸法で挙げられた経穴は、それぞれ鍼灸篇の章に解説があり、そちらを参照することで、それぞれの経穴がどの経絡に属するのか、どんな効用を持つのかが吟味できるようになっています。

 先行訳では5つの文のうち、はじめの3つを取り上げ、後の2つを省略しています。そしてそれぞれ挙げられた引用書名の5つを全て省略しています。

 そして3つ目を、

  虚労と失精には、大赫・中封の方を取る。

 としています。私は「虚労と失精」ではなく、上で見たように「虚労による失精」としました。どちらが妥当でしょうか?

 原文では無情にも(?)単に「虚勞失精」としてあるだけです。

 翻訳をしていて難しいことのひとつに、この点があります。熟語の前後がどつ繋がるのか、内容を吟味しないと全く読めないのです。

 この場合は、「虚労と失精」と並列なのか、それとも「虚労による失精」なのか、東医宝鑑、ひいては東洋医学分野全体の体系に鑑みて、それぞれの用語を熟知した上で決定する必要があるのです。

 それがわからないと、「虚労と失精」なのか、「虚労による失精」なのかという、原文で言うと「虚勞失精」、たったこれだけの文でさえ読めないのですね。

 「虚労と失精」と「虚労による失精」、似ているようですが、意味は全く違います。何がどう違うのか、どちらが妥当なのか、立ち止まって吟味していただけたらと思います。

 ◆ 編集後記

 1号で鍼灸法を全て読むことができました。これでようやく精の章を通し読みができました。この精の章を読み始めたのが2019年の1月27日ですので、この章を読むだけで1年半以上、約2年近くもかかったことになります。

 次に読むところを考えたのですが、このまま順当に次の章、「気」を読むことにしました。

 なぜかと言うと、順番でもありますが、「気」は現在の医学には無い概念で、かつ東洋医学においてはひとつの根幹ともいうべき概念でもあると思うからで、これを通して読むことで、気とは何か、東医宝鑑、ひいては東洋医学では気というものをどのように把握しているのか、を明らかにできるのでは、という考えからです。

 早速次号から気の章に入ります。続きもどうぞお楽しみに。

                      (2020.10.25.第387号)
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