メルマガ『東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─ 』第393号「氣生於穀」(内景篇・氣)2

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 ◇ 東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─ ◆


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  第393号

    ○ 「氣生於穀」(内景篇・氣)

        ◆ 原文
      ◆ 断句
      ◆ 読み下し
      ◆ 現代語訳
      ◆ 解説

      ◆ 編集後記
           

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 こんにちは。気の章「氣生於穀」に入ります。
 

 ◆原文◆(原本の文字組みのままを再現・ただし原本は縦組み
      ・ページ数は底本の影印本のページ数)


 (「氣生於穀」p86 下段・内景篇・氣)


        又曰上焦開發宣五穀味
   熏膚充身澤毛若霧露之漑是謂氣
              

 ▼断句▼(原文に句読点を挿入、改行は任意)


  又曰、上焦開發、宣五穀味、熏膚、充身、

  澤毛、若霧露之漑、是謂氣。


 ●語法・語釈●(主要な、または難解な語句の用法・意味)

 ▲訓読▲(読み下し)

  又(また)曰(いは)く、上焦(じょうしょう)は

  開發(かいはつ)して、五穀(ごこく)の味(あじ)を

  宣(の)べ、膚(ふ)に熏(くん)じ、身(み)に

  充(み)ち、毛(け)を澤(うるほ)すこと、

  霧露(むろ)の漑(そそ)ぐが若(ごと)し、

  是(これ)を氣(き)と謂(い)ふ。

 ■現代語訳■
  
  また言う、上焦が開き発し、五穀の味を広く伝え、

  皮膚を薫じ、全身に充ち、毛髪を潤すことは、

  霧や露が万物に注ぐようであり、これを気と呼ぶ。


 ★ 解説 ★

 気の章の「氣生於穀」の続きです。また別の説を紹介しています。
 引用は前号部分と同じ霊枢です。

 原文の「開發(開発)」は、今の日本語では「国土の開発」のように本来の漢語とは違った意味で用いられるので、そのまま訳語に用いるとニュアンスが違って読めてしまい、かと言って他の語句に置き換えるとそれもまた原文の意義から離れそうで、「開き発し」と訓読したのみにしておきました。

 そもそもここに登場する「上焦」を含めた「三焦」が何なのかについては、これまた東洋医学で古来諸説あるところですが、ここでは触れないでおきたいと思います。反対にここで説かれた「気」から逆算して「上焦」を考察すれば、霊枢のこの部分が説いている上焦がどのようなものかを割り出す手がかりのひとつになりそうです。

 そしてその行き先を「熏膚、充身、澤毛」と「膚、身、毛」の三つを挙げています。訳では「皮膚、全身、毛髪」としたのですが、「全身」とすると前後の「膚」も「毛」も含んでしまうことになるので、ここで言っている「身」はもっと限定的な意味合いと読み取ることもできます。

 最後の譬えとして用いられている「霧露」は、訳では「霧と露」と分けましたが、この語で霧だけを指す意味もあります。
 ここではどちらが良さそうかというと、前の部分では、気が広がっていって、潤す、という作用を言っているので、霧が気体のように広がり、届いた場所では液体のように潤すことをイメージすれば、やはり広がる「霧」と、濡らす「露」とのワンセットで考えられているのでは、と読めそうです。

 いつもながらたったこれだけの短い文にいくらでも掘り下げるべき要素があり、深く正確な読解の難しさを感じます。

 特に東医宝鑑発の文章ならここから読みを始めればよいのですが、このように霊枢や素問から引用することが多く、これらは歴史的に個々の部分で意味が諸説分かれるのですね。

 ですので東医宝鑑を訳すということは、歴史的に読みが分かれる素問や霊枢の難読部分にも一定の見解と訳を提示しなければいけないということでもあり、なおさらの難しさを実感します。
 反対に、読みと訳に行き詰ったら、引用元の諸説を辿れば読みやすくなるということも言え、古人の説を利用しつつ、かつそこに時には新しい見解を加えた訳を提出することの難しさと、また面白さがあると言えるかもしれません。
 
 前号で書いたように先行訳にはこの部分の訳はありません。先行訳をお持ちの方は、しばらく先行訳に無い部分を読みますので読みがいがある部分でもあると思います。 

 ◆ 編集後記

 気の章の「氣生於穀」の続きです。文が短いですが、次の文が長いので、今号は段落ひとつでお届けしました。

 今号で通算400号の配信となりました(ブログでは号数修正のため393号)。既に10年近い配信を続けており、このペースでは絶対に全訳が終了しませんので、並行して全体の訳出を進めていることは既にお伝えしました。

 引き続き、できるだけ早く、かつできるだけ正確な全訳をお手元にお届けする日を描きながら、鋭意翻訳作業を続けたいと思います。

                      (2020.11.22.第393号)
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